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期間限定「現代語訳(超意訳) 呑象高島嘉右衛門著 増補 高島易斷 上下巻 占例篇」 天澤履

十 天沢履 ||| ・||

履、虎尾不咥人。亨。
□虎の尾を履(ふ)む。人を咥(くら)わず。亨る。
 履は乾(剛健)に兌(和悦)が履み随う時。
 小(兌)が大(乾)に履み随えば困難を伴い、虎の尾を履むような危険を伴う。
 和悦の心で剛健に履み随えば虎に噛(か)まれることなく、すらっと通る。
彖曰、履、柔履剛也。説而應乎乾。是以履虎尾不咥人、亨。剛中正、履帝位而不疚。光明也。
□履は、柔剛を履む也。説(よろこ)びて乾に応ず。是を以て虎の尾を履むも人を咥(くら)わず、亨る。剛中正にして、帝位を履みて疚(や)ましからず。光(こう)明(めい)あるなり。
 履は兌(柔)が乾(剛)に履み随う時。
 下卦兌は和らぎ悦んで上卦乾に履み随っている。虎の尾を履むような危険を伴うが、虎に噛まれることなく、すらっと通る。九五が剛健中正の德を具えて帝位に居り、何ら疚しいところなく、君德が天下に光り輝いている。
象曰、上天下澤履。君子以辯上下、定民志。
□上天下澤は履なり。君子以て上下を弁(わか)ち、民の志を定む。
 上に天(乾)、下に澤(兌)が在るのが履の形。君子は、上に在るべき天が上に、下に在るべき澤が下に在る形を見習って、上下関係を正して、民の心向きを安定させる。

 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての原文の一部。
(占)艱難ヲ冒シ危険ニ處スト雖モ、一ニ敬愼和順ヲ以テ能ク進退ノ節ヲ守リ、戰々兢々トシテ忍耐セバ終ニ其欲スル所ヲ得ベシ・・・
 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての現代語訳。
(占)艱難を冒して危険に対処する。人を尊敬し、礼儀を重んじ、調和と柔順を大切にし、節度を守り、戦々兢々として物事に応ずれば、万事に忍耐することができ、遂には希望を叶えられる。
○心身共に柔弱ゆえ、和悦して剛強なモノの後に付いて履み行けば、危ない事に臨んでも、リスクを避け、真っ直ぐに進んで行くことができる。だが、自分が人の先頭に立って進み行こうとすれば、必ず失敗して、結局、人の後を付いて行くことになる。
○自分が行なう事が全て正しければ失敗しない。このことをよくよく知っておくべきである。
○油断すると、自分から災難を招く。慎むべきである。
○上下きちんと区分し、尊卑の道理を正しく定め、礼儀を厚く信ずることが求められる。
○乾は厳しく、兌は調和する。外側は厳しくて、内側は調和する。
○怠惰で心身共に弱い。職を続けることや就職することは難しい。
○内側は柔らかくジメジメして、外側は剛強でサバサバしている。
○物事を実践する時。規則を守り通す時。
○落とし物や捜し物は何かに覆われ隠れている。上爻の時に至れば出てくる(見つかる)。
○女の裸体の象である。

履 初九 ||| ・||

初九。素履。往无咎。
□初九。素(そ)履(り)す。往くも咎无し。
 初九は剛健正位だが貧賤の位に在る。正応なく孤独ゆえ誰からも束縛・牽制されることなく、貧賤に素して自得する。何を為しても咎められない。
象曰、素履之往、獨行願也。
□素履の往くは、獨(ひと)り願いを行うなり。
 貧賤に素して自得する。それ以上を願わない。

