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期間限定「現代語訳(超意訳) 呑象高島嘉右衛門著 増補 高島易斷 上下巻 占例篇」 地天泰

十一 地天泰 ・・・ |||

泰、小往大來。吉亨。
□泰は、小往(ゆ)き大来(きた)る。吉にして亨る。
 泰は小(坤)が下降して、大(乾)が上昇するから、陰陽よく交わる。
 それゆえ、幸を得て、すらっと通る。
彖曰、泰小往大來。吉亨、則是天地交而萬物通也。上下交而其志同也。内陽而外陰、内健而外順、内君子而外小人、君子道長、小人道消也。
□泰は小往き大來る。吉にして亨るとは、則ち是れ天地交わりて万物通ずるなり。上下交わりて其の志同じきなり。内は陽にして外は陰、内は健にして外は順、内は君子にして外は小人、君子の道長じ、小人の道消するなり。
 泰は小(坤)が下降、大(乾)が上昇して、陰陽よく交わる。幸を得て、すらっと通る。天地交わり、万物が生成発展するのである。君德が民に普く行き渡り、民の意志が君に通じて、君民志を同じくして天下泰平となる。内面は君子(乾)の德を備えて、外面にその光を現さない(坤)。内側に剛健な志を抱き、外側は柔順に人に接する。根幹(内)に君子が居て、末端(外)に小人が居る。君子の道は盛んに伸び、小人の道は衰退する。
象曰、天地交泰。后以財成天地之道、輔相天地之宜、以左右民。
□天地交わるは泰なり。后(きみ)以て天地の道を財成し、天地の宜(ぎ)を輔(ほ)相(しよう)し、以て民を左右(たす)く。
 天地よく交わって和合調和するのが泰の形。君主は天地の道(天地自然の循環)が人の道(人間社会)に適合すべく、ほどよい加減に調整して、万民に寄り添う如く國を治める。

 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての原文の一部。
(占)時方ニ泰百事泰通意ノ如クナラザルハナシ、然レドモ泰極レバ否來ル、天運循環ノ理固ト雖モ、弊ヲ補フハ人ニ存ス、坐シテ以テ否ヲ待ツハ吝ノ道ナリ、・・・
 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての現代語訳。
(占)正しく「泰」の時。万事安泰、通達しないことはない。だが、安泰の時もやがて極まれば、万事閉塞する「否」の時がやって来る。天の運行は循環して休まないのである。この時に中って、何か事を成し遂げようとしないようでは、後悔してもしきれない。
○「泰」と「否」の時は、天の運行。その時に中るのはその人次第。「泰」の時に、坐して「否」の時を待つのは、情けない話。
○事を成し遂げようとする人が占ってこの卦が出たら、見事に大成功を収める。
○陰陽が合体(合致)する時。
○万事通達する時。 ○万事安定する時。
○男女が情を通じ合う時。 ○上下関係が安定・調和する時。
○商人が占ってこの卦が出たら、その売買は吉運、大きな利益を得られる。卦辞・彖辞に「小往き大来たる」とある所以である。
○寛大で泰然としている時。
○家族が和合して、心身安泰を得る。
○勇気があって温和な人物。
○善人は報われるが、悪人は報われない。

泰 初九 ・・・ |||

初九。抜茅茹。以其彙。征吉。
□初九。茅(ちがや)を抜くに茹(じよ)たり。其の彙(たぐい)を以てす。征きて吉。
 賢人初九は、六四の大臣に抜擢され、茅(ちがや)を一本引き抜けば沢山の茅(ちがや)が引き抜けるように、九二と九三を引き連れて行く。朝廷に九二と九三を推挙して天下泰平となる。賢人が率先して朝廷に集まれば、社会は調和する。
象曰、抜茅、征吉、志在外也。
□茅(ちがや)を抜く征きて吉とは、志外に在ればなり。
 初九が九二と九三を朝廷に推挙して、天下泰平となる。志を同じくする賢人が朝廷(外)に集まるからである。

