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陰陽古事記伝 はじめに

はじめに

 わたしが古事記を読む目的は、古事記を学術的に読むのではなく、古事記の文章や物語の中にぎっしりと詰まっている「日本人の価値観」を知りたいからである。その目的を達成するために、手当たり次第に色々な解説書を読んでみた。参考になる解説書は山ほどあったが、全体を通して完全に納得できる解説書は一冊もなかった。
 そこで、易経をベースにした独自の古事記を書いてみようと思った。なぜ、易経がベースかと云うと、古事記本文の出だしの文章を初めて読んだ瞬間、「あっこれは易経だ」と思ったからである。易経はすでに二十年近く学んでおり、一通りの理解をしているものと自負している。古事記を読んだ瞬間に「易経」だと思ったのは、古事記が陰陽の法則に基づいて描かれているからである。古事記に関する著書については、次の二冊を参考にした。特に「二」については、大胆な古事記の解釈として参考にしただけでなく、長文を引用や抜粋として取り上げさせていただいた。
 一 林英臣著 やまとことば伝説 博進堂
 二 阿部國治著・栗山要編 新釈古事記伝 第一集~第七集 致知出版社
 本のタイトルは、「陰陽古事記伝 阿部國治先生に捧げる」とした。

天地創造

□あらすじ
 造(ぞう)化(か)参(さん)神(しん)(天(あま)之(の)御(み)中(なか)主(ぬし)の神、高(たか)御(み)産(む)巣(す)日(ひ)の神、神(かみ)産(む)巣(す)日(ひ)の神)により宇宙空間が誕生した。

【書き下し文】
天(あめ)地(つち)初發(はじめ)の時、高(たか)天(あま)原(はら)に成りませる神の名(みな)は、天(あま)之(の)御(み)中(なか)主(ぬし)の神【高の下の天を訓(よ)み阿(あ)麻(ま)と云う。下(しも)、此(これ)に效(なら)え】。次に高(たか)御(み)産(む)巣(す)日(ひ)の神。次に神(かみ)産(む)巣(す)日(ひ)の神。此(こ)の三(み)柱(はしら)の神はみな獨(ひとり)神(がみ)と成り坐(まし)て、身を隱したもう。

〇通釈(一般的な解釈)
 天(あめ)地(つち)創造(はじめ)の時、巨大な宇宙空間の高く広い所「高(たか)天(あま)原(はら)(天を「あま」と読む)」に現れ出た天(あめ)地(つち)創造(はじめ)の根源的なパワー(元氣)を具えた神様は「天(あま)之(の)御(み)中(なか)主(ぬし)の神」である。次に現れた陽の神様は「高(たか)御(み)産(む)巣(す)日(ひ)の神」である。次に現れた陰の神様は「神(かみ)産(む)巣(す)日(ひ)の神」である。以上の三柱の神様方は、天地創造の根源的な神様だから姿形はなく、誰の目にも見えないのである。

〇超釈(筆者独自の超意訳)
 太安万侶は大地に足を踏み締めて、両手を大きく広げて天にかざし天地創造の時に思いを寄せた。そして、「何(なあん)にもないところから天地宇宙は創造されたに違いない」と確信して、次のように古事記を書き始めたのである。
 天地創造は根源的な命の泉が湧き上がるところから始まった。命の泉が湧き上がり巨大な空間が天高く開けていった。その空間を「高(たか)天(あま)原(はら)」と名付ける。
 高天原は根源的な命の泉である「天(あま)之(の)御(み)中(なか)主(ぬし)の神」のパワー(元氣)の現れである。「天(あま)之(の)御(み)中(なか)主(ぬし)の神」の中には陽の神様と陰の神様が混在している。
 陽の神様を「高(たか)御(み)産(む)巣(す)日(ひ)の神」、陰の神様を「神(かみ)産(む)巣(す)日(ひ)の神」と名付ける。
 「高(たか)御(み)産(む)巣(す)日(ひ)の神」を平仮名で表記すると「た・かみ・むすひ」と言い、「神(かみ)産(む)巣(す)日(ひ)の神」を平仮名で表記すると「かみ・むすひ」と言う。
 「た・かみ・むすひ」の「た」とは、やまと言葉で「たねを・たくさん・たくわえている」の意味である。
 高(たか)御(み)産(む)巣(す)日(ひ)の神は、その「たね」を発して、神(かみ)産(む)巣(す)日(ひ)の神が受け容れた。高(たか)御(み)産(む)巣(す)日(ひ)の神と神(かみ)産(む)巣(す)日(ひ)の神は「むすひ」により結ばれて、神(かみ)産(む)巣(す)日(ひ)の神が「かみ・かむ(醸(かも)す)」ことにより無形(空)の「たね」から、有形(色)で巨大な宇宙空間が産み出されたのである。
 天地宇宙の根源的なエネルギー(元氣)である「天(あま)之(の)御(み)中(なか)主(ぬし)の神(命の根源的な泉である「元氣」の神様)」の中には陽の神様「高(たか)御(み)産(む)巣(す)日(ひ)の神(元氣の方向性、すなわちビジョン・シナリオ・ミッション・志・目的を描いて、それを実現するために元氣=エネルギーを天(あま)之(の)御(み)中(なか)主(ぬし)の神(命の泉)から引き出して、陰の神様に向かって発する「志」の神様)」と陰の神様「神(かみ)産(む)巣(す)日(ひ)の神(陽の神様が発した元氣・エネルギーを素直にそのまま受け容れて、陽の神様が描いた元氣の方向性を具体的に実現するために萬物を生み出す「実行」の神様)」が混在しており、これらの神々の働きによって天地宇宙が始まったのだ。
 この三柱の神々(総称して「造(ぞう)化(か)参(さん)神(しん)」と名付ける)は、天地宇宙の根源的な命の泉なので姿形はなく、誰の目にも見えないのである。