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期間限定「現代語訳(超意訳) 呑象高島嘉右衛門著 増補 高島易斷 上下巻 占例篇」 天山遯

三三 天山遯 ||| |・・

遯、亨。小利貞。
□遯(とん)は亨(とお)る。小は貞(ただ)しきに利(よろ)し。
 遯は小人の勢いがだんだん盛んになろうとする時。君子は隠遁して道を全うする。大事は不可。正しい道を守れば、小事は可。
彖曰、遯亨、遯而亨也。剛當位而應、與時行也。小利貞、浸而長也。遯之時義、大矣哉。
□遯は亨るとは、遯(のが)れて而(しか)して亨る也。剛、位に当たりて応じ、時と与(とも)に行う也。小は貞しきに利しとは、浸(ようや)くにして長ずれば也。遯の時義大なる哉(かな)。
 遯の時、君子は隠遁して道を全うする。小人が跋扈(ばつこ)する世の中から隠遁して道を全うするのである。九五と六二は中正にして相応じ、遁(のが)れるべき時は遁れ、遁れるべきでない時は、事を為し遂げる。正しい道を守れば、小事は可。小人の勢いが漸次に盛大になるので、大事は不可。
遯の時に君子が隠遁する…。何と大きな意義があるだろう。
象曰、天下有山遯。君子以遠小人、不惡而嚴。
□天の下に山有るは遯なり。君子以て小人を遠ざけ、惡(にく)まずして厳(げん)にす。
 乾(天)の下に艮(山)が有るのが遯の形。下から見ると山の頂上は天のように見えるが、山頂に登ると天は遙(はる)か彼方(かなた)に遠ざかる。君子は、小人を悪(にく)まずして自らを律し、その威厳によって小人を遠ざける。

 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての原文の一部。
(占)艮ノ少男世ヲ継ギ、乾ノ老父退隠スルノ時トス、父ハ衰老ニ向テ閑散ヲ樂ミ、少男意ヲ肆ニシテ家事廃頽ニ赴クノ象アリ、・・・
 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての現代語訳。
(占)艮の少年が後継者となり、乾の老夫が引退する時。父は余生に入りゆったりとした時を楽しみ、少男は意欲をふくらませて暴走する。結果、家運が傾く時である。君子が退いて、小人が進む。理性が後退して、非道に陥り、衰運に向かう。あらゆる活動を止めて、じっと静かにしているしかない。
○君子が見事に隠遁する。今は報われなくても、やがては時を得る。
○宮仕えの人(サラリーマン)は、小人に仕事を邪魔されて、地位を失いかねない時。
○進んで事を為してはならない時である。
○兆しを察して隠遁すれば、災害を免れることができる。
○社会から隠遁する時である。 ○物を投げるという意味もある。

遯 初六 ||| |・・

初六。遯尾。厲。勿用有攸往。
□初六。遯(のが)るるの尾(しりえ)なり。厲(あやう)し。往(ゆ)く攸(ところ)有るに用(もち)ふる勿(なか)れ。
 遯は遁れ退く道を説く。初六は最後尾ゆえ逃げ遅れて置き去りにされた。危うい状況だが、位(くらい)賤(いや)しく非才ゆえ、誰も見向きもしない。今さら遁れ去るよりも、じっと隠れて動かないほうがよい。
象曰、遯尾之厲、不往何災也。
□遯(とん)尾(び)の厲きは、往かずんば何の災あらん也(や)。
 誰も見向きもしない。じっと隠れて動かない。どうして災いを受けようか。

 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての原文の一部。
(占)門地卑クシテ、上ニ齒セラレズ、又他人ニモ容レラレザルノ時ナリ、早ク其衰運ヲ悟リ、能ヲ暗マシ、智ヲ韜ミ、只无事ヲ圖リ、・・・
 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての現代語訳。
(占)出自が卑しいので、上位の人を始め、周りの誰からも相手にされない。少しでも早く、自分の衰運を悟り、無事でいることが何よりも大切だと考えて、災難から免れることを優先すべきである。
○戦場(戦いの場)にあっては、一刻も早く退去すべきである。功を上げようとして退去するタイミングが遅れれば大敗する。
○今の場所から退去して、他人から支援してもらう時である。
○一歩たりとも動いてはならない。静かに時を待っていれば、災難を免れることができる。