 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての原文の一部。
(占)此爻ヲ得ルトキハ、本業ニ安ンジテ他人ノ僥倖ヲ羨ムベカラズ、又假令小ナリト雖モ、我心ノ純金ナランコトヲ望ムベシ、鍍金ニシテ大ナルヲ望ム可ナラズ、・・・
 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての現代語訳。
(占)本業に専念して、それに満足し、他人のことを羨ましがってはならない。小さな善行を積み上げて、善い人間になろうと望むべきである。メッキが剥がれるような善行を為し遂げようとしてはならない。
礼儀作法を大切にして、心を正しく、善き行いを積み上げれば、立身出世する予兆がある。
○漸次に積み上げるべきである。急激に事を成し遂げようとしてはならない。
○微力で弱い。人から虐待されることがある。
○目上の人を畏れる(畏れなければならない)時である。

 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占例の原文の一部。
(占例)横濱ノ商人某氏來リ告ゲテ曰ク、近來商業不景気ニシテ、得失相償ハズ爲メニ東京ニ轉住シテ新タニ一ノ事業ヲ起サントス、因テ前途ノ吉凶ヲ占ハンコトヲ請フ、乃チ筮シテ履ノ初爻ヲ得タリ、・・・
 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占例の現代語訳。
(占例)横浜の商人の某氏がやって来て、次のように云った。
「最近は、商業を取り巻く経済環境が悪いので、損得勘定に合わない(利益が出ない)。東京に移転して新事業を起こそうと思っているが、事業の前途の吉凶を占ってほしい」。
 そこで、筮したところ、履の初爻を得た。
 易斷は次のような判断であった。
 履の卦は、兌の少女が父親に従って、後を一生懸命に付いて行く時。だから、慎みの心で父親の仕事を履み行なうべきで、道を踏み外してはならない。堅固に父親の仕事を守り通すべきである。
 商売がうまくいくかどうかは、一時の通達や閉塞による。自ずから、その時々の盛衰に従うものだから、一時の閉塞状態に驚いて、自分の意志を変えてはならない。今の商売を大事に守って、努力を続ければ、やがては運が開ける時機が到来して、自然と繁盛するようになる。だから「素履す。往くも咎无し。初九は剛健正位だが貧賤の位に在る。正応なく孤独ゆえ誰からも束縛・牽制されることなく、貧賤に素して自得する。何を為しても咎められない」と云う。
 某氏は、この易断を聞き入れ、東京に移住することを断念し、横浜で今の商売を続けた。その後、しばらくするとチャンスが到来して、今の衰運を大転換させ、業務は隆盛に至ったのである。

履 九二 ||| ・||

九二。履道坦坦。幽人貞吉。
□九二。道を履むこと坦坦たり。幽人は貞にして吉。
 九二は不正だが中庸を得て才德高し。世に超然として坦坦と道を履み行う。毀誉褒貶に心奪われず、従容として世捨て人のようであるがよい。
象曰、幽人貞吉、中不自亂也。
□幽人は貞にして吉とは、中にして自ら亂(みだ)れざる也。
 世捨て人は、中庸の道をよく守り、富貴や栄達に、心乱さないのである。

 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての原文の一部。
(占)此爻ヲ得ルトキハ、事ニ臨ミテ速ナランコトヲ欲スレバ思ハザルノ禍アリ、故ニ静ニシテ時機ノ至ルヲ待ツベシ、然レドモ履ノ卦ハ本順ヲ踏ミテ事ヲ遂グルノ卦ナレバ、只事ヲ急ニセザルノミニシテ順序ヲ履ミテ事ヲ成スノ意ヲ忘ルベカラズ、・・・
 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての現代語訳。
(占)事を為して直ぐに結果を出そうとすれば、思ってもいなかった災難を招き寄せる。静かに時機が到来するのを待つべきである。
履は、元来、順調に事を為し遂げられる時である。直ぐに結果を出そうと急いではならない。順序を履んで事を成し遂げるが宜しい。
○履み行く道は危険だが、柔順に付き従って行けば、終には成就する。
○私利私欲に惑わされず、固く正しい道に履み従うべきである。危険な目に遭遇するが傷付くことはない。遂には吉運を得る。
○一人毅然として正しい道を守る時。
○人に恭しくして、敬する心を大切にすれば、自分の身を修めることができる。 ○家業を分担する時。
○所有物を紛失する心配がある。思わぬ損失が生じる時である。
○慎みの心を決して忘れてはならない。