 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての原文の一部。
(占)常ニ己レニ勝リタルモノヲ友トシテ、善事ニ進ムトキハ、其朋友モ與ニ助ケ、又上ニ居ルモノモ之ヲ助クベシ、故ニ小事ニ汲々セズシテ、世ノ公益ニ志スベシ、・・・
 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての現代語訳。
(占)常に自分よりも優れている人物を友だちに選び、一歩一歩前に進めば、目上の人から目をかけられる。小さなことにクヨクヨせず、世のため人のために役に立てるような志を抱くべきである。「茅(ちがや)を抜く。六四の大臣に抜擢される」ことで調子に乗って、私利私欲に走ってはならない。
○目上の人に目をかけられる。
○初爻の居る場所は未開の土地。この土地を開墾していくべき。このことを「茅(ちがや)を抜く。茅(ちがや)を一本引き抜けば沢山の茅(ちがや)が引き抜ける」と云う。
○時に臨んで活性化できるように決断すべきである。
○善人が互いに連携して共に大事業を進める時。
○朋友(同志)の推薦によって立身出世する。

 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占例の原文の一部。
(占例)明治二年、某藩ノ氏族某氏來リテ、商業ニ從事スルノ可否ヲ占ハンコトヲ請フ、乃チ筮シテ、泰ノ初爻ヲ得タリ・・・
 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占例の現代語訳。
(占例)明治二年、ある藩の元武士・某氏がやって来て、自分が商業活動に従事することの可否を占ってほしいと頼まれた。
 そこで筮したところ、泰の初爻を得た。
 易斷は次のような判断であった。
 泰の卦は天のエネルギー(氣)が地下まで浸透して、地の精氣は天上に上昇する象をしている。この象を人間社会に当て嵌めると、自分が相手に依頼すれば、相手は自分に応えてくれて、互いに相通じる時である。だから、この時を「泰(安泰の時)」と云う。
 今、占筮して初爻が出た。その爻辞に「茅(ちがや)を抜くに茹(じよ)たり。賢人初九は、六四の大臣に抜擢され、茅(ちがや)を一本引き抜けば沢山の茅(ちがや)が引き抜ける」と書いてある。茅の茎は分かれているが、根っこはつながっているということである。このことから、あなたの友だちに役所に勤めている人物がいるはずだ。その友だちに依頼すれば、役所に就職できる。
 あなたの顔付きは頬骨が張っていて、愛嬌は足りないが、威厳があるから、役人として、大衆を治めるのには適している。しかし、商人には向いていない。あなたの学力と人柄をよく知っている友だちに依頼して、役人として仕えることができれば、身を立てることができると易断した。
 その後、某氏は役所に就職して、順調に出世したのである。

泰 九二 ・・・ |||

九二。包荒、用馮河、不遐遺、朋亡、得尚于中行。
□九二。荒(こう)を包み、馮(ひよう)河(が)を用い、遐(とお)きを遺(わす)れず、朋(とも)亡(うしな)われ、中(ちゆう)行(こう)に尚(あ)うを得(う)。
 賢臣九二は六五の天子の寵愛を受けて、天下を泰平に導く。「寛大に小人に対処する度量(仁)」「大川を徒歩で渉る行動力(勇)」「遠いものまで見逃さない明智(知)」「朋党に偏ることのない公平無私(義)」の四德で泰の時に中り、天下泰平を実現する。
象曰、包荒、得尚于中行、以光大也。
□荒(こう)を包み、中(ちゆう)行(こう)に尚(あ)うを得(う)とは、以て光大なる也。
「寛大に小人に対処する度量(仁)」「大川を徒歩で渉る行動力(勇)」「遠いものまで見逃さない明智(知)」「朋党に偏ることのない公平無私(義)」の四德で天下泰平を実現する。君子の四德(仁・勇・知・義)で偉大な功績を成就する。

