五十六.アウェイに赴く時
アウェイとは一般的にスポーツで敵地を指すが、ここでは「旅先」「長期出張」「出向先」「居心地が悪い場所」「場違いな空間」などを表す。ある時突然、経験や人脈が全くない所(居心地が悪い場所、場違いな空間)に旅したり、異動したり長期出張や出向を命じられたらどうすればよいか。それが「アウェイに赴く時」である。「アウェイに赴く時」は何事も慎重でなければならぬ。明智で物事を見極め慎重に決断して速やかに対処するのだ。
「アウェイに赴く時」の主人公は、会社に命じられ突然アウェイに赴くことになった六人の「あなた(わたし)」である。
○アウェイに赴いた一人目の「あなた(わたし)」
わたしは極々平凡なサラリーマン。普通に学校に行き普通の成績で普通に卒業して普通の会社に入った。生まれてから実家を離れたことはなく会社も実家の近くにある。定年までこの会社で普通に働くつもりだった。ところが、入社二年目に本社から最も離れた山間地の村落にある出張所に異動を命じられた。出張所は一人勤務で宿舎も兼ねている。村落には二百人弱が居住しており完全な閉鎖社会だ。交通の便が極端悪く現地に赴任した人は次の異動先に移るまでは帰宅できない。赴任期間は一年間で二十代の独身者が赴任する決まりになっている。一年間閉じ込められた生活を送るので、赴任期間を終えると特別賞与が支給される。世間知らずのわたしは出張所に赴いても村民との交流が苦手で孤独感を味わい続けた。村民も陰でわたしの悪口を言っている。針のむしろの一年間が過ぎて本社に戻れることになった。
ご褒美に特別賞与が支給されたがあまりうれしくない。元々人見知りするわたしだったが、この一年で人間不信に陥り相手の顔を見て話をすることができなくなった。こんな精神状態なので命じられた仕事ができなくなり、ノイローゼになって会社を辞めた。
わたしは一体これからどうすればいいのだろう。
○アウェイに赴いた二人目の「あなた(わたし)」以下省略。