 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占例の原文の一部。
(占例)友人某來リテ、氣運ヲ占ハンコトヲ請フ、乃チ筮シテ、遯ノ初爻ヲ得タリ、
 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占例の現代語訳。
(占例)ある友人がやって来て、氣運を占ってほしいと頼まれたので、筮したところ、遯の初爻を得た。
 易斷は次のような判断であった。
 遯は天の下に山がある。天はエネルギー(氣)ゆえ上に昇る。山はどんと構えて止まっている。天が上に遁れ去って行くような形である。人に当て嵌めると、小人が時を得て、君子が逃れ去る氣運である。遯は、退き、逃れ、避けることを云う。
 遯の初爻は、逃れるべき時に、逃げ遅れた者、時勢に遅れた者である。つまり、何事もうまくいかず、事を誤る時である。時勢を顧みずに、古風を通そうとして、古風を前面に立てて、社会に打って出ようとすれば、ライバルが現代風を前面に立てて、対抗しようとする。とても勝ち目はない。一刻も早く、逃れ去ることを考えるべきである。対抗しようとすれば、必ず大損失を蒙る。
 以上を「遯(のが)るるの尾(しりえ)なり。厲(あやう)し。往(ゆ)く攸(ところ)有るに用(もち)ふる勿(なか)れ。遯は遁れ退く道を説く。初六は最後尾ゆえ逃げ遅れて置き去りにされた。危うい状況だが、位(くらい)賤(いや)しく非才ゆえ、誰も見向きもしない。今さら遁れ去るよりも、じっと隠れて動かないほうがよい。」と云う。
 智恵と才能を隠して、即刻退却すべきだと、易断した。
(易占の結果は書いてない。)

遯 六二 ||| |・・

六二。執之用黄牛之革。莫之勝説。
□六二。之を執(と)るに黄(こう)牛(ぎゆう)の革を用う。之を説(と)くに勝(た)ふる莫(な)し。
 柔順中正の德で黄(こう)牛(ぎゆう)の皮ひもを固く結ぶように九五を繋(つな)ぎ止める。遁れるべきでない時はその位に止(とど)まり、遁れるべき時は速やかに隠遁する。九五との結びつきは、固く結んだ黄牛の皮ひもを解き離せないほど堅固である。
象曰、執用黄牛、固志也。
○執(と)るに黄(こう)牛(ぎゆう)を用うるは、志を固くする也。
 黄牛の皮ひもを固く結ぶように九五を繋ぎ止め、遁れるべきでない時はその位に止まり、遁れるべき時は速やかに隠遁する。共に志を堅固に守るのである。

 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての原文の一部。
(占)人事ヲ托セントス、然レドモ、時正ニ非ナリ、事ノ遂グ可カラズヲ知ラバ、早ク身ヲ遁ルルニ如カズ、幾微神速ニシテ、間髪ヲ容レズ、時ニ随ヒ、變ニ應ジテ・・・
 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての現代語訳。
(占)人事を託されるほど上司に信頼されているが、衰退運の時ゆえ何も成し遂げられないと認識して、できるだけ早く隠遁すべきである。
隠遁するべき時に隠遁することができれば、衰運も克服できる。
○変化を察することができなければ、隠遁することもできない。

 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占例の原文の一部。
(占例)友人某來リテ、氣運ヲ占ハンコトヲ請フ、乃チ筮シテ、遯ノ第二爻ヲ得タリ、
 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占例の現代語訳。
(占例)ある友人がやって来て、氣運を占ってほしいと頼まれたので、筮したところ、遯の二爻を得た。
 易斷は次のような判断であった。
 遯は二つの陰爻が下から成長してきて、四つの陽爻が衰退する時。陰爻は小人、陽爻は君子。世に小人が跋扈して、君子は退く時である。遯の時は、品行方正な人物は用いられない。それゆえ、智恵を隠して、正論を主張してはならない。
 第二爻は篤実(真面目・誠実)に過ぎて、遯の時に適合しない。世に小人が蔓延(はびこ)って、悪德が蔓延しても、明德を守って、悪德に馴染むことができない。どうして、遯の時に適合することができようか。遯の時に適合できない最たる者である。
 このことを「之を執(と)るに黄(こう)牛(ぎゆう)の革を用う。柔順中正の德で黄(こう)牛(ぎゆう)の皮ひもを固く結ぶように九五を繋(つな)ぎ止める。遁れるべきでない時はその位に止(とど)まり、遁れるべき時は速やかに隠遁する。」と云う。「黄(こう)牛(ぎゆう)の革」とは、普通の動物は毛の抜け代わりが早いものだが、黄牛の革は抜け代わりが遅いことを云う。
 頑固に明德を守り続けることが、世の中に逆らうことになる時だから、遯の時は、君子が小人に正面から立ち向かって行っても絶対に勝ち目がない時である。君子の看板を下ろして、小人の迫害から身を守らなければ、滅ぼされるしかないのだ。
(易占の結果は書いてない。)

