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時の物語(易経短編小説集・近日中に出版予定)56

五十五.名君が暗君に堕落する時

 名君(立派なリーダー)によって盛運の中で繁栄していた組織が衰運の真っ只中に陥る時、それが「名君が暗君に堕落する時」である。盛運から衰運に陥ったのは、名君が暗君(愚かなリーダー)に堕落したからである。盛運がやがて衰運に転ずるように、名君も自らを律することを怠れば、暗君に堕落するのである。だが、衰運もやがて盛運に至るように、暗君も名君として生まれ変わることができる。
 人生塞翁が馬、良くも悪くも前向きに生きていくしかないのである。

 「名君が暗君に堕落する時」の主人公は名君(立派な社長)の父親から事業を引き継いだ暗君(駄目な社長)の「あなた(わたし)」である。

 創業三十年の(株)雷神(以下当社と言う)は、後に名君(立派な経営者)と呼ばれるようになる雷神剛が四十歳の時に創業。雷神剛の斬新な発想とIT技術を駆使してめきめき頭角を現し、日本のIT市場を席巻した。現在売上高五百億円、従業員数百名の優良企業として多くの日本人に支持されている。雷神剛が七十歳を迎え、雷神の側近として仕えてきた生え抜きの花火豊六十歳が専務取締役から代表取締役に昇進し二代目社長となった。同時に雷神剛の一人娘雷神泉四十五歳が営業部長から専務取締役に昇進した。雷神剛は晩年を心静かに僧侶として生きるため、俗世間を離れて現役の時から指導を仰いでいた老師にお願いして禅寺で修行僧となった。雷神泉の一人息子雷神尚二十二歳は今年当社に入社し企画開発部に配属された。
 当社の強みはIT企画開発力と営業力にある。特にIT企画開発課係長の見田龍二三十歳と営業課係長の咸田臨三十二歳の二人は当社のエースとして社内の厚い信頼を得ると共に将来を期待されていた。当社が創業以来快進撃を続けて、三十年間増収増益を続けているのも、彼らのようなエース社員を多数抱えているからである。優れた人材が集まってくるのは創業者雷神剛の人間的な魅力があったからだ。その雷神剛が俗世間から離れて二代目社長花火豊による新体制となった。花火豊も雷神剛から直接学び人間的な魅力を具えているが、雷神剛に比べると見劣りする。花火豊は専務に昇格した雷神剛の一人娘雷神泉が経営者としての資質を身に付けるまでの中継ぎ的な役割を担っている。以下省略。