 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占例の原文の一部。
(占例)一夕某貴顕ノ邸宅ニ竊盗忍ビ入リ、衣服若干ヲ盗ミテ逃ゲ去レリ、因テ其盗ノ捕ニ就クベキヤ否ヲ占ハンコトヲ請ハル、乃チ筮シテ履ノ第二爻ヲ得タリ、・・・
 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占例の現代語訳。
(占例)ある日の夕方、ある貴人の邸宅に泥棒が忍び込み衣服を若干盗んで逃げ去った。泥棒が捕まるかどうかを占ってほしいと頼まれたので、筮したところ、履の二爻を得た。
 易斷は次のような判断であった。
 履は、兌の少女が乾の老父に従って、その後を一生懸命に付いて行く象。老父が盗みを働けば、少女はその盗品を隠したり、形を変えて売り払ったりして、父子共に悪事を働く常習犯。悪事が発覚しないのは、やり方が狡猾で悪事に馴れているからだ。
 このことを「道を履むこと坦坦たり。幽人は貞にして吉。世に超然として坦坦と道を履み行う。毀誉褒貶に心奪われず、従容として世捨て人のようであるがよい」と云う。
 二爻から四爻に至る互卦(二・三・四)に離の火がある。火は明らかな性質を有するから、泥棒を探索している警察に例えられる。離の主爻である六三の担当者は、六三の象伝「眇(すがめ)にして能く視(み)るとするも、以て明有るに足らざるなり。よく視えるはずがなく、よく歩けるはずもない」に例えられるので、警察官としての役割を果たせずに泥棒を捕獲することができない。しかし、上爻には「履を視(み)て祥(しよう)を考(かんが)う。其れ旋(めぐ)れば元吉。剛柔備えた上九は、これまでの行程を省みて、禍福に至る機微を考察する。螺旋階段を上るように善行を積み上げてきたならば、大いに幸を得る」とあるので、上爻に至る五ヶ月後(二爻で一ヶ月、三爻で二ヶ月、四爻で三ヶ月、五爻で四ヶ月、上爻で五ヶ月)には、盗品が見つかって、そこから足が付いて泥棒が捕まると易断した。
 五ヶ月後、予測通りに盗品から足が付いて泥棒が捕まった。易断は的中したのである。

履 六三 ||| ・||

六三。眇能視、跛能履。履虎尾咥人。凶。武人為于大君。
□六三。眇(すがめ)にして能(よ)く視(み)るとし、跛(あしなえ)にして能く履むとす。虎の尾を履む。人を咥(くら)う。凶。武(ぶ)人(じん)大(たい)君(くん)と為る。
 柔弱不中正でやり過ぎる六三は、才德乏しく大事を成す器でないことを自覚していない。目が悪いのによく視え、足が悪いのによく歩けると思っている。己の力を過信して大事業を企て妄進し虎の尾を履む。虎に食われて自滅する。禍を招くことは当然のこと。放(ほう)恣(し)な武人(六三)が横(おう)行(こう)闊(かつ)歩(ぽ)して九五の大君に刃(は)向(む)かうのである。
象曰、眇能視、不足以有明也。跛能履、不足以與行也。咥人之凶、位不當也。武人爲于大君、志剛也。
□眇(すがめ)にして能(よ)く視(み)るとするも、以て明(めい)有るに足らざる也。跛(あしなえ)にして能く履むとするも、以て與(とも)に行くに足らざる也。人を咥(くら)うの凶は、位(くらい)當(あた)らざる也。武人大君と為るは、志剛なる也。
 よく視えるはずがなく、よく歩けるはずもない。虎に食われて自滅するのは、己の力を過信しているからである。放(ほう)恣(し)な武人が横行闊歩して九五の大君に刃向かう。強暴な野心野望を志と勘違いしているのである。

