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易経六十四卦と本書(時の物語)の関係 18

五十二.五蘊皆空と照見する時    二百四十頁   艮為山 ☶☶
五十三.漸進すれば幸を得る時    二百四十四頁  風山漸 ☴☶
五十四.媚び諂って失敗する時    二百四十九頁 雷澤帰妹 ☳☱

五十二艮(ごん)為(い)山(さん) ☶ ☶ 艮上艮下  五(ご)蘊(うん)皆(かい)空(くう)と照見する時 二百四十頁
 艮為山は上卦・下卦共に艮☶山である。山はどっしりと止まって微動だにしない。それゆえ、外面的(物質的)に物事が発展・成就する側面よりも、内面的(精神的)に安定する側面に焦点を中てた時の物語である。
 「おおきな物語」に「其(その)背(せ)に艮(とど)まり、其(その)身(み)を獲(え)ず」とあるが、其(その)背(せ)とは内面(精神)、其(その)身(み)とは外面(物質)である。すなわち、内面(精神)が安定していれば、外面(物質)がどうであろうと気にならないのである。
 般(はん)若(にや)心(しん)経(ぎよう)に「色(しき)即(そく)是(ぜ)空(くう)、空(くう)即(そく)是(ぜ)色(しき)」とあるが、「色」とは外面(物質)、「空」とは内面(精神)である。俗世間で起こる出来事は「色(外面)」である。外面的(物質的)に成功しようが失敗しようが、そんなことには囚われずに、内面的(精神的)に安定している。それが「其(その)背(せ)に艮(とど)まり、其(その)身(み)を獲(え)ず」である。

五十三風(ふう)山(ざん)漸(ぜん) ☴ ☶ 巽上艮下  漸進すれば幸を得る時 二百四十四頁
 風山漸☴☶は、下卦艮☶の山の山頂に、上卦巽☴の樹木(巽は陰陽五行の木)が聳(そび)え立っている。樹木はこれからも成長し続けるが、山頂にあるので目立って成長しているようには見えない。すなわち、漸次(徐々)に成長する。
 上卦坤☷の大地の下に、下卦巽☴の木の種が埋まっている地風升☷☴の樹木が、すくすく成長していくのとは対照的である。共に昇り進む時だが、風山漸は漸次(徐々)に昇り進む(成長する)のに対して、地風升はすくすくと昇り進む(成長する)のである。
五十四雷(らい)澤(たく)帰(き)妹(まい) ☳ ☱ 震上兌下  媚び諂って失敗する時 二百四十九頁
 雷澤帰妹は自分が何かをやろうとしても思った通りには絶対にできない時である。衰運であり実に嫌な時である。人生、自分が思った通りにできることなどほとんどない。そういう意味から雷澤帰妹を捉えるならば、自分の思い通りにならない現実と如何に折り合いを付けるかと云う教訓である。
 では、雷澤帰妹を人生に重ねて考えてみる。そもそも自分の出生自体が自分の思い通りにならない。両親を選ぶこともできないし、国家や人種や経済状態などを選ぶこともできない。
 わたしたちは、突然、ある国家のある人種のある経済状態のある両親からこの世に生まれ出てくる。自分の思いとは全然関係のないところで、選択の余地なく生まれてくる。生まれてきたことを「よし」とするしかないのである。