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期間限定「現代語訳(超意訳) 呑象高島嘉右衛門著 増補 高島易斷 上下巻 占例篇」 山風蠱

十八 山風蠱 |・・ ||・

蠱、元亨。利渉大川。先甲三日、後甲三日。
□蠱(こ)は元に亨る。大川を渉るに利し。甲に先だつこと三日、甲に後(おく)るること三日。
 蠱は惑乱・腐敗・頽廃・崩壊が進み、窮まり、一変して通じる時。窮して後、変革が起こり、何事もすらすら通る。勇気を奮い起こして幾多の艱難辛苦に対処するがよい。先ず根本的原因を探り、次に抜本的対策を熟慮し、その弊害と収拾を見据えてから対処するのである。
彖曰、蠱、剛上而柔下。巽而止蠱。蠱元亨而天下治也。利渉大川、往有功也。先甲三日、後甲三日、終則有始、天行也。
□蠱は剛上りて柔下る。巽にして止まるは蠱なり。蠱は元に亨りて天下治まる也。大川を渉るに利しとは、往きて功有る也。甲に先だつこと三日、甲に後るること三日とは、終れば則ち始め有り、天行也。
 蠱は艮(剛)が上に、巽(柔)が下に在る。泰の初九と上六が入れ替わった形。剛は上り柔は下り交わらない。巽は巽順に上に阿(おもね)り諂(へつら)い上を諫(いさ)めず、艮は止まり怠り下を慮(おもんぱか)らない。国家は惑乱・腐敗・頽廃・崩壊が進み、窮まり、一変して大いに通じる。天下が治まるのである。勇気を奮い起こして幾多の艱難辛苦に対処するがよい。有事には勇(ゆう)往(おう)邁(まい)進(しん)して天下の乱れを救済するのである。先ず根本的原因を探り、次に抜本的対策を熟慮してから、対処するのである。寒(かん)暑(しよ)昼(ちゆう)夜(や)が往来するように、天の道をお手本に、事を行うのである。
象曰、山下有風蠱。君子以振民育德。
□山の下に風有るは蠱なり。君子以て民を振(ふる)い德を育(やしな)う。
 山麓に風が押し止められて惑乱・腐敗するのが蠱の形。君子は変革を断行し、人民の志を奮(ふる)い立たせて、人德を養い育てる。

 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての原文の一部。
(占)我巽フテ彼止マリ、其憑ム所ノ人我ニ應ゼズ、縱ヒ彼應諾スルモ、信憑スルヲ得ザルノ時トス、又・・・
 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての現代語訳。
(占)自分は巽順に従い相手は止まる。頼りにする相手が振り返ってくれない。振り返ってくれても、頼りにできない時。
 災害は遠くから招き寄せるのではなく、近くから発生する。
 外敵の心配をするよりも、内側から乱れることを心配する時。
 長女が少男に恋をして家族が混乱する時。
 家の財政が破綻しそうになった状態を努力して回復させる時。
 いずれも、突然ではなく、漸次に起きる。慎むべきである。
○蟻の穴が原因となって、堤防が決壊する事態に至る。
○天下泰平で驕り高ぶり奢侈に流れ、心が柔弱になり、ずる賢い小人が調子に乗って内乱を起こす。
○乱れた状態を治めて、長年積み上がった弊害を刷新する時である。力を尽くして改革を断行すべきである。
○私利私欲を追求し、大切な友に悪影響が及んでいることを省みない。
○表面は正しく実直であることを装っている。内面は優柔不断でグズグズの状態である。
○奸(かん)佞(ねい)にして斡旋する才能がある。仕事を任される器量を具えた人物である。
○自分が相手のために尽くしても、相手は自分を省みてくれない時。
○無理矢理、圧服させられる時。
○物価は最初は低いがその後高くなる。物品は粗悪品が多い。取引に支障が出ないように注意すべきである。
○破損した物事を修復する時である。
○欺(あざむ)き、諂(へつら)い、疑い、迷う時。
○寡婦が色恋沙汰を起こして家が乱れる時。
○資財を損失する。 ○臣下が君主を惑わし、妾が主を溺れさせる。