 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての原文の一部。
(占)此爻ヲ得ルトキハ、勢ニ乗じて我ガ才能ヲ恃ミ、妄ニ進ミテ業ヲ破ルノ時トス、百事温和を以テ人ニ接シ争論を爲スベカラズ、然ラザレバ禍ヲ取ルベシ、愼マザルベカラズ、・・・
 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての現代語訳。
(占)勢いに乗じ、自分の才能を過信して妄動する。大きく道を踏み外す時である。万事、温和な心で人に接し、人と論争してはならない。そうでなければ、自ら災難を招き寄せる。よくよく慎むべきである。
○小さな事を大袈裟に論じて、自分の分を超えた大望を企画・実行しようとする。出来もしない大言を吐いて、馬鹿なくせに利口ぶって、慎むことを知らない。愚かな人物が己の力を過信して虎の尾を履み、虎に食われる。大きな危険が自分の身に迫っている。
○能力もないのに、昇進や転職を望んで、結局、そのために苦労することになる。人から馬鹿にされる。
○能力がない人が過分な扱いを受けて人から嫉(ねた)まれる。予測できない災難に遭遇する。

 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占例の原文の一部。
(占例)友人副田虎六氏佐賀縣ヨリ來リ告ゲテ曰ク、某所ノ鑛山ハ工學博士ノ最モ賞揚スル所ニシテ其鑛質極メテ善良ナリト云フ、故ニ余今回政府ノ認可ヲ得テ將ニ其採掘ニ着手セントス、因テ其吉凶得失ヲ占ハンコトヲ請フト、乃チ筮シテ履ノ第三爻ヲ得タリ、・・・
 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占例の現代語訳。
(占例)友人の副(そえ)田(だ)虎(とら)六(ろく)氏が佐賀県からやって来て、次のように云った。
「ある場所の鉱山は、ある工学博士が最も推薦する所で、その性質は大変優れている。わたしは政府の認可を得て、その鉱山を採掘したいと思っているが、その吉凶と得失を占ってほしい」。
 そこで筮したところ、履の三爻を得た。
 易斷は次のような判断であった。
 履は、剛健な老父が先を進み、兌の少女がその後を付いて行く。先人が開発した鉱山を、あなたが後を継いで履み行なう。六三は陰爻陽位で氣合いはあるが、智恵も戦略も乏しい人物。大事業を軽く見て、きちんと計画を立てずに、無闇に実行しようとする。
 あなたは見識のある人だが、今回は見通しを誤っている。
 このことを「眇(すがめ)にして能(よ)く視(み)るとするも、以て明(めい)有るに足らざる也。目が悪いのによく視えるはずがない」と云う。
 あなたが取り組もうとしている鉱山事業には、無頼人が集まって来るので、厳しい規則を設けて、権力で統制し、厳格さと寛大さをほどよく織り込んで無頼人の心を帰服させなければならない。しかも、坑内を取り仕切るのは、その道のプロで老練した人物でなければ、事業を成功させることはできない。
 もし、その道に熟練していない人物が坑内を取り仕切ったら、無頼人に侮辱されて、収拾が付かなくなる。無頼人を帰服させるのは理屈ではない。学者や政治家がどうすることもできない。あなたは、今、無頼人を帰服させる人材を得ていない。
 だから、今回の事業はうまくいかない。足の悪い人が飛脚を行なうようなものである。
 このことを「跛(あしなえ)にして能く履むとするも、以て與(とも)に行くに足らざる也。足が悪いのによく歩けるはずがない」と云う。
 あなたは、「虎穴に入らずんば虎児を得ず」の諺に基づいて、リスクの高い事業を行なおうとしている。それがどれだけ危険であるかを悟り、思い止まるべきだ、と易断した。
 だが、副(そえ)田(だ)虎(とら)六(ろく)氏は、わたしの易断を聞き入れず、ある工学博士と一緒に鉱山事業に取り組んだ。しかし、工学博士は机上の空論のみで現場を知らず、部下は誰も帰服せずに事業は失敗した。
 先人は「金銀の山は政府が直轄して採掘すべきものである」と云っている。毎年五万円の予算をかけて、二万円の金銀を掘り出すようなものである。事業として採算が取れない場合でも、金銀は硬貨として世間に流通させなければならないものだから、公共事業でなければ鉱山を所有するのは難しいのである。~以下省略~
 ある外国人は「鉱山事業に取り組む経営者が百人いたとすれば、九十九人が損失を出してしまう。残りの一人が大儲けすることになる。だから、鉱山事業はギャンブルのようなものである」と云っている。
 実に味わうべき言葉である。