遯 九三 ||| |・・

九三。繋遯。有疾厲。臣畜妾吉。
□九三。遯(とん)を繋(つな)ぐ。疾(やまい)有り。厲(あやう)し。臣(しん)妾(しよう)を畜(やしな)えば吉。
 上九に見向かれず六二に後ろ髪を引かれる。遁れ去るべきなのに遁れ去れないのは病気に罹ったようなもの。その位(くらい)に恋(れん)々(れん)とする己の心を後ろ髪を引かれると称して誤魔化している。まことに危ない。下男下女を近づけることなく、遠ざけることなく、適度な距離で接すれば、幸を得る。
象曰、繋遯之厲、有疾憊也。畜臣妾吉、不可大事也。
□繋(けい)遯(とん)の厲(あやう)きは、疾(やまい)有りて憊(つか)(つか)るるなり。臣(しん)妾(しよう)を畜(やしな)えば吉とは、大事に可(か)ならざる也。
 まことに危うい。隠退を果断に決行する気力が失せてしまったのである。下男下女と適度に接すれば、幸を得る。大事は成し遂げられないのである。

 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての原文の一部。
(占)遁レテ身ヲ全クスルノ時ナルヲ知ルト雖モ、陰柔ノ婦女子ニ係戀シテ、脱離スルコト能ハズ、爲ニ危厲ノ地ヲ蹈ム者ナリ、然レドモ・・・
 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての現代語訳。
(占)隠遁することが、身を守ることと知っているが、陰柔の婦女子に誘惑されて、危険に陥る。だが、艱難のど真ん中で一時的な安全を手に入れる。「厲し」と云って「凶」とは云わない理由である。
○臣下や妾を雇い入れるのは吉運。臣下や妾は自立していない。他に順従することを善しとするからである。
○世から逃れて行方不明となる。
○聖賢(立派な人物)が災難に遇う時である。
○役人を辞職(職を辞)して、余命を楽しむ時である。
○世間との関係を保とうとして災害に遇う。慎むべし。

 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占例の原文の一部。
(占例)友人某來リテ、商業ノ進退ヲ占ハンコトヲ請フ、乃チ筮シテ、遯ノ第三爻ヲ得タリ、・・・
 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占例の現代語訳。
(占例)ある友人がやって来て、商売の進退を占ってほしいと頼まれたので、筮したところ、遯の三爻を得た。
 易斷は次のような判断であった。
 遯は二陰が共に進み、四陽が逃げて行く。上に在るほど足が健やかでどんどん逃げて行くが、下に在るほど足が弱くて逃げ遅れる。上の陽爻は隠遁するが、下の陽爻は隠遁できないので困難に陥る。
 今回占って三爻を得た。(三爻は下の陽爻なので隠遁できずに困難に陥る。)あなたの商売は目的を間違えて失敗する。仕入れた商品の価値が下落して、手付け金を損失する。
あなたは、損失したお金を何とか取り戻そうとして悩むが、遯は隠遁して初めて吉を招き寄せる時。損失したお金を取り戻すことは諦めて、隠遁するように水に流して諦めるべきである。損失したお金を惜しんで、何とか取り戻そうとすれば、さらに事態は悪化して、大きな損失を招き寄せる。
 このことを「遯(とん)を繋(つな)ぐ。疾(やまい)有り。厲(あやう)し。上九に見向かれず六二に後ろ髪を引かれる。遁れ去るべきなのに遁れ去れないのは病気に罹ったようなもの。その位(くらい)に恋(れん)々(れん)とする己の心を後ろ髪を引かれると称して誤魔化している。まことに危ない。」と云う。「遯(とん)を繋(つな)ぐ」とは、商売に失敗したのに、グズグズして見切りを付けないことを云う。
 今は、サッサと見切りを付けて、資産を守り、商店や家族を守ることが吉運を招き寄せる。このことを「臣(しん)妾(しよう)を畜(やしな)えば吉。下男下女を近づけることなく、遠ざけることなく、適度な距離で接すれば、幸を得る」と云う。
 以上のようであるから、「サッサと見切りを付けなさい」と易断した。
(今回も、易占の結果については、何も書いていない。)