蠱 初六 |・・ ||・

初六。幹父之蠱。有子考无咎。厲終吉。
□初六。父の蠱に幹(かん)たり。子有り、考(ちち)咎无し。 厲(あや)うけれども終に吉。
 先代の事業を引き継ぎ、旧来の弊害を刷新する。事業継承者として弊害を刷新できれば、先代の名誉を傷を付けない。己の拙(つたな)さを自覚して持戒精進すれば、終に幸を得る。
象曰、幹父之蠱、意承考也。
□父の蠱に幹たりは、意(い)、考(ちち)に承(う)くる也。
 旧来の弊害を刷新する。先代の志を継承し、事業を継続発展させるのである。

 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての原文の一部。
(占)此爻父ガ事業ヲ始ルモ、運未ダ至ラズシテ、其功ヲ遂ル能ハズ、事業半途ニシテ死亡シ、其子之ヲ継續スルノ時トス、夫レ父ノ大業ヲ始ムルヤ、之ヲ成就シテ、・・・
 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての現代語訳。
(占)父親が立ち上げた事業(志半ばで父親は亡くなる)を、子供が引き継ぎ、その弊害を刷新して事業を軌道に乗せようとする時。
父親は大きな事業を立ち上げ、それを軌道に乗せ、子供に継いでもらおうと思った。だが、事業を軌道に乗せる前に亡くなってしまった。時が至らなかった。どうすることもできない。宿命である。
 事業を引き継いだ子供は、父親の志を実現するため、奮い立たなければならない。子供は父母から身体を授かり、育ててもらった恩を忘れてはならない。父親が大きな事業を立ち上げたのは、子供に引き継いでもらうためだから、子供は父親の志を引き継いで、その志を実現させなければならない。
 創意工夫して父親の思いを実現させることが、父親への恩返し。引き継いだ事業を力を尽くして手伝ってくれる人を得たら、どんなに困難な事業であっても、父親の志は必ず成就する。
○先輩の失敗を引き受けて、それを改革する時である。
○土台を残して腐敗が進んでいる事業を再生するために、周到に準備を重ねて、父親の事業を救う時である。

 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占例の原文の一部。
(占例)和歌山縣下ニ一ノ材木商アリ、其初メ煩々タル材木ヲ伐リ出シ、東京大阪ニ送リシガ後(中略)善後ノ策ヲ問フ、乃チ其男子ノ爲ニ筮シテ蠱ノ初爻ヲ得タリ、・・・
 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占例の現代語訳。
(占例)和歌山県で一番大きな材木商。最初は少しずつ材木を伐採して東京や大阪に輸送していた。やがてスポンサーを得て、大量の材木を伐採して輸送するようになった。ある時、東京で大火事が発生して材木の値段が急騰し、大きな利益を得た。その後、勢いに乗って事業を大きくしていったが、主は感冒に罹って重傷に陥り、僅か二十日程度で亡くなってしまった。残されたのは妻と十五歳になる男子のみ。主が保有していた材木の在庫は沢山あり、運送する船舶も複数ある。借入金も多額であるが、亡くなった材木商は一人で活動していたので、家族は商売の内容を何も知らない。主が急死して、妻子が悲しんだのは勿論のことであるが、それ以上に困惑したのであった。
ある日、その妻子がわたしの家にやって来て、以上の事情を話した後、どのように対処すればよいかを問われた。そこで、ご子息がどのように対処すべきかを筮したところ蠱の初爻を得た。
 易斷は次のような判断であった。
 蠱の卦は、山の下に風がある。風は万物を鼓動して大気を流通させるが、今、山の下なので、風は動かず大気は澱み虫が発生してウヨウヨしている象である。
 人事に当て嵌めれば、活発な経営者が急死、事業が滞り沢山の在庫が債権者に押さえられて腐敗しかねない時。まだ年少な、あなただが、亡父の遺業を継ぎ、困難に対処して、精一杯努力すれば、その志に債権者も感動して、あなたの努力を理解してくれる。そうなれば、支援してくれる人も現われる。だが、あなたが何もしなければ、誰も支援してくれないので債務は滞り、押さえられた材木は腐敗して、遂には全ての資産を失うに至る。
「年少でも、働こうと思えば、働ける。あなたのお父さんは、あなたに事業を引き継いでもらうために頑張ってきた。あなたはお父さんの血を引き継いでいるのだから、お父さんの志を受け継いで、事業を再生しようと努力すれば、誰もが応援したくなる。
 お父さんもあの世から応援してくれる。父子ともども、世間から称賛されて、家業を再生することができる」と易断した。
 このことを「父の蠱に幹たり。子有り、考(ちち)咎无し。厲(あや)うけれども終に吉。先代の事業を引き継ぎ、旧来の弊害を刷新する。事業継承者として弊害を刷新できれば、先代の名誉を傷を付けない。己の拙(つた)さを自覚して持戒精進すれば、終に幸を得る」と云う。
 その後、その子は幼いながらもよく勉強して、経営の再生に取り組み、日々昼夜にわたり努力に努力を重ねたので、債権者は大いに安心して、支援する人も現われ、父親の時よりも更に繁盛するようになった。