履 九四 ||| ・||

九四。履虎尾。愬愬終吉。
□九四。虎の尾を履む。愬(さく)愬(さく)たれば終に吉。
 才德高く柔和な九四は、天子に仕える側近という虎の尾を履みかねない危険な地位に居て、不義を諫める役割を担っている。戦々兢々と戒慎恐懼して柔和に事に対処すれば、やがて幸を得る。
象曰、愬愬終吉、志行也。
□愬(さく)愬(さく)たれば終に吉とは、志行なわるる也。
 戦々兢々と戒慎恐懼して柔和に事に対処すれば、やがて幸を得る。苦労に苦労を重ねて、側近の役割を全うする。

 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての原文の一部。
(占)此爻ヲ得ルトキハ、温和ヲ以テ人ニ接シ、篤實ヲ以テ事ニ當レバ危険に臨ムト雖モ、之ヲ免ルルヲ得ベシ、運氣平ナルノ時トス、・・・
 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての現代語訳。
(占)温和に人と接して、篤実に事に中れば、危険を回避することができる。運気が安定している時である。
○危険はあるが、畏れる心と敬する心があれば、吉運を招き寄せる。
○人を敬し、また人から敬される時である。
○色情(情欲)が深くなるので、慎まなければならない。

 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占例の原文の一部。
(占例)明治十七年十二月、朝鮮京城ニ於テ、彼國政黨ノ軋轢ヨリ亂起リ、(中略)、是レ實ニ國家ノ重事ナレバ、某貴顕余ヲシテ動静如何ヲ占筮セシム、余乃チ謹テ之ヲ筮スルニ、履ノ中孚ニ之クニ遇ヘリ(即チ第四爻)・・・
 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占例の現代語訳。
(占例)明治十七年十二月、朝鮮の京城において、朝鮮国の政党間の軋轢(あつれき)により、内乱が起こって紛糾したが、党派の正邪は判別できない。朝鮮国王は特使を派遣して、わが国の大使・竹添君に再三に渡って護衛を依頼した。そこで、護衛兵を派遣して護衛の任に当たったが、清国の将軍が部下の兵隊を率いて朝廷に迫り、わが国の護衛兵に発砲。将軍は兵隊に命令してわが国の商人をも虐殺したのである。
 このことがわが国に伝わると、官民共に騒然として、外務大臣の井上伯を全権大使に任命し、十二月二十四日に横浜から朝鮮に向かった。国家の重大事である。
 ある貴人から、この動静がどうなるかを占ってほしいと頼まれた。
 謹んで筮したところ、履の四爻(之卦中孚ゆえ、履の時から中孚の時に転ずる)を得た。
 易斷は次のような判断であった。
 履は上卦天を父、下卦沢を少女とする。すなわち、少女が父に従い、その後を履み行なって付いて行く象である。日本はすでに欧米の文明開化を履行して、速やかに近代化を進めている。すなわち、日本は前進して、朝鮮が後を付いて来ている。一部の朝鮮人が朝鮮国内で内乱を起こしたのは、わが国にとって好ましくないだけでなく、亜細亜全域にとっても障害となる。だが、一部の朝鮮人はこのことを理解せず、妄りに外国人を排除して、内乱を起こし、現地の日本人を殺害するに至った。目が悪いから社会の情勢がよく見えず、足が悪いから進む方向がわからない者である。このことを三爻の象伝に「眇(すがめ)にして能く視(み)るとするも、以て明(めい)有るに足らざる也。跛(あしなえ)にして能く履むとするも、以て與(とも)に行くに足らざる也。よく視えるはずがなく、よく歩けるはずもない。虎に食われて自滅するのは、己の力を過信しているからである」とある。
 一部の朝鮮人が現地の日本人を殺害したのは、子どもが虎の尻尾を履んだのと同じである。外務大臣の井上伯を全権大使として、朝鮮国に派遣したのだから、朝鮮政府はその過失を認めて大いに後悔し、また、自国が弱小国であることを省みて、虎に噛まれることがないように、ひたすら日本に詫びれば、断罪されることは免れる、と易断した。
 同年十二月二十七日、福沢諭吉氏から前述した朝鮮の易断を解説してほしいと頼まれた。わたしが出向くと、出版社の社員が大勢、席に座って待っていた。
 幹部社員がわたしに尋ねた。
「今回の朝鮮の出来事については、和平を主張する者と戦争を主張する者に二分して、なかなか結論が出ないが、どちらが正しいか判断することは難しい。あなたが易占で結果を予測したのは、時代遅れだと思われるが、易占の効用をお聞かせ願いたい」。
 わたしは「易占は天命を通じて、将来のことを予測するものであって、新聞記者が将来を想像して論じることとは、その性質を異にするものである。易占によって、将来のことを予測するのは、まるで火を見るように明らかなことである」と、伝えて、前述した易断を解説したが、福沢氏を始め出版社の社員は、易占の効用を内心疑っているようだった。
 帰宅すると、福地源一郎氏から書が届いており、朝鮮の易占を解説してほしいと請われた。よって、前述した易占を書に記して送り返したところ、翌年明治十八年一月一日発行の東京日日新聞紙上にこの易占が掲載された。その後、時事新報の記者がこの易占を取り上げ誹謗中傷した。現実を説く学問は知っているが、真理を説く学問を知らない者である。
 井上伯を全権大使として朝鮮において談判を開始したのは一月二日のことである。天命は髪の毛一本ほどの誤りもなかった。わたしの易占が的中したことが、易占の効用を証明している。