遯 九四 ||| |・・

九四。好遯。君子吉。小人否。
□九四。好(よみ)すれども遯(のが)る。君子は吉。小人は否(しから)ず。
 九四は初六を愛しているが、不正同士の善からぬ関係である。今は遯の時、私欲を断ち切り剛健の德を発揮して隠遁すべきである。君子は義に従って隠遁する。小人は私欲に囚(とら)われて自ら禍(わざわい)を招く。
象曰、君子好遯。小人否也。
□君子は好(よみ)すれども遯(のが)る。小人は否(しから)ざる也。
 君子は欲を断ち切って隠遁する。小人は欲に囚われて自滅する。

 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての原文の一部。
(占)日頃親暱スル者ト雖モ、其不可ナルヲ知ラバ、情ヲ忍ビ、斷然之ヲ離別スベシ、又惡キ友ヲ謝絶スルノ時トス、故ニ君子ニハ吉ナレドモ、小人ニハ不吉ナリ、・・・
 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての現代語訳。
(占)日頃親しくしていても、善からぬ人ならば、人情に絆(ほだ)されずに、断固として交際を断ち切るべし。
○悪しき友との関係を断絶する時である。
○君子は吉運を招くが、小人は吉運を招くことができない。
○好きなことを我慢して災害を回避すべき時。

 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占例の原文の一部。
(占例)親交ノ官吏某某來リテ、氣運ヲ占ハンコトヲ請フ、乃チ筮シテ、遯ノ第四爻ヲ得タリ、・・・
 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占例の現代語訳。
(占例)親しくしている役人がやって来て、運氣を占ってほしいと頼まれたので、筮したところ、遯の四爻を得た。
 易斷は次のような判断であった。
 遯は賢者が山奥に隠遁する時。乾の老父が引退して、艮の少男が後継者となる時でもある。陽が退く時なので遯(隠遯)と云う。
 今回、四爻を得た。四爻は初爻に応じている。今の貴方は役人を辞職して引退する時が来たが、職務が忙しくて、速やかに辞職できない。また、これまで一生懸命勤めてきた役人という立場から離れることに未練を感じて、辞職すべきか迷っている。このことを「好(よみ)すれども遯(のが)る。九四は初六を愛しているが、不正同士の善からぬ関係である。今は遯(とん)の時、私欲を断ち切り剛健の德を発揮して隠(いん)遁(とん)すべきである」と云う。
 陰の性質の人と陽の性質の人が同じ役所に勤めている。今は陰の人が出世する時世であると認識して、陽の性質を有する君子はサッサと隠遯すべきである。それが遯の天命である。君子は隠遁して吉運を招き寄せる。小人は現世に惹かれて隠遁できないので、吉運を招き寄せることができない。
 今は、遯の時なので、辞職を覚悟すべきである。
 その後しばらくして、その役人は、組織改革で、辞職を命じられた。