 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての原文の一部。
(占)寛容ニシテ中道ヲ行ヒ、諸人歸服スルノ時トス、故ニ時運ニ乗シ果斷ヲ行フトキハ、大功業ヲ成シ遂グベシ、又遠方ニ地所ヲ得テ、人ヲ移シ開墾セシメ、之ヲ土着セシムルノ象アリ、總テ國家ニ公益アル占トス、・・・
 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての現代語訳。
(占)寛容な人が時に中って道を歩む。大衆が帰服する。時の流れに中って果断に事業を行えば、大成功する。
○遠い場所に土地を取得し、人を派遣して開拓させ、それらの人々を定住させる。すべては国家に公益があるという内容の占いとなる。
○剛毅木訥の(寡黙で大衆から理解されにくい)人物でも、志が正しく真っ直ぐであれば、抜擢して任用する。
○私事から離れて、公に奉ずる(滅私奉公)時。
○道理の正否で判定すべし。感情に流されてはならない。
○大事な事業をやり遂げて、大衆に尊敬される。
○今は運気が盛んな時。時は陰陽消長(盛衰)するという天理をよく理解して、慎み深い人は、幾久しく安泰を保つことができる。
○社会的地位の高い人(貴人)から、大きな任務を依頼される。
○自分と志を同じくしない小人を、剛健かつ果断に切り捨てて、不正を行なう者を遮断する時である。

 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占例の原文の一部。
(占例)東京ノ友人某氏常陸ニ於テ、沼地ヲ開墾セント欲ス、其吉凶ヲ占ハンコトヲ請フ、乃チ筮シテ、泰ノ第二爻ヲ得タリ・・・
 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占例の現代語訳。
(占例)東京の友人・某氏が、常陸(茨城県の東北部)にある沼地を開拓しようとして、その吉凶を占ってほしいと頼まれた。
 そこで筮したところ、泰の二爻を得た。
 易斷は次のような判断であった。
 泰の字は古くからある字で、人が左右の手を使って大洪水を治めるという意味がある。大昔の人間は、川の上流の畔(ほとり)に居を構えて暮らしていた。川の畔(ほとり)の平地は、大雨が降って山から流れ下りてくる土砂が蓄積してできた土地だから、土地の低い所には、湖や沼がある。友人・某氏はこの沼地を開拓して田畑を切り開こうとしている。その開拓は、社会に利益をもたらし、成功すれば、国家の経済活動に寄与する。
 初九の爻辞に「茅(ちがや)を抜くに茹(じよ)たり。六四の大臣に抜擢され、茅(ちがや)を一本引き抜く」とある。沼地を開拓することは、国家の経済活動に寄与する五穀を蒔き育てるために行なうことだから成功する。
 また、九二の爻辞に「荒(こう)を包み」とあるのは、荒れ地を購入するという象であり、「馮(ひよう)河(が)を用い」とあるのは、自分の努力を惜しまずに働く人を使用することである。君(友人・某氏のこと)の朋友は、沢山の財産を保有している。自分の安楽な暮らしだけでなく、子孫代々安楽に暮らしていけることを理想としている。
 だが、この考え方は、大きな間違いである。裕福な人々が公益を図らなければ、貧しい人々はどうやって食べていくのか。食べていけない貧しい人々は、餓死することを待っているわけにはいかない。礼儀をかなぐり捨てて、法律に反するような行為に及ぶ。国家を脅かす内乱が起こる。内乱が起こるのは、裕福な人々がわが世を謳歌して、やりたい放題になり、虐げられている貧しい人々が怒って立ち上がるからである。
 あなた(友人・某氏)は、朋友とは一線を画して、私利私欲を追い求めることを善しとせずに、私財を手放して、大衆のために沼地を開拓しようとしている。その志は崇高なものである。このことを「朋(とも)亡(うしな)われる」と云う。あなたが朋友よりも人間として優れているからである。あなたが行なおうとしている事業は、世に恥じることのない正々堂々たる事業である。このことを「中(ちゆう)行(こう)に尚(あ)うを得(う)。泰の時に中り、天下泰平を実現する」と云う。
 以上のようであるから、開拓は成功して、新田と呼ばれるようになる。その名誉は子孫にまで及ぶと易断した。
 友人・某氏は、慎んで易占の示すメッセージを受け容れた。
 だが、友人・某氏はすでに老人であるから、その土地に出向いて行き監督するなど、事業に直接携わることができない。今は手を離せない事務もある。そこで、信頼している某氏を代理人として委任しようと思っている。
 その可否を占ってほしいと頼まれた。
 そこで、占筮したところ、坤の第四爻が出た。
 易斷は次のような判断であった。
 坤は、すべて陰爻であり、一つも陽爻がない。易の道理は陽を尊しと考え、陰は卑しいと考える。この卦が出たので、(あなたが委任しようとしている人物は)心が卑しい小人である。普通の易者ならそのように考えるが、わたしは、占いを依頼した人の人格や心のあり方に基づいて、答えを導き出すようにしている。
 今回も友人・某氏の人格や心のあり方に基づいて、易占を導き出そうと試みる。
 上等な事業とは、自分の私利私欲を満たすためのものではなく、世のため人のために行なおうとしている事業である。それは多くの人々に喜ばれる事業で、そのことを某氏は自分の喜びとしている。その志は誠に立派で、一点の私心もない。素晴しい事業と云える。
 中等な事業とは、万人が望んでいる事であり、万事自分の自由にはできないような事業である。
 下等な事業とは、私利私欲を満たすために行なわれる事業で、周りの迷惑も顧みずに、不善不義を重ねて、恥じることのない人が行なう事業である。
 以上が、事業に序列を付ける時のわたしの持論である。
 人間として立派な人は、常に善き心を保ち、邪心を抱かない人である。このような人を貴人と称する。人間として劣る人は、いつも邪な心を抱き、心を磨こうなどと思いもしない人である。このような人を愚人と称する。
 坤の初爻には「初六、霜を履みて堅氷至る」とあり、私利私欲のためには、終には、君主や父親でも殺してしまうようになる、と説いている。そして、坤の上爻に至ると「龍野に戦う」とあり、最後には血を流して私利私欲で争うことを説いている。
 今回、坤の四爻が出たが、この爻は、私利私欲のために、大義や正義を忘れた人物を指している。このような人物に事業を任せるのは、まるで鍵を盗賊に貸すようなものである。だから、油断せずに、財布の口を固く閉じて、用心しなければならない。このことを「嚢(ふくろ)を括(くく)る。咎もなく誉(ほまれ)もなし」と云う。
 以上のことから、今回の事業は自ら現地に出向いて監督すべきである。決して、他人に任せてはならないと易断した。
 友人・某氏は、わたしの易断に従って現地に出向いたのである。