履 九五 ||| ・||

九五。夬履。貞厲。
□九五。夬(さだ)めて履む。貞なるも厲し。
 剛健中正の天子九五は、応比なく臣下が帰服していない。天子の権勢と才德に頼り、独断で政治を行う。志や政策が正しくても、独り善がりに陥る危険がある。
象曰、夬履、貞厲、位正當也。
□夬(さだ)めて履む、貞なるも厲しとは、位正しく当れば也。
 志や政策が正しくても、独り善がりに陥る危険がある。尊位に在って君德が足りないのである。

 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての原文の一部。
(占)此爻ヲ得バ、數年ノ困苦、今ニ至テ漸ク解ケ、青雲ヲ披キタルノ時トス、然リト雖モ從來困苦シテ、今ノ位地ニ至リタルコトヲ深ク顧ミ、愈々恭順和正ヲ加ヘザルベカラズ、然ラザレバ長ク其位地ヲ保ツ能ハザルナリ、・・・
 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての現代語訳。
(占)数年間続いた困苦が今に至ってようやく解け、青雲が開ける時。これまで困苦が続いたことを深く反省し、ますます恭しく、柔順であることを心がけ、調和と正しさを取り戻さなければならない。そうでなければ、今の地位を長く保つことはできない。
○願望を至誠の心で実現すれば、事を成し遂げられる。
○自分から求めていないのに、時が到来することがある。
○出処進退は吉運。昇進が実現する時である。
○自分の決断を過信して、諫言を聞き入れない時は危険を招き寄せる。