 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占例の原文の一部。
(占例二)一日杉浦重剛氏來リテ曰ヘラク、方今世上ノ一問題タル千島艦事件ハ、在上海ナル英國上等裁判所ノ判決ヲ不當トシテ、再ビ英國ニ向テ、之ガ談判ヲ開カントス、今其談判ヲ開クニ於テハ、結局ノ成否如何ン請フ之ヲ筮セラレヨト、乃チ筮シテ、遯ノ第四爻ヲ得タリ、
 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占例の現代語訳。
(占例2)ある日、杉浦重剛氏がやって来て言った。「今世間で話題になっている千島艦事件は、上海に在る英国上等裁判所の判決を不服として、英国に対して再び談判しようとしている。その成否について占ってほしいと頼まれたので、筮したところ、遯の四爻を得た。
 易斷は次のような判断であった。
 遯は内卦の自分は山のように止まって動かない。誠意をもって意思を貫こうとする。外卦の相手は天のように上に昇っていく。天はエネルギー(氣)で無形であるから把握することができない。遯とは退き逃れることである。二陰が下から進んで勢力を増大する。四陽は勢いを失って退き逃れる。小人が勢いを得て、君子は隠遁する。隠遁して災難から逃れるのが遯の時である。
 千島艦事件に当て嵌めれば、下卦艮は手であり、上卦乾は氣である。手が空を握るという形である。だから「好(よみ)すれども遯(のが)る。私欲を断ち切り剛健の德を発揮して隠(いん)遁(とん)すべきである」と云う。訴訟を起こしてはならない時である。自分が正論を述べても、相手は空論を返してくる。風や影を追いかけるようなものであり、正論は空回りする。
 今の世界情勢は、万国共通の法律はあるが、国と国の関係は、国力によって決まる。正論が通じない。まだ国力の弱い日本は不利な立場にある。そこで国民が一致団結して富国強兵の実現を奮起すべき時である。賢明な日本政府は、万民を教化すべく、憲法を定め、近代国家としての基礎を構築しつつある。国会で議会が開かれて一定期間経過したが、まだ議論は経費削減の必要性に止まっている。財政を固めるのに精一杯で、未だ国家的な大事業は行われていない。労働者は働く場所がなく、未だに生活は安定しない。この状態が続けば国家は衰退しかねない。
 千島艦事件において、日本の正論は通じない。国家の前途は暗澹としており、誠に心配である。
(易占の結果は書いてない。)

遯 九五 ||| |・・

九五。嘉遯。貞吉。
□九五。嘉(よ)く遯(のが)る。貞(てい)にして吉。
 小人の勢いが伸びて君子が隠遁を余儀なくされる遯の時に中り、六二と力を合わせて人事を尽くし、天命に順って、嘉(よ)く美しく隠遁する。
 その隠遁は正しく遯の時(じ)宜(ぎ)に適(かな)っている。
※遯の時は、五爻を天子とは見ない。天子は隠遁できないのである。
象曰、嘉遯、貞吉、以正志也。
□嘉(よ)く遯(のが)る、貞(てい)にして吉とは、志を正しくする也。
 その隠遁は正しく遯の時(じ)宜(ぎ)に適(かな)っている。
 正しい志を貫くために、一時的に隠遁するからである。

 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての原文の一部。
(占)身ノ富貴ナルヲ以テ、世事ヲ厭フノ意アリ、勉メテ目下ノ者ヲ引立テ、才アル者ヲ見立テ、事ヲ委ヌベシ、能ク貞正ヲ守ルトキハ、嘉祥日ニ至リ、・・・
 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての現代語訳。
(占)富貴な身分ゆえ世事には疎い。目下の人を引き立てるべく努力して、才能がある者を見つけて事を委ねるべし。
 正しいやり方を貫けば、幸せを招き寄せて、平安な時が続く。
 また、妻子を捨てて、他国へ逃れて、帰ってこない時でもある。
○小人が前に進み、君子は小人を避ける時である。
○危ないところを免れて、幸いを招き寄せる時である。

 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占例の原文の一部。
(占例)予ノ親友ニ永井泰次郎ト曰フ人アリ、其令室ハ予ガ嘗テ媒介シタル所ナリ、其後幾モナク懐妊シ、五ヶ月ノ祝宴ヲ張リ、予ヲ招ク、永井氏予ニ謂テ曰ク、胎中の児、男ナルカ、將タ女ナルカ、占告セラレンコトヲ請フと、乃チ筮シテ遯ノ第五爻ヲ得タリ、・・・
 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占例の現代語訳。
(占例)わたしはかつて、親友の永井泰次郎氏のご令嬢の仲人をしたことがある。すぐに赤ちゃんができて、永井氏に招かれた。
 永井氏から赤ちゃんの性別をを占ってほしいと頼まれたので、筮したところ、遯の五爻を得た。
 易斷は次のような判断であった。
 九五は陽爻陽位ゆえ、生まれてくる赤ちゃんは「男」である。遯は上卦の乾を父とし、下卦の艮を少男とする。すなわち少男が父の家業を継いで、父はやがて老いて(老夫となり)、子である少男に家と財産を譲って隠居する。
 爻辞に「九五。嘉(よ)く遯(のが)る。貞(てい)にして吉。小人の勢いが伸びて君子が隠遁を余儀なくされる遯の時に中り、六二と力を合わせて人事を尽くし、天命に順って、嘉(よ)く美しく隠遁する。その隠遁は正しく遯の時(じ)宜(ぎ)に適(かな)っている」とあるが、これは子供が家を継いで、老夫は安楽な余生を送ると云うことである。
 その後、ご令嬢は男子を出産して、跡継ぎとして育てられ、やがては易占のような経過を辿ったのである。