泰 九三 ・・・ |||

九三。无平不陂、无往不復。艱貞无咎。勿恤其孚。于食有福。
□九三。平らかにして陂(かたむ)かざるなく、往(ゆ)きて復(かえ)らざるなし。艱(かん)貞(てい)なれば咎无し。恤(うれ)うる勿(なか)れ、其れ孚あれ。食に于(おい)て福(さいわい)有り。
 安泰の最盛期(下卦乾の極点)。平らかなもの(陽)はやがて傾き、往(い)ったもの(陰)はやがて復(かえ)ってくる。安泰の時もいつかは崩れる。驕ることなく道を守るがよい。憂えることはない。至誠であれば、経済的には恵まれる。
象曰、无往不復、天地際也。
□往(ゆ)きて復(かえ)らざるなしとは、天地際(まじ)わる也。
 往ったもの(陰)はやがて復ってくる。陰陽消長往来の常理である。

 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての原文の一部。
(占)此爻運氣猶ホ盛ンナルガ如クニシテ、而シテ危キノ時トス、故ニ自ヲ嚴愼シテ、災ヲ未然ニ防グベシ、然レバ一時危シト雖モ運氣輓回シテ、意外ノ幸アルベシ、凶ヲ避ケ吉ニ趨ク、一ニ占者ノ一心ニ在リ、・・・
 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての現代語訳。
(占)運氣は、まだ盛んであるが、先行きに暗雲が漂い始める時。
自分から厳しく慎んで、災難を未然に防がねばならない。そのようであれば、一時は危ない事に遭遇しても、幸を得ることができる。
災難を免れて、幸を得るかどうかは、あなたの心がけ次第である。
○盛運の中に衰運の兆しが微かに現われる。いたずらに進んで行ってはならない。
○担っている仕事は艱難辛苦が続くが、忍耐強く努力を積み上げていけば思わぬ幸を得る。

