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時の物語(易経短編小説集・近日中に出版予定)20

十九.どんどん進む時

 次は「どんどん進む時」の物語である。時には循環がある。これ以上良くなりようがないほど良い時。これ以上悪くなりようがないほど悪い時。良い時から悪い時に向かっている衰運の時。悪い時から良い時に向かっている盛運の時。「どんどん進む時」は悪い時から良い時に向かっている盛運の時である。盛運の中の盛運の時である。人にも組織にも時の循環がある。「どんどん進む時」は時の循環の中で「進み始める時」の次に位置している。「進み始める時」はこれ以上悪くなりようがないほど悪い時の次に位置している。だから、見た目にはほとんど進んでいるように見えない。「どんどん進む時」は目に見えて進む時である。
 どんな人でも組織でも「どんどん進む時」を経験したことがあるはずだ。その時のことを思い出してほしい。できれば常に「どんどん進む時」に居たいものだが、時は循環なのでそうもいかない。「どんどん進む時」があれば「どんどん下る時」もある。「どんどん進む時」に居る時はチャンスを掴める時である。このチャンスを逃してはならない。

 「どんどん進む時」の主人公は「二.素直に順う時」に登場した大学を卒業して社会人になったばかりの「あなた(わたし)」である。

 わたしは昨年の春に大学を卒業して希望していた出版社に入ることができた。一年目は新入社員研修を半年間受講して、残りの半年は配属された職場(編集部執筆依頼課)で見習いとして仕事をした。二年目からは見習いが外れ一社員として仕事を任されるようになった。昔から本が大好きなわたしは仕事が楽しくて、疑問や分からないことがあると先輩に聞いたり調べたりして直ぐに解決するようにしている。やればやるほど益々仕事が面白くなり毎日が充実している。わたしが配属された「編集部執筆依頼課」の仕事は、わが社が出版している文芸雑誌に登壇する作家先生に執筆依頼したり、依頼した原稿を締め切りまでに回収することである。執筆依頼課には十人の社員が配属されており、一人の社員が二~三人の作家先生の担当者として、原稿の依頼・回収・内容の確認などをしている。以下省略。