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四季と易経 その四十四

菖蒲華(あやめはなさく)(七十二候の二十九候・夏至の次候)

【新暦六月二十六日ころから三十日ころまで】
 意味は「あやめの花が咲く(絵で楽しむ)」である。
 「絵で楽しむ」には次のように書いてある。
 菖蒲(あやめ)の花が美しく彩る時季。平安文学によると、もともと端午の節句の菖(しよう)蒲(ぶ)湯(ゆ)に用いられるサトイモ科の菖(しよう)蒲(ぶ)のことをアヤメと読んでいました。やがて江戸時代から現在のアヤメ科の菖蒲(あやめ)を指すように。菖蒲(あやめ)と杜若(かきつばた)のように似ている花も多く、「いずれ菖蒲か杜若」ということわざは、どちらも優れていて選び迷うことをいいます。

 「菖蒲華(あやめはなさく)」は、易経・陰陽消長卦の「天風姤」九二に中る。次に「天風姤」九二の文章(爻辞と小象伝)を示す。
 「天風姤」九二の言葉は【新暦六月二十六日ころから三十日ころまで】に当て嵌まる。

天風姤九二(易経・陰陽消長卦)

《爻辞》
九二。包有魚。无咎。不利賓。
○九二。包(つと)に魚(うお)有り。咎(とが)无(な)し。賓(ひん)に利(よろ)しからず。
 九二は剛健にして中庸の德を具えた君子。すぐ下に居る悪しき小人初六を苞(つと)に悪魚を包むように封じ込める。傍から見ると、徐々に君子に浸透して邪心を蔓延(はびこ)らせる小人初六と親しんでいるように見えるが、悪魚の影響が他に及ばないように(一陰五陽で一陰に惹かれかねない陽爻を守ろうと)しているのだから何も問題ない。苞(つと)に包んだ悪しき小人初六を、絶対に他の君子(陽爻)に遇わせてはならない。

《小象伝》
象曰、包有魚、義不及賓也。
○象に曰く、包(つと)に魚(うお)有りとは、義、賓(ひん)に及ばざる也(なり)。
 小象伝は次のように言っている。苞に悪魚を包むように悪しき小人初六を封じ込める。一陰五陽の悪しき一陰初六を他の君子(陽爻)に遇わせることが、君子の道義(道德を大義として人の道を真っ直ぐに正しく歩むこと)に悖(もと)るからである。

 「天風姤」九二の之卦は「天山遯」である。次に「天山遯」の全体像を表す言葉(卦辞・彖辞、彖伝、大象伝)と「天山遯」六二の言葉(爻辞、小象伝)を示す。これらの言葉は「乾為天」の九二と同じく【新暦五月二十六日ころから三十日ころまで】に当て嵌まる。

天山遯(天風姤九二の之卦)

《卦辞・彖辞》
遯、亨。小利貞。
○遯(とん)は亨(とお)る。小は貞(ただ)しきに利(よろ)し。
 遯(とん)は陰(小(しよう)人(じん)・衰運・悪)の勢いがだんだん盛んになって、最早その勢いを抑制することができない時である。陽(盛運・善)の君子は隠(いん)遁(とん)して道を全うするしかない。
 大きな事業に取り組んではならない。小さな事業に取り組む場合は、正しい道(道德)を固く守れば(小人の害悪に影響されなければ)、事をうまく運ぶことができる。

《彖伝》
彖曰、遯亨、遯而亨也。剛當位而應、與時行也。小利貞、浸而長也。遯之時義、大矣哉。
○彖に曰く、遯は亨るとは、遯(のが)れて而(しか)して亨る也。剛、位に當(あた)たりて應(おう)じ、時と與(とも)に行う也。小は貞(ただ)しきに利(よろ)しとは、浸(ようや)くにして長ずれば也。遯の時(じ)義(ぎ)大なる哉(かな)。
 彖伝は次のように言っている。陰(小(しよう)人(じん)・衰運・悪)の勢いがだんだん盛んになっていく遯の時に中り、陽(盛運・善)の君子は隠(いん)遁(とん)して道を全うするしかない。小人が跋(ばつ)扈(こ)する世の中から隠遁して人の道(道德)を全うするのである。
 陽剛九五と陰柔六二は中正にして相応じ、陰(小(しよう)人(じん)・衰運・悪)の害悪から遁(のが)れるべき時は遁れ、遁れるべきでない時は正しい道(道德)を固く守る。
 小さな事業に取り組む場合は、正しい道(道德)を固く守れば(小人の害悪に影響されなければ)、事をうまく運ぶことができる。小人の勢力が漸(ぜん)次(じ)に大きくなるので、大きな事業に取り組んではならない。小人が跋(ばつ)扈(こ)する世の中から隠遁して人の道(道德)を全うするのである。小人が跋(ばつ)扈(こ)する遯の時は、君子にとって大きな意義がある。

《大象伝》
象曰、天下有山遯。君子以遠小人、不惡而嚴。
○象に曰く、天の下に山有るは遯なり。君子以て小人を遠ざけ、惡(にく)まずして嚴(げん)にす。
 大象伝は次のように言っている。乾(天)の下に艮(山)が有るのが遯の形である。下から見ると山の頂上は天のように見えるが、山頂に登ると天は遙(はる)か彼(か)方(なた)に遠ざかる。
 君子はこの(下から見ると山の頂上は天のように見えるが、山頂に登ると天は遙(はる)か彼(か)方(なた)に遠ざかる)形に見習って、小人を悪(にく)まずして自らを律し(人の道=道德を全うし)て、その威厳によって小人を自然と遠ざける(近づけない)のである。

天山遯六二(天風姤九二の之卦・爻辞)

《爻辞》
六二。執之用黄牛之革。莫之勝説。
○六二。之(これ)を執(と)るに黄(こう)牛(ぎゆう)の革を用(もち)う。之(これ)を説(と)くに勝(た)ふる莫(な)し。
 柔順中正の成卦主六二は遁れ退く時のトップである剛健中正の九五と相応じている。
 柔順中正の德で黄(こう)牛(ぎゆう)の皮ひもを固く結ぶように九五をしっかり繋(つな)ぎ止め、遁(のが)れるべきでない時はどっしりとその位(くらい)に止(とど)まり、遁れるべき時は躊躇することなく速やかに隠(いん)遁(とん)する。九五との結びつきは、固く結んだ黄牛の皮ひもを解き離せないほど堅(けん)固(ご)である。

《小象伝》
象曰、執用黄牛、固志也。
○象に曰く、執(と)るに黄(こう)牛(ぎゆう)の革を用(もち)うるは、志を固くする也(なり)。
 小象伝は次のように言っている。六二は黄(こう)牛(ぎゆう)の皮ひもを固く結ぶように九五をしっかと繋ぎ止め、遁れるべきでない時はどっしりとその位に止まり、遁れるべき時は躊躇することなく速やかに隠遁する。九五と共に遁れ退く時の志(使命)を堅固に守るのである。