 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占例の原文の一部。
(占例)明治十八年、故三條相公ノ命ヲ蒙リ、濱の離宮ニ於テ相公ノ運氣ヲ占ヒ筮シテ、泰ノ第三爻ヲ得タリ、此時ノ陪從ハ武者小路君、福澤重香君ノ兩氏ナリキ、・・・
 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占例の現代語訳。
(占例)明治十八年。すでに亡くなった三條公の命令で、浜の離宮で三條公の運氣を占って筮したところ、泰の三爻を得た。この時同席していたのは、部下の武者小路君と福沢君の二人である。
 易斷は次のような判断であった。
 泰は、太陽のエネルギー(氣)が地上(の氣)を照らして、天と地のエネルギー(氣)が交わり万物が発育して国家は安泰となる時。これを今の日本社会に当て嵌めれば、政府の意向がよく大衆に浸透して、民の思いは政府に届き、君主は臣民を信任する。臣民は君主に服従する。乾の君子が内側で国政を任され、坤の小人は外側で国事に従っている。だから、小往き大来ると言う。天下泰平の時である。
 国家が安泰に治まるのも閉塞して乱れるのも、陰陽消長の法則による。安泰は、いずれ閉塞の状態に移行していく。また、閉塞も、いずれ安泰の状態に移行していく。今は、安泰の状態から閉塞の状態に移行していく微かな兆しが現われる時だが、三爻は安泰の最も安定した時である。外卦の三陰に至れば、いよいよ安泰の状態から閉塞の状況に移行していく兆しが徐々に現われる。これを今の日本社会に当て嵌めれば、内卦の三陽は運氣が最も盛んな時で、外卦の三陰は徐々に運氣が衰えていく時である。
 今、三條閣下の運氣を占って第三爻が出た。三爻は内卦の極点、安泰の時はピークに至り、安泰の時の中に閉塞の時がチラッと顔を覗かせようとする時である。
だから、爻辞に「平らかにして陂(かたむ)かざるなく、往(ゆ)きて復(かえ)らざるなし。安泰の最盛期(下卦乾の極点)。平らかなもの(陽)はやがて傾き、往ったもの(陰)はやがて復(かえ)ってくる」と時運は移り変わることを諭している。
 万事・万物消長・盈虚するのは、天地自然の道理で、人の力の及ぶところではない。立派な人は、よく天地の道に則って自省自修を積み上げ、至誠にして正しい心を抱くことができる。今は、安泰から閉塞へと時運が移り変わる予兆がチラッと現われる時だが、安泰を維持することはできる。このことを「艱貞なれば咎无し。安泰の時もいつかは崩れるが、驕ることなく道を守るが宜しい」と云う。
 努力の限りを尽くして国家に貢献しようとすることは、役人や政治家として当然のことだが、国家の運営は一人で行えるものではない。ましてや、安泰から閉塞へと時運が移り変わろうとしている時だから、どんなに努力の限りを尽くしても、人や世間から評価されない。そのことを憂えることなく、悶々とすることなく、至誠を貫いて努力を重ねていけば、例えば日食や月食で光が見えなくなっても、やがて光が蘇ってくるように、その存在が認められるようになって、幸いを得る。
 このことを「恤(うれ)うる勿(なか)れ、其れ孚あれ。食に于(おい)て福(さいわい)有り。憂えることはない。至誠であれば、経済的には恵まれる」と云う。時運が変化する時には、言行を慎む。自分の力が及ばないことを畏れ、至誠の心を固く守って神仏のご加護を賜る。このことを「天地際(まじ)わる也。陰陽消長往来の常理である」と云う。
 以上のように易断したのである。
 その後三條公は、内務大臣の職位に就き、至誠を尽くして忠実に政府に貢献し、その役割を全うされたのである。