(占例2)明治二十五年、ある人の養子に頼まれて、家業の先行きを占ったところ、蠱の初爻が出た。
 易斷は次のような判断であった。
 蠱の卦は、長女が少男を愛して一家が破綻するという象。養父(ある人)の借金は一朝一夕にできたものではない。長年の弊害が積み上がったものである。初六は蠱の初めの段階だから、弊害はまだ深刻ではなく、今、これを解決することは難しいことではない。
 養子のあなたが、借金を引き受けて、養父の後継者として、経営に中れば、事業を刷新できる。このことを「父の蠱に幹たり。子有り、考(ちち)咎无し。先代の事業を引き継ぎ、旧来の弊害を刷新する」と云う。
「あなたが養父の借金を引き受けて、家業を刷新すべきである。そのためには、大いに発憤しなければならない」と易断した。
 その後、果たして易断の通りとなった。
蠱 九二 |・・ ||・

九二。幹母之蠱。不可貞。
□九二。母の蠱に幹たり。貞にす可からず。
 剛中の德で母(六五)が招いた蠱乱に対処する。厳正に過ぎてはならない。巽順な態度で尊び諭して、正しい道へと導くのである。
象曰、幹母之蠱、得中道也。
□母の蠱に幹たりとは、中道を得る也。
 母が招いた蠱乱に対処する。中庸に適った態度で母を導く。

 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての原文の一部。
(占)恩義ヲ受タル長上頑愚ニシテ大ニ之ニ事フルノ道ニ苦シムノ時トス、・・・
 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての現代語訳。
(占)恩義を受けている上位者が愚かゆえ、この上位者に仕えるのに大変苦しむ時。至誠の心で大義を貫こうとしても、上位者が愚かゆえ、理解してもらえない。強く訴えかければ、恩義に背くし、何もしなければ腐敗が進行する。恩義に背かず、腐敗を進行させないようにしつつ、志を固く守って三年間仕え、腐敗を刷新する時が到来するのを待つべきである。上位者である六五の君主は陰なので、事を強引に進めるのは不向きである。だから、時が到来するのを待つのである。
○大きな家の支配人が幼い主人を守るために、家政を刷新する時。
○辛苦すれば何事も成し遂げられる時である。

