困 六三 ・|| ・|・
六三。困于石、據于蒺藜。入于其宮、不見其妻。凶。
□六三。石に困(くる)しみ、蒺(しつ)藜(れい)に拠(よ)る。其(その)宮(きゆう)に入(はい)り、其(その)妻を見ず。凶。
上に進もうとすれば九四と九五に、下に進もうとすれば九二に阻まれる。刺のある蔓(つる)草(くさ)(九二)の上に居るように甚だ落ち着かない。進退阻まれ、家に帰ると妻にも見限られる。
誰にも相手にされない。八方塞がり。どうにもならない。
象曰、據于蒺藜、乘剛也。入于其宮、不見其妻、不祥也。
□蒺(しつ)藜(れい)に拠(よ)るとは、剛に乗る也。其(その)宮(きゆう)に入(はい)り、其(その)妻を見ずとは、不(ふ)祥(しよう)なる也。
甚だ落ち着かない。小人が君子(九二)の上に居るからである。
妻にも見限られ、誰にも相手にされない。不吉なことが起こる前兆である。
以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての原文の一部。
(占)衰運極度ニ達シ、困苦ニ迫リテ、一家離散セントスルノ時トス、其原因ハ交ル可ラザル者ヲ友トシ、詮ナキ事業ヲ始メタルヨリ、進退維レ谷リタル者トス、・・・
以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての現代語訳。
(占)衰運が極度に達して、困苦を招き寄せ、一家離散するような時である。悪しき友と共同で事業を始めたことが直接的な原因で進退窮まった。自分が行ったことの過ちを反省して、神仏に祈るような気持ちで占筮して、今後の方向性を見いだすべき時である。
○針の筵(むしろ)に坐っているように進退窮まる。自分は困窮して、人には迷惑をかける時である。
○大凶を招き寄せる予兆がある。
○罪を犯して牢獄に入り困苦する。
以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占例の原文の一部。
(占例)明治十九年七月、余虎列拉病ヲ避ケテ、(中略)親戚ノ婦人某虎列拉病ニ罹レルトノ報至レリ、死生如何ヲ知ラズ、敢テ一占ヲ請フト、乃チ筮シテ、困ノ第三爻ヲ得タリ、
以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占例の現代語訳。
(占例)明治十九年、コレラが流行した。感染を避けるために箱根の温泉に滞留していた。東京の唐物商の藤田氏も同じ理由で同じ旅館に泊まっていたが、東京から手紙が届き、親戚の女性が感染したと云う。そこで、その女性が助かるかどうかを占ってほしいと頼まれたので、筮したところ困の三爻を得た。
易斷は次のような判断であった。
爻辞に「石に困(くる)しみ、蒺(しつ)藜(れい)に拠(よ)る」について繋辞伝に「困(くる)しむ所に非(あら)ずして困(くる)しめば、名必ず辱(はずかし)められる。拠(よ)る所非(あら)ずして拠れば、身必ず危うし。既に辱められ且つ危うければ、死期将(まさ)に至らんとす。妻(つま)其(そ)れ見るを得(う)可(べ)けんや」とある。「困(くる)しむ所に非(あら)ずして困(くる)しむ」とは、コレラは通常の病気ではないので、名医でも治すことはできないと云うこと。できることは遠隔地に避難して伝染を避けることだけである。もし不幸にして感染した場合は、名医と良薬が揃っても治すことはできない。感染病の威力は激烈で良薬も効かない。あなたが遠隔地に居て感染者のことを心配することを「困(くる)しむ所に非(あら)ずして困(くる)しむ」と云う。
今回占って三爻が出た。三爻は、不中不正で坎険の極点に居るので、不治の感染病にかかったのである。このことを「既に辱められ且つ危うければ、死期将(まさ)に至らんとす」と云う。「妻(つま)其(そ)れ見るを得(う)可(べ)けんや」とは、その女性は感染病で死んでしまうので二度と会えないことを云う。
この爻が変じて正しい位となれば、沢風大過となる。繋辞伝に「古(いにしえ)の葬(ほうむ)る者は、厚く之に衣(き)するに薪(たきぎ)を以てし、之を中(ちゆう)野(や)に葬(ほうむ)り、封(ほう)ぜずして樹(じゆ)せず、喪(そう)期(き)数(すう)無し。後世、聖人、之に易(か)うるに棺(かん)椁(かく)を以てす。蓋(けだ)し諸(これ)を大過に取る」とある。
今、あなたが心配している女性は既に死んで棺桶の中に在る。もはやどうすることもできないと易断した。
翌日、藤田氏に電報が届き、その女性が死んだことが告知されていた。その女性が棺桶に入った時刻は、占筮した時刻と同じだったと云う。