泰 六四 ・・・ |||

六四。翩翩不富、以其隣。不戒以孚。
□六四。翩(へん)翩(ぺん)たり。富めりとせずして其の隣を以てす。戒めずして以て孚あり。
 六四の大臣は、鳥が群がり飛んで行くように下に降る。富貴を誇らず、同類の六五・上六と連なって謙虚な気持ちで初九を抜擢する。戒めずとも、至誠ゆえ、信頼を得る。
象曰、翩翩不富、皆失實也。不戒以孚、中心願也。
□翩(へん)翩(ぺん)として富めりとせずとは、皆、實を失えば也。戒めずして以て孚ありとは、中心願う也。
 下に降る。六四・六五・上六は皆心虚しうして富貴を求めない。戒めずとも、至誠ゆえ、信頼を得る。心の底から天下泰平を願う。

 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての原文の一部。
(占)下問ヲ恥ヂノ聖語ヲ旨トシ、我ヨリ下ナル者ト雖モ、智識アル者ト事ヲ謀リ、信實ヲ以テ疑ハザレバ、願望成就スルノ占トス、・・・
 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての現代語訳。
(占)貴方は目下の人に質問することを恥ずかしいと思わず、聖人が遺した言葉をよく学び、よく謙遜する立派な人物である。その貴方が知識が豊富で智恵がある人と共に事業を企画して誠実に事を進める。周りの人から信用を得られるようになれば、貴方の願望は成就する。
○保有している権力が徐々に弱くなっていく。
○知識豊富で智恵がある人物に何かを委任する。
○私利私欲から離れ、公に奉ずることを希望すべきである。

 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占例の原文の一部。
(占例)東京ノ豪商某氏ノ番頭某來リ告ゲテ曰ク、維新以來商況大ニ變ジ、主家日ヲテ衰運ニ赴カントス、因テ維持ノ策ヲ建ント欲スルモ、之ガ方向ヲ定ムルコトヲ得ズ、如何セバ乃チ可ナランヤ、願クハ方針ヲ占ハレンコトヲト、乃チ筮シテ、泰ノ第四爻ヲ得タリ、
 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占例の現代語訳。
(占例)東京の大きな商店の番頭がやって来て、次のように言った。
「維新以来、商業環境が大きく変化して、わたしが仕えている商店は徐々に衰運に向かっている。どうすればよいのか途方に暮れている。今後の、商店の方向性を占ってほしい」。
そこで筮したところ、泰の四爻が出た。
 易斷は次のような判断であった。
 泰は、天のエネルギー(氣)が地上を照らして、地のエネルギー(氣)とよく交わって、上と下が安泰な状態になる時である。
 天下泰平の時には、上も下も古い規則や決まり事をよく守り、楽しく、安楽に過ごして、幸せを得ることを願う。時代が大きく変化している今、あなたが勤めている商店主には、商店の方向性を描く力が欠けている。支配人から番頭に至るまで、代々続いてきた古いやり方を踏襲してきたので、今の規則や決まり事をよく守ることはできるが、時代の大きな変化に適応する経験がない。
 今は世界各国と貿易ができるので、商売のやり方も大きく変化して、古いやり方を改めなければならない時である。だが、世間の多くの商店では、未だに古いやり方を続け、新しい時代に対応できる人材を雇用しようともしないので、商売が時代に合わなくなってきて、代々続いてきた老舗でも終には商売を継続することが難しくなっている。
 泰の四爻は、すでに泰の時の半ばを過ぎており、徐々に衰運に向かいつつある時である。時代に付いて行くためには、何度も何度も会議を重ねて、商店を継続させるための対策を講じなければならない。だが、番頭のあなたを始め、誰も対策を立てる知識を備えていない。また、経験もない。よって、時代の変化をよく知っている人材を見つけ出して、その人物を中心にして今後の対策を立てるべきである。
 会社内の合意を得た上で、人材を見つけ出してきて支配人に抜擢して、経営を任せれば、古くからの従業員も古いやり方を改めて、一生懸命働くようになる。
 このことを「富めりとせずして其の隣を以てす。戒めずして以て孚あり。富貴を誇らず、同類の六五・上六と連なって謙虚な気持ちで初九を抜擢する。戒めずとも、至誠ゆえ、信頼を得る」と云う。
 以上のように対応できれば、商店の衰運をくい止めて、幾久しく継続することができると易断した。
 その番頭は、商店の社風改革に取り組み、社内の合意を得て、適任者を支配人に抜擢して、商売のやり方を大きく変えた。その商店は、今も大いに繁盛している。
泰 六五 ・・・ |||