 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占例の原文の一部。
(占例)友人某來リ告テ曰ク、余ガ親族ノ家政上ニ關シ、一族集會シテ、之ヲ議スルモ、意見區々ニシテ、容易ニ決セズ、甚ダ處分ニ苦メリ、爲メニ一筮ヲ請フト、乃チ筮シテ、蠱ノ第二爻ヲ得タリ、・・・
 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占例の現代語訳。
(占例)ある友人がやって来て、次のように言った。
「わたしの親族が、これからの家政のあり方を、集まって議論したが、色々な意見が出て、容易に結論が出ない。どうしたらよいかを占ってほしい」。
 そこで筮したところ、蠱の二爻が出た。
 易斷は次のような判断であった。
 蠱は山の下に風が滞ってこちらとあちらが通じない時。人事に当て嵌めれば、長女が家政を任されて幼い主人を後から支える象。長女(下卦巽)が少男(上卦艮)を愛するという形だから、年長の女性が年下の男性を寵愛し惑(わく)溺(でき)して、家政が腐敗する。
 今回、親族の内部からこのことを暴(あば)いて処分しようとするならば、逆に親族がバラバラになってしないかねない。四年間幼い主人が成長するのを待って(二爻を一年、三爻を一年、四爻を一年、五爻を一年と数えると四年となる)、家政を刷新すべきである。
 それゆえ爻辞に「母の蠱に幹たり。貞にす可からず。剛中の德で母(六五)が招いた蠱乱に対処する。厳正に過ぎてはならない。巽順な態度で尊び諭して、正しい道へと導くのである」とある。「母親が原因となって腐敗していたとしても、今はこれを刷新する時ではない。よって、当面は何もしないことである」と易断した。
 友人は以上の易占を聞き、感服して言った。
「実はわたしの親族のある人が、多少の資本を出して横浜の弁天通に店を出したところ、努力と好運で資産を増やした。ところが、不幸なことに奥さんを亡くして芸妓を妾に取って男の子が生れ、その男の子が十歳の時にその人も亡くなってしまった。その母親(元芸妓)が事業を継いで使用人と一緒に経営の舵取りをしたが、使用人と情を通じて、事業を乗っ取られてしまった。その事情を知っている親族はその親族とは表面上の付き合いはするが、内心は不快に思っていた。その使用人は、亡くなった親族の資産を横領しようとしており、親族はそれをどう止めようかと苦しんでいた。貴方の易断によって、初めてどう対処すればよいか分かった。今、慌ててこのことに対処しようとすれば、事態は益々悪化する。四年後には、今は幼い後継者も成長しており、家政を刷新することができる。その時には親族も協力して後継者を支援できる」。
 そう言って立ち去って行った。
 その後、親族間で話し合って、易断の通りに対処することを決定したという。

蠱 九三 |・・ ||・

九三。幹父之蠱。小有悔。无大咎。
□九三。父の蠱に幹たり。小しく悔い有り。大なる咎无し。
 先代の蠱(こ)乱(らん)を刷新する力は十分あるが、やり過ぎて後悔する。自らを戒(いまし)めれば、咎められない。
象曰、幹父之蠱、終无咎也。
□父の蠱に幹たりとは、終に咎无き也。
 やり過ぎる。後悔して自戒するので、咎められない。

 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての原文の一部。
(占)蠱ノ弊害甚ダ深クシテ、言フベカラザルノ時トス、過剛ノ才ヲ以テ改正ノ處置ヲ爲スニ、其嚴酷ニ過ルノ爲メ、一時人望ヲ失フコトアリト雖モ、果斷ノ力ヲ以テ、遂ニ大功ヲ成スコトヲ得ベキナリ、・・・
 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての現代語訳。
(占)蠱の弊害(腐敗)が非常に深く、言葉にならない時。剛に過ぎる才能で腐敗を刷新しようとするが、過激すぎて周りの人が離れてしまう。だが、果断に事を進めて、遂には大きな功を成し遂げる。
○策の中に謀(はかりごと)が含まれている時である。
○剛の才能に頼れば、人から受けた恩に反する恐れがあり、柔の才能だけで対処すれば、腐敗の弊害を刷新できない時である。
○事を為そうとするあまり、自分が仕える主人(上司)の名を借りて、嘘を言って人を騙すようなことをする。

