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時の物語(易経短編小説集・近日中に出版予定)58

五十七.大人(立派な人)に順う時

 時の物語は「一.がんばる時」と「二.素直に順う時」で始まった。「がんばる時」は自分が主役として動く時の心構えで、「素直に順う時」は自分は脇役として動く時の心構えであった。「大人(立派な人)に順う時」は自分が人間として成長する時の心構えだ。大人を分かり易く説明すると「立派な人」であるが、厳密に定義すると「天命を自覚して人の道を歩んでいる人」である。あなたが人間として成長するためには「天命を自覚して人の道を歩んでいる人」を敬い順うことが求められる。

 「大人(立派な人)に順う時」の主人公は「四十七.水が漏れて乾涸らびる時」に登場したパスタ専門店「アルデンテ」を開業した「あなた(わたし)」である。

 小さな頃から料理好きのわたしは、三十五歳でパスタ専門店「アルデンテ」を開業、四十五歳で二号店、五十歳で三号店を出店した。その後、コロニャン伝染病で苦境に陥ったが、従業員の力を借りて乗り切り、五十五歳になった今、固定客に支えられて三店舗体制を維持している。無我夢中でお店を経営してきたので、人間の生き方や社会について何も考えてこなかったが、最近の世相を見て「日本はこのままでよいのだろうか」と思うようになった。わたしの店で働いているスタッフは学歴社会から落ちこぼれた若者が多い。学歴がないから勤め先が見付からずに、手に職を付けようと求職してくるパターンがほとんどだ。飲食店は接客が大事だから、入ったばかりのスタッフには仕事中は常にお客様の立場で考えるようにと指導することが多い。スタッフは二十代の若者が多く話をしてみると素直で良い子だが、勤め始めた頃は物事を斜めから見ている子が多い。学校に通っていた時に味わった劣等感が心の奥に潜んでいるのだ。以下省略。