六五。帝乙帰妹。以祉元吉。
□六五。帝(てい)乙(いつ)、妹を帰(とつ)がしむ。以て祉(さいわい)あり。元吉。
 六五は昔の王様が妹を諸侯に降(こう)嫁(か)させたように、虚心で九二に治國を任せる。天下泰平は続き、臣民は幸を得る。大いに國は栄える。
象曰、以祉元吉、中以行願也。
□以て祉あり元吉とは、中にして以て願いを行なうなり。
 大いに國は栄える。柔順中庸の德を備えた天子が天下泰平が続くことを願って賢臣九二に治國を一任するからである。

 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての原文の一部。
(占)此爻ヲ得ルトキハ、帝女ヲ諸侯ニ嫁スルノ義ニ倣ヒ、目下ノ信實アル者ヲ用テ、我望ヲ達するノ時ナリ、・・・
 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての現代語訳。
(占)王さまが妹を格下の諸侯に嫁がせたと云う。目下の人々の中から、誠実で信用できる者を抜擢して、自分の願いを実現する時である。
○貴婦人が謙遜して格下の家に嫁ぐ時。
○私利私欲を捨てて虚心になり、知恵の優れた人物に事を託する時。
○宮仕えしている人が、仕事における器量を十分に具えていながら、今は安泰な時なので、その器量を存分に発揮する機会がない時。
○智恵や知識に優れた部下を得られる時。
○神仏のご加護によって幸を賜る時。

 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占例の原文の一部。
(占例)余カ組織ノ豪富某來リテ、家政ノ氣運ヲ占ハンコトヲ請フ、乃チ筮シテ、泰ノ第五爻ヲ得タリ、・・・
 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占例の現代語訳。
(占例)旧知の豪商の某氏がやって来て、商店の氣運を占ってほしいと頼まれたので、筮したところ、泰の五爻が出た。
 易斷は次のような判断であった。
 泰は上と下のエネルギー(氣)が通じ合う時だから、主人と従業員が相通じて、商店の経営は安定する。
 今回占って五爻が出た。商店の経営が安定しているのは、代々、商店の主人が厳格な教育を行なってきたからである。しかし、いくら立派な教育を受けても、商店経営を時代の大きな変化に適合させていく経験はしていない。支配人を二爻に当て嵌めると、忠実な支配人が商店経営の実務をほとんど任されている。その力によって、今の商店経営は安定しているが、古くからの従業員の中には支配人を嫉(ねた)んで、商店の役員たちに、支配人のことを誹謗中傷する者が出てこないとも限らない。そうなると、貴方が支配人を信頼していても、組織がギクシャクしかねない。
 支配人は、古くからいる従業員に讒(ざん)言(げん)されることがないように、新婚時代のお嫁さんのように柔順な態度を守らなければならない。そのようであれば、古くからいる従業員に嫉まれることもなく、支配人としての力量を十分に発揮することができる。そして、商店を繁盛させることもできる。商店が繁盛するためには、支配人(二爻)が仕事がやりやすいような環境を、貴方(五爻)が整備しなければならない。
 このことを「帝(てい)乙(いつ)、妹を帰(とつ)がしむ。以て祉(さいわい)あり。元吉。六五は、昔の王様が妹を諸侯に降(こう)嫁(か)させたように、虚心で九二に治國を任せる。天下泰平は続き、臣民は幸を得る。大いに國は栄える」と云う。
(易占の結果は書いてない。)
泰 上六 ・・・ |||