 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占例の原文の一部。
(占例)某會社ノ社長來テ、會社ノ盛衰ヲ占ハンコトヲ請フ、乃チ筮シテ、蠱ノ第三爻ヲ得タリ、・・・
 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占例の現代語訳。
(占例)ある会社の社長がやって来て、会社の盛衰を占ってほしいと頼まれたので、筮したところ、蠱の三爻が出た。
 易斷は次のような判断であった。
 蠱は山の下に風が滞って空気が通じないために虫が発生する時。会社に当て嵌めれば、事業は不振に陥り、物もお金も流通しない。社員が不満を感じて騒ぎ出す時。三爻は、社員の失策を社長が引き受けて、これを挽回しようと苦しんでいる時である。
 今年は少々失策が続く年になるが、一年間経って決算の時には、それらの失策は、それほど業績には響かない。だが、来年はもっと腐敗が進む年になる。
 今からそのことを覚悟して社員と一体となり事業に取り組めば、やがて困難を除去して会社を維持することができる。それができなければ会社を清算する事態に追い込まれる。社員と一体となって事業に取り組んだ結果、困難を除去できれば、二年後(五爻に至れば)には腐敗を刷新して、会社の運氣は上向く。
 このことを「父の蠱に幹たり。小しく悔い有り。大なる咎无し。先代の蠱乱を刷新する力は十分あるが、やり過ぎて後悔する。自らを戒めれば、咎められない」と云う。
「父の蠱)」とは、先輩の失策を後輩が受け継ぐことを云う。
 二年後とは五爻を指す。四爻と五爻の爻辞から予測したのである。
 社長は以上の易断を聞き「実に適切な易断である。今年は社員の失策で事業が振るわず赤字に陥った。社員の中に問題がある人物がいて、組織に悪影響を及ぼしたので、その人物を解雇して、わたしが代わって失策を挽回しようと走り回っているところである。
 易断で示されたように、来年(四爻の時)はさらに厳しくなることを覚悟して、再来年(五爻の時)には腐敗を刷新し、盛運を切り開いて行けるよう努力したい」と云って、感謝して帰って行った。

蠱 六四 |・・ ||・

六四。裕父之蠱。往見咎。
□六四。父の蠱に裕(ゆるや)かなり。往きて咎を見る。
 柔弱正位の才能不足で控え目に過ぎる。先代の蠱乱は益々悪化して勇猛果敢を要する局面なのに、呑気に構えている。
 呑気に構えて、蠱乱を治めようとすれば、大失敗して咎められる。
象曰、裕父之蠱、往未得也。
□父の蠱に裕(ゆるや)かなりとは、往きて未だ得ざる也。
 呑気に構えて大失敗する。先代の志を、未だ理解していないのである。

 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての原文の一部。
(占)茲ニ大盡長官アリ、其子錦衣玉食追從輕薄ノ中ニ成長シテ、世間ノ辛苦貧者ノ状態ヲ知ラズ、御無理ハ御尤ト立ラレ、陰ニテハ人皆之ヲ謗リ笑フヲ覺ラズ、・・・
 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての現代語訳。
(占)大臣で長者の子が蝶よ花よと育てられ、ご苦労なしで成長し、世間の苦労や貧者の暮らしを知らない。周りからチヤホヤされているが、陰では馬鹿だ田分けだと笑われていることに気付かない。
 毎日毎日馬鹿騒ぎをして遊び回り、家の資産を食い潰していることも省みず、遂には腐敗が窮まり、家は破産して衣食住も不自由になるほど落ちぶれる。蝶よ花よと育てられた者は注意すべきである。
○優柔不断な人物が、腐敗の弊害を刷新しようと発心するが、かえって腐敗が悪化して、志を遂げられない。
○怠惰な性格ゆえ、腐敗を刷新する勇気がない。