 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占例の原文の一部。
(占例)某會社ノ社長來リテ運命ヲ占ハンコトヲ請フ、乃チ筮シテ、履ノ第五爻ヲ得タリ・・・
 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占例の現代語訳。
(占例)ある会社の社長から、運命を占ってほしいと頼まれた。
 そこで筮したところ、履の五爻を得た。
 易斷は次のような判断であった。
 履は、兌の少女が乾の父の後を付いて行く象である。
 君(その会社の社長のこと)は学識があり、穏和な性格で人脈が広い。株主から推薦されて社長に就任し、大勢の従業員を率いて会社を統治するのは、当然のことである。だが、きみは社長の職権を振りかざして、従業員の諫言を聞き入れない所がある。いくら優れた経営者でも背中に目は付いてない。独断で全てを決めるというやり方は、いつかは過失を招きかねない。
 このことを「夬(さだ)めて履む。貞なるも厲し。剛健中正の天子九五は、応比なく臣下が帰服していない。天子の権勢と才德に頼り、独断で政治を行う。志や政策が正しくても、独り善がりに陥る危険がある」と云う。
 ただし、君が社長の任に適さないというわけではない。きみが社長の任に適していることは、わたしは深く信じている。易断のメッセージを警鐘と受け止めて対処すべきである。
 その後、果たして易占の通りになった。

履 上九 ||| ・||

上九。視履考祥。其旋元吉。
□上九。履を視て祥(しよう)を考う。其れ旋(めぐ)れば元吉。
 剛柔備えた上九は、これまでの行程を省みて、禍福に至る機微を考察する。螺旋階段を上るように善行を積み上げてきたならば、大いに幸を得る。
象曰、元吉在上、大有慶也。
□元吉にして上に在り、大いに慶び有るなり。
 大いに幸を得て、君主の上に在る。そこに、大きな慶びがある。

 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての原文の一部。
(占)今ハ願望已ニ遂ゲテ、其身安泰ナルノ時ナリ、又己レヨリ識量勝リタル人モ、我位地ヨリ下ニ居ルコトアルモノナレバ、能ク思慮ヲ運ラシテ、・・・
 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての現代語訳。
(占)願望を成し遂げて、心身とも安楽な時。自分よりも優れている人が、自分より下の地位にいることもある。よくよく思慮して目下の人を厚く処遇し賢人を抜擢すべし。そのように対処すれば、今の地位を長く保つことができて、大いなる吉運を招き寄せる。
 履の極点に居るので、これ以上進んで行こうとは思ってはならない。志半ばの頃の自分を思い出し、欲望を制御して、温厚な人格となり、平和を大切にして、今の地位を保つべきである。
○過ちを悔いて反省すれば、物事は調和して吉運を招き寄せる。
○糸が縺(もつ)れたような苦労が去って、安心できる。
○万事、幸福を招き寄せる。
○安心できないような感じで、意外と安心できる。
○周りの人を大切にすれば、大いに吉運を招き寄せる。
○自分を戒め慎んで、災難を免れる。
○(善くも悪しきも)人に馴れる時。
○世間の人から才能高い賢者と称される。益々心を磨き、人間として成長すべきである。

 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占例の原文の一部。
(占例)明治二十三年十月、東京府下第十五區代議士ノ選擧ニ際シ、(中略)其成否ヲ占ハンコトヲ請フ、乃チ筮シテ、履ノ上爻ヲ得タリ・・・
 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占例の現代語訳。
(占例)明治二十三年十月、東京府の第十五区代議士の選挙に際して、候補者が三名立った。その一人は豪商であった。
 ある日友人がやって来て、立候補した豪商の選挙結果を占ってほしいと頼まれた。そこで筮したところ、履の上爻を得た。
 易斷は次のような判断であった。
 履は、兌の足の弱い少女が乾の剛健な老父の後を一生懸命付いて行く時だから、凄い勢いで進んで行く。この爻は、経験と実績の豊富な大事業家。多くの艱難辛苦を乗り越えて功を成し遂げた人物である。だが、不中正で才徳乏しい六三に応じている。六三は愚人であることをよく知っておかねばならない。
 今や履の終わりの時、これ以上履み進む必要はない。
 これまでの行ないを反省し、思慮する時は大いなる吉運を招き寄せる。事業を企てて推し進めようとすれば、凶運を招き寄せる。
「選挙に立って人と競争するなど、とんでもないことだ」と易断した。
 その後伝え聞くことによると、その豪商は選挙に立つことを断念して人と競争することを回避したと云う。