遯 上九 ||| |・・

上九。肥遯。无不利。
□上九。肥(ゆた)かに遯(のが)る。利(よろ)しからざる无し。
 遯の極点・上卦乾の最上で、超然と逍(しよう)遙(よう)自適している。何の柵(しがらみ)もない(応比なし)ので、悠然と隠遁する。宜しくないことは何一つない。
象曰、肥遯、无不利、无所疑也。
□肥(ゆた)かに遯(のが)る、利しからざる无しとは、疑う所なき也。
 悠然と隠遁し、宜しくないことは何一つない。何の柵(しがらみ)もなく、疑い憂えることがないのである。

 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての原文の一部。
(占)此爻心廣ク體胖カニシテ、能ク世事ヲ遺脱ス、飄然遠去、物ニ係累セズ、一點心ヲ勞スルコトナク、萬事意ニ介スル者ナシ、大吉利ノ占トス、・・・
 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての現代語訳。
(占)上爻は心広く、身体豊かで、世事には超然としている。いつも飄々として心に悩みなく、何事にも囚われない。大いに宜しきを得て、吉運を招き寄せる時である。
○災難を回避して、安楽の状態に辿り着く時である。

 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占例の原文の一部。
(占例)明治十八年三月以來、中央亜細亜阿富汗境界事件ニ關シ、英獅露鷲ノ葛藤ヲ生ジ、各新聞電信ノ報ズル所、(中略)因テ其和戰ノ如何ト、將來ノ結果トヲ筮シタルニ、遯ノ上爻ヲ得タリ、・・・
 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占例の現代語訳。
(占例)明治十八年三月以来、中央アジアのアフガニスタンの境界に関して、英国とロシアが対立している。諸説が報じられているが、どうやら、談判は決裂して戦争に突入する可能性が高い。日本にも影響が及ぶと思われるので、英国とロシアの対立がどのように推移するかを占って筮したところ、遯の上爻を得た。(明治十八年五月八日)
 易斷は次のような判断であった。
 内卦の山を英国、外卦の天をロシアとする。山は止まる性質である。英国は戦争の準備をしているが、国威を示すためで、戦争に突入しようとはしていない。英国の海軍は強いが、中央アジアで戦うには海軍を用いられない。英国の陸軍は自国を守るための人員しか確保していないので、中央アジアに派遣することはできない。植民地である印度の兵隊は寒冷地では力を発揮できない。また戦争よりも宗教を重んじるため、ロシア軍を討ち破ることは難しい。以上のことから英国から開戦することはない。
 一方、天の性質は剛健である。ロシアは亡き帝王の遺訓により、国土を拡大することを使命としており、国土拡大のために進むことはあっても退くことを知らない。天の運行が息(やす)まないのに似ている。すなわち、ロシアは戦争をしたがっていると判断すべきである。
 だが、外卦と内卦を合わせると天山遯となる。天山遯の物語を当て嵌めると下卦の英国が有利である。ところが、これをロシアの立場から見ると上下ひっくり返って(綜卦)雷天大壮となる。これが易の絶妙なところで、物語は変化して窮まりない。
 以上を参考にして、英国とロシアの対立がどのように推移していくかを断定してみよう。