 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占例の原文の一部。
(占例)友人某來リテ、富豪某氏ノ家政ヲ占ハンコトヲ請フ、乃チ筮シテ、蠱ノ第四爻ヲ得タリ、・・・
 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占例の現代語訳。
(占例)友人がやって来て、ある富豪の家政を占ってほしいと頼まれたので、筮したところ、蠱の四爻が出た。
 易斷は次のような判断であった。
 蠱は山の下に風が在る。風は万物を鼓舞して生育を助け、山は止まって動かない。山の下に風が滞る時は空気が澱んで虫が発生する。それゆえ蠱(皿の食べ物が腐って虫がウヨウヨ発生する)と云う。
 人事に当て嵌めれば、風は動くので、見識の定まらない人物と見なし、山は止まって動かないので、精神が萎縮している人物と見なす。このような人物は、スケールが大きな世界を見渡すことができない。目の前の小利に汲々として、終には親友と食べ物のことで争うようになる。それゆえ蠱(食べ物が腐る)と云う。
 六四は陰爻陰位で才能も知恵もない。気力も微弱で、大義にも勇気にも縁がない人物である。腐敗が進んだ家の跡継ぎとなれば、奮起して腐敗を刷新しようと勇気を奮い立たせるものであるが、そんな気迫の欠片もなく、また志を抱くこともない。ぼんやりとして、ただ腐敗が進むのを見ているだけ。
 以上のようであるから、その富豪は資産を失うと易断した。
 このことを「父の蠱に裕(ゆるや)かなり。往きて咎を見る。柔弱正位の才能不足で控え目に過ぎる。先代の蠱乱は益々悪化して勇猛果敢を要する局面なのに、呑気に構えている。呑気に構えて、蠱乱を治めようとすれば、大失敗して咎められる」と云う。
「父の蠱に裕(ゆるや)かなり」とは、家政が衰えているけれども全く意に介さないことである。
「往きて咎を見る」とは、資産を全て失って見る影もなくなることである。
 友人は易断を聞いて、次のように言った。
「その富豪は父親が努力して家産を興したが、実の子供がなく親族の子供を養子に迎えた。それが今の当主である。当主は常識人だが、経営者としての資質は先代には遠く及ばない。ところが、先代は全ての家産を相続させてしまった。すると、当主はろくに計算もせずに、お金を使い始めて、人の諫(いさ)めも聞かずに、やりたい放題の馬鹿殿様のように振る舞うようになった。富豪の家政は、どんどん悪化していき、遂には破産してしまった。何とも憐れな話である」。
 友人は、貴方の易断は実に見事なものだと感服し、感謝の言葉を遺して帰って行った。

蠱 六五 |・・ ||・

六五。幹父之蠱。用譽。
□六五。父の蠱に幹(かん)たり。用(もつ)て誉(ほまれ)あり。
 蠱乱を治める重任を負った天子六五は、賢人九二の補佐を得て蠱乱を刷新しようとする。共に中庸の道を得て刷新を成し遂げ、中興の名誉を得る。
象曰、幹父、用譽、承以德也。
□父に幹(かん)たり。用(もつ)て誉(ほまれ)ありとは、承(う)くるに德を以てする也。
 蠱乱を刷新する。祖先の余德に由らず、中庸の道で成し遂げる。