上六。城復于隍。勿用師。自邑告命。貞吝。
□上六。城隍(ほり)に復(かえ)る。師(いくさ)を用ふる勿れ。邑(ゆう)より命を告ぐ。貞なるも吝。
 堀を掘削して築き上げた城壁が崩れ落ちて堀が平地に復るように、泰平の時は終焉する。上下君臣交わらず民の心は離れる。兵力を用いてはならない。最早動乱を鎮撫することはできない。天下に政令を発布しても効果はない。近隣を治めるのが精一杯である。
 正しくとも、天下泰平を保てなかったのだから、恥ずべきである。
象曰、城復于隍、其命亂也。
□城隍(ほり)に復(かえ)るとは、其の命乱るる也。
 泰平の時は終焉する。民の心が離れて、君主の命令が行き届かなくなったのである。

 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての原文の一部。
(占)家事顚覆ノ兆、愼テ事ヲ用フルコト勿レ、庸人ハ憂至テ之ガ備ヲナシ、禍生ジテ之ガ防ヲナス、渇ニ臨ミテ井ヲ穿チ、火ヲ失シテ水ヲ求ルガ如シ、故ニ盛ナル時ニ勤勉シテ、豫メ變ニ備フベシ、常ニ怠リテ狼狽ヲ取ルコト勿レ、・・・
 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての現代語訳。
(占)家庭や事業(組織)が転覆する予兆が現象として現われる時。できるだけ慎むように心がけて、事を為そうとしてはならない。
この段階に至る前に、やがては、この段階に至ることを予測しておき、予め備えておけば、いざ、この段階に至った時の防御ができる。
予め備えておかないのは、喉が渇いてから井戸を探し、火事になってから水源を探すように愚かなことである。この段階に至る前に、この段階に至ることを想定して防御策を講じておけば、いざという時に、オロオロと狼狽して右往左往するようなことにはならない。
○安泰の時が窮まって、閉塞の時に移行し始めた時。家庭や事業は崩れ落ちはじめる。
○部下や目下の人に、アゴで使われる予兆がある。
○信用が失墜して、命令が通じなくなってくる。

(この爻には占例が書いていないので、天雷无妄上爻の占例の中で、泰の上爻が出た時の占例を、ここで紹介しておく。)
 ある土曜日のこと。秘書から、静岡県警部長相原安次郎氏から急報があると講義中に連絡があった。相原氏と教室で面会したところ、「今回、関口知事が汽車の衝突事故に巻き込まれて負傷したことで、熱海における占筮のとおり、无妄の災害に遭遇したことがわかって、わたしのような凡庸な人間でも、易占の奥深さに感服した」。
「そこで、知事の死生の運氣について、教えてほしい」と頼まれた。
 同席していた杉浦重剛氏や学士の面前で占筮したところ、泰の上爻を得た。
 この易断について解説する。
 泰は天地の精氣が交わる卦で、これを国家に当て嵌めると、上下(君臣・臣民)の感情が交わる天下太平の卦である。しかし、上爻は泰の終極、否に移行する時。「城隍(ほり)に復(かえ)る」とは、倒れるということ、「其の命乱るる」とは、関口知事の命が危なくなることである。
以上のように回答したところ、学士はこの回答に納得せずに次のように言った。
「医師の診断によれば回復の兆しにあると新聞に書いてある。だから、易聖として知られるわたしの易断でも、信じられない」。
 そこで、わたしは、次のように言った。
「諸君は易経を学びはじめてまだ日が浅い。だから、わたしの易断を半信半疑に思っているようだ。だが、わたしの易断は至誠の心で神のメッセージを引き出す力があるので、一度も外れたことがない。諸君は至誠の心でわたしの易断を受け止めないから、疑問を抱くのである。できることならば、諸君は発憤して易学の理解を深めてから、自分の易断に絶対的な自信を持つようになってほしい。大体、医者の診断というのは、医学の知識はあったとしても、人の天命を知ることはできない。ただ、目の前の病状を診断して治療の可否を判断するだけだ。どうして、将来を予測することができるであろう。易占は、人智を超越して天命を引き出す。諸君がわたしの易占を疑うのであれば、これからの進捗状態を見守るがよい」。
 その後、しばらくして、関口氏の訃報が届いた。
 杉浦氏をはじめとする諸子は、みな、天命に感服したのである。