易経は、今から四~五千年前、神話・伝説(古代の中国)に登場する伏羲(ふっき)が考案した「八卦(はっか)」と「六十四卦(ろくじゅうしか)」を基本原理とする東洋最古の古典です。三千年前に文王と周公旦が文章を書き、二千五百年前に孔子が文章を書き加えて仕上げました。
易経の基本原理は八卦の作成過程を示した八卦太極図にあります。
八卦太極図について説明します。太極とは宇宙の根源的エネルギー(元氣)です。このエネルギー(元氣)があるから万物が存在するのです。太極のない状態は何もない状態です。空間も物質もない。時間もなければ感情もない。完全なる「無」です。「無」からは何も生まれません。太極という宇宙の根源的エネルギーがなければ何も生まれません。全ては太極から始まるのです。
日本の神話「古事記」は、次のような文章で始まります。
「天地(あめつち)初發(はじめ)の時、高天原(たかあまはら)に成りませる神の名(みな)は、天之御中主(あまのみなかぬし)の神」
天之御中主(あまのみなかぬし)の神とは「易経」の太極のことです。太極である天之御中主(あまのみなかぬし)の神が宇宙空間に成りました(泉のように湧き出てきた)のです。古事記には、宇宙・高天原(たかあまはら)はの天之御中主(あまのみなかぬし)の神(すなわち太極)から始まったと書いてあります。天之御中主(あまのみなかぬし)の神は八卦太極図の太極そのものなのです。
太極は宇宙の根源的エネルギーですが、太極のままでは宇宙は誕生しません。太極の中に潜んでいる「陽(⚊)」なる存在と「陰(⚋)」なる存在が結合して(結ばれて)初めて宇宙が誕生します。「陽(⚊)」の役割は、万物を誕生させるためにシナリオを描いてエネルギーを発することです。「陰(⚋)」の役割は、万物を誕生させるために「陽(⚊)」が発するエネルギーを受け容れて(陽と陰が結合して)、「陽(⚊)」が描いたシナリオを実現すべく万物を生み出すことです。
「古事記」には、天之御中主(あまのみなかぬし)の神に続いて、高御産巣日(たかみむすひ)の神と神産巣日(かみむすひ)の神が成りまし(湧き出てき)ます。「陽(⚊)」が高御産巣日(たかみむすひ)の神で、「陰(⚋)」が神産巣日(かみむすひ)の神です。「陽(⚊)」と「陰(⚋)」が結合して「大陽(⚌)」「少陰(⚍)」「少陽(⚎)」「大陰(⚏)」を生み出します。「古事記」では「少陰(⚍)」を宇摩志阿斯訶備比古遲(うましあしかびひこじ)の神といい、「少陽(⚍)」を天之常立(あまのとこたち)の神といいます。すなわち、「陽(⚊)」の高御産巣日(たかみむすひ)の神と「陰(⚋)」の神産巣日(かみむすひ)の神が結合して(結ばれて)宇宙空間が誕生したのです。その宇宙空間を「乾(☰)」といい、その宇宙空間に無数に存在する惑星を「坤(☷)」といいます。
八卦は宇宙空間である「乾(☰)」と宇宙空間に無数に存在している惑星である「坤(☷)」を根幹としています。八卦のうち「乾(☰)」と「坤(☷)」以外の六つの卦は「坤(☷)」の惑星を構成している基本的な要素なのです。
「坤(☷)」の惑星の凸(でつぱ)っている処を「艮(☶)」といいます。「艮(☶)」は凸(でつぱ)っているので「山」です。「山」が噴火すると「離(☲)」となります。「離(☲)」は「火」です。「火」が炸裂すると「震(☳)」となります。「震(☳)」は「雷」です。「雷」が落ちると風が吹き「巽(☴)」になります。「巽(☴)」は「風」です。
また、「坤(☷)」の惑星の凹(くぼ)んでいる処を「兌(☱)」といいます。「兌(☱)」は「澤(海・湖・池・水たまり)」です。「兌(☱)」の中には「坎(☵)」があります。「坎(☵)」は「水」です。
以上が八卦です。八卦は宇宙空間とその中に無数に存在する惑星及び惑星に存在する基本要素です。八卦は宇宙そのものであり、宇宙は八卦によって成り立っているのです。
以上のことから「易経とは何か?」と聞かれれば、答えは「宇宙学」です。宇宙で起こることは全て易経に書いてあります。易経を学ぶことによって、わたしたちの人生で起こることを全て解明することができます。易経はわたしたちの人生のパートナーなのです。
中国の古典である易経が日本に伝わったのは西暦500年代と考えられます。604年に聖徳太子が制定した十七条憲法の原文を読むと易経の影響が感じられるからです。以来、易経は最初は朝廷の学問として取り入れられ、鎌倉時代になると禅僧に研究されるようになりました。その後、戦国時代になると武士も学ぶようになり、易占いを軍事や人事に活かしました。江戸時代には四書五経(儒教)を研究した朱熹(しゅき)の朱子学が幕府が奨励する官学となったので、四書五経の筆頭である易経は多くの人に学ばれるようになり、易経・易占いの研究者も沢山現れて庶民にまで広がったようです。以上のように、易経は古くから日本に親しみ学ばれたので、元号の出典として易経の言葉が沢山使われています。「明治」や「大正」も易経が出典です。(黒岩重人著「易を読むために・易学基礎講座」藤原書店を参考にしました。)