小過 九三 ・・| |・・
九三。弗過、防之。從或戕之、凶。
□九三。過ぎず、之を防ぐ。従って或(あるい)は之を戕(そこな)はば、凶。
行き過ぎる時にうっかり上六と親しんで取り込まれないように防禦しなければならない。うっかり傲慢な上六に従えば、討ち滅ぼされるような禍(わざわい)を受ける。
象曰、從或戕之、凶如何也。
□従って或(あるい)は之を戕(そこな)はば、凶如何(いかん)せん也。
上六に従えば、討ち滅ぼされる。防(ぼう)御(ぎよ)できないので、従ってはならない。
以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての原文の一部。
(占)才力アリテ上ニ立ツト雖モ、位置不正ニシテ、下ヨリ嫌疑ヲ受ルノ時ナリ、又知ラズ、世風ニ誘ハレ、偽君子ノ體ヲ粧フ者タリ、又下ニハ妬忌セラレ、上ニハ・・・
以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての現代語訳。
(占)才能と力量が高くて現場を管理する地位に在る。だが、その地位に相応しくない性格(不正)なので部下から疑われる。
○知らず知らず世の中の風潮に乗って君子を装う。
○下位の人々からは妬まれて、上位の人々からは迷惑をかけられる時。自分の身の丈(己の分)を超えた依頼に応じて苦しむ。己の分を知り、自戒して、時運が変化するのを待つべきである。
○部下の越権行為によってトップが損害を蒙(こうむ)る時である。
○男色に関係することで災難を招き寄せる。
○人に尽くされることが、迷惑に感じる時である。
○災害が目前に迫っている。神仏にお祈りしてご加護を賜るべき時。
○何らかの圧力によって、モノを奪われる。
○徒党を組む時である。
以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占例の原文の一部。
(占例)一日横濱辨天通ノ商人、橘屋磯兵衛氏來リ、余ニ謂テ曰ク、僕ガ友人ニ左右田金作ト云フ者アリ、今朝丁稚ヲシテ紙幣三千圓ヲ三井銀行ニ(中略)未ダ其踪跡ヲ得ズ、吾子幸ニ一占シテ、其方位ヲ明示セヨト、余、乃チ筮シテ、小過ノ第三爻ヲ得タリ、・・・
以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占例の現代語訳。
(占例)ある日、横浜弁天通りの商人・橘屋がやって来て、その友人が今朝、三千円を送金するために丁稚に銀行に行かせたが、未だに丁稚が帰ってこないので、銀行に問い合わせたところ、丁稚は来ていないと云うので、吃驚してみんなで捜索しているが見付からない。そこで、丁稚が何処へ行ったのかを占ってほしいと頼まれた
そこで、筮したところ小過の三爻を得た。
易斷は次のような判断であった。
小過の下卦艮は少男、上卦震は長男である。少男が長男の上で動くと云う男色の形となっている。爻辞の「過ぎず、之を防ぐ。従って或(あるい)は之を戕(そこな)はば、凶。行き過ぎる時にうっかり上六と親しんで取り込まれないように防禦しなければならない。うっかり傲慢な上六に従えば、討ち滅ぼされるような禍(わざわい)を受ける。」とは、少男は長男に圧力をかけられて、その言葉に従って災難を蒙ると云うことである。
小過は初爻・二爻・五爻・上爻いずれも陰爻であって、三爻と四爻が陽爻である。これは飛ぶ鳥の形である。それゆえ卦辞・彖辞に「飛(ひ)鳥(ちよう)、之が音(ね)を遺(のこ)す」と云う。つまり、鳥が飛んで行ってしまう時だから、鳥を捕らえる手段を講じなければならない。しかし、三爻(丁稚のこと)は鳥の翼ではなく胴体なので、飛んで行くことができない。まだ近くに隠れていて、三日後(三・四・五爻)に逃げ出すつもりである。何故ならば、五爻の爻辞に「公(こう)、弋(よく)して彼(か)の穴に在(あ)るを取る」とあるからである。三爻から五爻に至るのに三日かかると考えられる。つまり、今日から三日以内に丁稚を捕えなければ、お金を持ち逃げされてしまうと易斷した。ところが、三日後に少男(丁稚)の死体が、長男(丁稚の先輩)の米びつの中で見付かった。そこで、長男(丁稚の先輩)を捜索して捕まえて詰問した。丁稚と先輩は同郷で親しい仲で、常に親しくしていたが、ある時、丁稚が銀行に送金しに行くことを知って、丁稚を騙して殺害しお金を奪ったのである。そして死体の始末に困り、米びつの中に隠し、布で包み隣の家に預けて、逃亡したのであった。