 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての原文の一部。
(占)下ノ助ケヲ得テ、舊來ノ弊害ヲ一洗シ、恢復ノ功ヲ成シテ、積年ノ困苦、一時ニ解ケ、世ノ賞賛ヲ得テ、聲譽高ク揚ルノ時トス、・・・
 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての現代語訳。
(占)下位に居る人の助けを得て、旧来の弊害を刷新し、見事に回復させ、長年の苦労が解決する。世間から称賛されて、名誉を得る。子が父の事業を継いで、このように事業を再生できれば、本当の親孝行である。父親の教育が優れていたので、智仁勇の三徳を具えていたと推知すべきである。孝経では「身を立て道を行い、名を後世に揚げて、以て父母を顕わすは孝の終わりなり。~一身の独立を保持し、道を行い、名をのちの世にまで揚げて、父母の名を世に顕わす。これは親孝行の終わりというべきだ。~諸橋轍次著中国古典名言事典」と云う。
○腐敗の弊害を刷新して、事業を再生させる時。
○大事業を為し遂げて、名誉を得て、幸福を招き寄せる。
○一時は敗北するが、新しいことに挑戦して、吉運を招き寄せる。
○親しい人と心を一つにすれば願望は成就する。
○権威に惑わされず、わが道を行くことによって名誉を得る。人々と調和することによって幸福を招き寄せる。
○自分の努力で先代の負債を完済する。
○隠密行動や秘密計画が敵に気付かれない時である。

 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占例の原文の一部。
(占例)友人某來リテ、某豪家ノ改革ヲ占ハンコトヲ請フ、乃チ筮シテ、蠱ノ第五爻ヲ得タリ、・・・
 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占例の現代語訳。
(占例)友人がやって来て、ある大富豪の家政改革の成否を占ってほしいと頼まれたので、筮したところ、蠱の五爻が出た。
 易斷は次のような判断であった。
 蠱の卦は、器物(お皿)が食べ物を貯えて蓋(ふた)をしたために、風が通らず腐ってしまい、終には虫がウヨウヨ発生してきた象である。字の形もそれを表わしている。
 国家に当て嵌めると、君主が未熟ゆえ側近の臣下が国務を担っている時である。すなわち、側近の臣下や君主夫人などが君主の後にどっしりと控えて、未熟な君主を補佐し、人事から政策立案と実施に至るまで、全て取り仕切っている。
 こういう状況になると、奸佞な人物が入り込み、政府内に小人が跋扈する。君子は閑職に追いやられ、論語の「枉(まが)れるを挙げて諸(これ)を直(なお)きに錯(お)けば則(すなわ)ち民服せず」という状況となり、あらゆる弊害が生じて国家は腐敗し乱れる。未熟な君主は、今六五となって成長したので、上九の顧問官を師と仰いで教えを受け、九二の賢臣を信頼して政策を果断に実行して、これまで積み上がった腐敗による弊害を刷新する。その改革に中っては断固として刑罰を定めて決行し、非常事態の戒厳令を敷く。そして、前後七日間にわたって改革を決行する。このことを卦辞に「甲に先だつこと三日、甲に後(おく)るること三日。先ず根本的原因を探り、次に抜本的対策を熟慮し、その弊害と収拾を見据えてから対処する」と云う。
 今回占った大富豪の家政は、以上のように展開して行くであろう。
 そもそも、その大富豪の家政の弊害は一朝一夕の事ではない。漸次に積み上がったものである。今、優れた支配人を得た。積年の腐敗を刷新して事業を再生する時が、いよいよ来たのである。この段階に至っても、まだグズグズして改革を断行しないようでは、どうにもならない。七日以内に改革を決行すべきである。
 このことを「父の蠱に幹(かん)たり。用(もつ)て誉(ほまれ)あり。蠱乱を治める重任を負った天子六五は、賢人九二の補佐を得て蠱乱を刷新しようとする。共に中庸の道を得て刷新を成し遂げ、中興の名誉を得る」と云う。
 友人は以上の易断を聞いて、大いに感じるところがあり、大富豪の主人夫婦を始め隠居した家族に至るまで、諄々と改革の必要性を説いた。しばらくすると大富豪は家政の大改革を断行して、やがてはその資産を回復することになった。
蠱 上九 |・・ ||・