 まずは英国の立場(遯)から見ていこう。遯は老父が隠居して少男が家業を継ぐ時である。すなわち、英国がこれまで保持してきた海の王さまの主権を捨てて、外部との交渉を絶ち、隠遁する時運が到来している。爻辞には「肥(ゆた)かに遯(のが)る。利(よろ)しからざる无し。遯の極点・上卦乾の最上で、超然と逍(しよう)遙(よう)自適している。何の柵(しがらみ)もない(応比なし)ので、悠然と隠遁する。宜しくないことは何一つない」とある。英国は世界中の富を専有している。しかし、時勢によってリーダーの地位を他国に譲り、専有している富を守るために隠遁する。富んでいる者は争いを好まないのである。だから、英国は戦争を欲しない。また大象伝には「君子以て小人を遠ざけ、惡(にく)まずして厳(げん)にす。君子は、小人を悪(にく)まずして自らを律し、その威厳によって小人を遠ざける」とある。すなわち、英国はロシアに対して防御を固めるが、開戦には至らない。これが英国の戦略である。
 では、次にロシアの立場(雷天大壮)から見てみよう。
 遯の上爻は大壮の初爻となる。すなわち、大壮の初爻に当て嵌めれば、ロシアの対応が見えてくる。上卦雷は勇敢に動き、下卦天は豪快に進む。ロシアが国土を拡大する勢いを現している。だが、初爻の段階ではまだ力がさほど強くなく、勇敢に動き、豪快に進むというわけにはいかない。しかし、年々勇敢さや豪快さを増していくから、四年後には(五爻に至ると)行動を起こすであろう。
 では、今後のロシアの動きを、大壮の言葉に由って予測してみよう。
 初爻の小象伝に「趾(あし)に壮(さかん)なりとは、其(そ)の孚(まこと)窮(きゆう)する也。卑(いや)しい身分でありながら、盛んに進もうとする。真心は有っても、暴走すれば、窮(きゆう)するのである」とある。ロシアはアフガニスタンに進行して、国土を拡大しようとするが、鉄道が繋がっていない。自由に兵隊を進めることができない。それゆえ今年(明治十八年)の段階ではは開戦しない。
 二爻の小象伝に「貞にして吉なるは、中(ちゆう)なるを以て也。正しい道を守って幸を得る。時に中って、暴走しないからである」とある。表立っては事を起こさない。すなわちこの段階(明治十九年)ではまだ開戦しない。裏側では鉄道を延長して兵士を訓練する。戦備を調えるのである。
 三爻の小象伝に「小人は壯(そう)を用(もち)う。君子は罔(な)き也。小人は暴走して自爆する。君子は立ち止まって暴走しない」とある。「小人は壯(そう)を用(もち)う」とは、兵士の訓練に更に力を入れ、鉄道を延長して英国兵のいる地域に入り暴行を恣(ほしいまま)に行うことを云う。「君子は罔(な)き也」とは、ロシア政府としては戦争を起こす意思は全くないことを表明することを云う。(以上は明治二十年の段階の予測である。)
 四爻の爻辞に「藩(まがき)決して羸(くるし)まず。大(たい)輿(よ)の輹(とこしばり)に壮(そう)なり。垣(かき)根(ね)は開いている。角(つの)を引っかけずに、進むことができる。車軸が堅固で大きな車で勇ましく進み、小人を平定して服従させる」とある。
 これまで三年間かけて鉄道を延長した。いよいよ、アフガニスタンに侵略して国土拡大の野望を実現する段階である。「藩(まがき)決して羸(くるし)まず」とは、ロシアの侵略に逆らう者はいないことを云う。「大(たい)輿(よ)の輹(とこしばり)に壮(そう)なり」とは、鉄道はすでに完成して、国土拡大のために、どんどん兵士が進んで行くことを云う。(以上は明治二十一年の段階の予測である。)
 大象伝に「君子以て礼に非(あら)ざれば履(ふ)まず。君子は、礼(調和)に適(かな)わない言行は、畏(おそ)れ慎(つつし)むのである」とある。ロシアは、すぐ(この占いを立てた明治十八年)には開戦せず、順序を踏んで明治十八年から数えて四年目となる明治二十一年に開戦して、国土拡大という野望を実現する。
 雷天大壮の互卦「沢天夬」は、アフガニスタンの国勢(衰退する時)である。夬は一陰が一番上にあって決壊する時だから、ついにはロシアに侵略されると認識すべきである。
 以上、英国の立場(天山遯)とロシアの立場(雷天大壮)で、両国の今後を占ってみた。
両国の戦争は、わが国に間接的にも直接的にも影響するであろう。わが国としての対処法をよく考えておくことが必要である。