上九。不事王侯。高尚其事。
□上九。王(おう)侯(こう)に事(つか)えず。其の事を高尚にす。
 陽剛の才能を有して蠱と艮の極に居る。位は尊いが実権はない。九三とは不応。比する六五にも仕えない。毀誉褒貶に超然として、道德を養い気(け)高(だか)く生きている。
象曰、不事王侯、志可則也。
□王(おう)侯(こう)に事(つか)えず、志(こころざし)則(のつと)る可(べ)き也。
 毀誉褒貶に超然として、気高く生きている。その志は君子の模範である。

 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての原文の一部。
(占)人幼ニシテ學問ヲ勉勵シ、事物ノ道理ヲ知リ、長ジテハ之ヲ用ヒテ力ヲ國家ニ盡シ、功ヲ遂ゲ業ヲ成シ、老テハ身ヲ閑地ニ退ケ、・・・
 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての現代語訳。
(占)幼い頃から学問を一生懸命学べば、物事の道理を知って、大きくなってから、その学問によって、天下国家のために力を尽くすようになり、功を上げ、事業を成し遂げ、老いて引退してからは、社会からは身を引いて超然と人生を楽しむ。なかなか凡人にはできないことであるが、このように生きることができるのが蠱の上爻の時である。
○凛とした精神生活を修めて、俗世間の下世話な出来事には、煩わされない時である。
○己をよく修めて、周囲の人々を徳化する(人徳で人に接して人を教え導く)時である。
※この卦を帰魂の卦(五爻が変ずると八純の卦に変ずる卦)とする。寿命を占ってこの卦が出たら、上爻に至る時に命が尽きると考える。詳細は地水師の上爻で説明した。

 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占例の原文の一部。
(占例)友人某來リテ、某貴顕ノ運氣ヲ占ハンコトヲ請フ、乃チ筮シテ、蠱ノ上爻ヲ得タリ、・・・
 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占例の現代語訳。
(占例)友人がやって来て、ある貴人の運氣を占ってほしいと頼まれたので、筮したところ、蠱の上爻が出た。
 易斷は次のような判断であった。
 蠱は風が山の下で滞って空気が流通しないので、虫が発生して共食いする卦である。これを国家に当て嵌めると、政府は高い山のように傲慢に権力を振るって、民を思いやらない。民は風のように巽順で権力に媚び諂っている。このような状況だから、政府も民も安楽や怠惰に流れて、人心は腐敗する。沢山の虫がお皿の上に発生し共食いしている。
 この状況は、開国する前の鎖国時代に当て嵌めることができる。
 今は開国して諸外国と交易しているので、政府(幕府)は傲慢な態度で外国と接することはできない。民も権力者に媚び諂っている場合ではない。だが、徳川幕府は、鎖国時代の慣習を改めようとせず、因循姑息に流れ、政治はどんどん腐敗していった。心ある少数派が決起して、腐敗した世の中を刷新するために明治維新を企画した。対して、幕府は、これまでの慣習を維持しようと抵抗したので、内戦は避けられない状況になったのである。
この時、この貴人は萬世一系の国柄を有する世界に類のない神聖な日本国家が、内憂外患のために腐敗していくことを深く憂慮して、客観的に現実を見つめ、新旧勢力の間に立って、内戦を避けるべく、温和で中正な維新を推し進めた。実に蠱の上爻の意義を熟知していたからであり、英断と云うしかない。
 しかし、当時はこの貴人を非難する人々が少なくなかった。
 自分の身を省みずに国家に尽くし功を上げたたこの貴人は、今や上爻の位にあって超然と身を処すべきであると易断する。このことを「王(おう)侯(こう)に事(つか)えず。其の事を高尚にす。陽剛の才能を有して蠱と艮の極に居る。位は尊いが実権はない。九三とは不応。比する六五にも仕えない。毀誉褒貶に超然として、道德を養い気(け)高(だか)く生きている」と云う。
 その後、この貴人がどのように対処したかは書いていない。