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期間限定「現代語訳(超意訳) 呑象高島嘉右衛門著 増補 高島易斷 上下巻 占例篇」 天水訟

六 天水訟 ||| ・|・

訟、有孚窒。惕中吉、終凶。利見大人。不利渉大川。
□訟(しよう)は、孚(まこと)有りて窒(ふさ)がる。惕(おそ)れて中すれば吉、終れば凶。大(たい)人(じん)を見るに利し。大(たい)川(せん)を渉(わた)るに利しからず。
 訟は乾(剛健)と坎(険難)が反目して争い事や訴訟が起きる。誠の德が充実しているが、穴の中に陥って閉塞している。戒め懼(おそ)れて忍耐し、適切な時に訴訟を取り下げるがよい。訴訟を続けても解決しない。剛健中正の天子九五を大人として仰ぎ、解決してもらうがよい。危険を犯してはならない。
彖曰、訟上剛下険。険而健訟。訟有孚窒、惕中吉、剛來而得中也。終凶、訟不可成也。利見大人、尚中正也。不利渉大川、入于淵也。
□訟は上(うえ)剛にして下(した)険なり。険にして健なるは訟なり。訟は孚有りて窒がる、惕れて中すれば吉とは、剛來りて中を得ればなり。終れば凶とは、訟は成す可からざればなり。大人を見るに利しとは、中正を尚ぶなり。大川を渉るに利しからずとは、淵に入るなり。
 上卦乾が剛健、下卦坎が険難。内(下)は陰険な性質で外(上)は剛健な性質ゆえ訴訟が起こる。戒め懼れ忍耐し、適切な時に訴訟を取り下げるがよい。剛健九二が下卦に居て中庸の德を得ている。訴訟を続けても解決しない。本来、訴訟は起こすべきでない。剛健中正の天子九五を大人として仰ぎ、解決してもらうがよい。九五は中正の德を備えているゆえ人々から尚ばれている。危険を犯してはならない。波風荒い大川を舟で渉れば顚覆して憂患の淵に沈むこと必至である。
象曰、天與水違行訟。君子以作事謀始。
□天と水と違(たが)い行くは訟なり。君子以て事を作(な)すに始めを謀(はか))る。
 上卦天は上り、下卦水は下る。交わることなく行き違って訴訟が起こるのが訟の形。
 君子は、訴訟の原因が事始めの行き違いにあることに鑑みて、事始めの段階で、適切に対処して、訴訟が起こらぬよう注意する。
 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての現代語訳。
(占)此卦ヲ得ルトキハ、朋友ノ間ニ争論アリト雖モ思慮ヲ大ニシテ小事ノ爲メニ争ヲ起スベカラズ、凡ソ此卦ハ思慮ノ相違言語ノ齟齬多キノ時トス、戒愼注意スベシ・・・
 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての現代語訳。
(占)この卦を得た時は、朋友の間に論争があっても、小さな事で争わないようにすべきである。考え方の違いや発する言葉が誤解されることが多い。よく自戒して慎みを忘れないようにすべきである。
○相手との間に感情の行き違いがあって争い事を起こす時。
○見込み違いで、戦いに敗れる時。
○社会的地位の高い人と気まずい関係になる時。
○理屈は正しいのに受け容れない(受け容れられない)時。
○訟の時は氣運がもっとも衰える時である。何事も慎んで自ら災害を招いてはならない。己の智恵や考えを過信して実行すれば、自分だけでなく周りの人も後悔させることになる。
○外見(外卦乾)は強そうだが、内心(内卦坎)は苦労している時。
○讒(ざん)言(げん)によって、人との信頼関係を失う時。
○人を怨んで憤(いきどお)る時。
○人を嫉(ねた)んで憎む時。
○悪いことを企画する時。
○憂鬱となり悶々として煩(わずら)う時。
○温和になれない時。
○売買は、今、安く買って、後に高く売れる。

訟 初六 ||| ・|・

初六。不永所事。小有言。終吉。
□初六。事とする所を永くせず。小しく言有り。終に吉。
 坎険の底で困窮し、不平不満を抱いて訴訟を起こすが、長く続けられない。周りから多少物言いがつくが、早く訴訟を取り下げるので、最後は幸を得る。
象曰、不永所事、訟不可長也。雖小有言、其辨明也。
□事とする所を永くせずとは、訟は長くす可からざるなり。小しく言有りと雖(いえど)も、其の辨(べん)明らかなり。
 不平不満を抱いて訴訟を起こすが、長く続けられない。本来、訴訟は起こすべきではない。もし起こしたとしても、適当な時機に取り下げるべきである。
 九四の助言(明智・互卦離)で早く訴訟を取り下げるので、最後は幸を得る。

 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての現代語訳。
(占)金銭其他ノ事ニ就キ不善者小害ヲ受ルコトアリト雖モ、忍テ爭ヒテ止ルノ時ナリトス、世界ノ廣キ人民ノ多キ、此ノ如キノ不善者ハ交際ヲ謝絶シテ可ナリ・・・
 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての現代語訳。
(占)金銭・その他において、善からぬ者によって、災難を被ることがあるが、只管(ひたすら)争うことを堪え忍んでじっとしている時。どの国に生れようが、どんな人種であろうが、善からぬ者とは、交際することを断るべきである。つまらない争い事から、大事な家族や家庭を犠牲にしてはならない。負けるが勝ちという時がある。訴訟や裁判沙汰を好む人は、争ってはならない時だと心すべきである。
○どんな事でも、災難を免れる。
○先読みをする(将来を予測する)ことによって、物事が複雑化したり紛糾したりすることを免れる。

 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占例の原文の一部。
(占例)友人某氏來リ告ゲテ曰ク僕仕官ノ志アリ周旋ヲ某局長ニ依頼セリ、其局長ハ僕固ヨリ依頼スベキ縁故アリ、且僕ノ爲メニ盡力スベキ理由アリ、必ズ志望ヲ達スルコトアラントス、然レドモ、試ニ其成否ヲ占ハンコトヲ請フト、乃チ筮シテ訟ノ初爻ヲ得タリ・・・
 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占例の現代語訳。
(占例)ある友人がやって来て、次のように言った。
「わたしには仕官したいという志があるので、ある役人(局長)に、その旨をお願いした。その局長とは縁故があり、わたしのために尽力してくれる理由もある。それゆえ、必ず仕官できると信じているが、念のために仕官の可否を占ってほしい」。
 そこで占ったところ、訟の初爻を得た。
 易斷は次のような判断であった。
 訟は、相手は天の性質があり、上に昇って行き、自分には水の性質があり、下に降って行く。相手と自分の思想が正反対でぶつかり合う。誠実な心(孚)があっても、お互いの志が通じない・噛み合わない。
 以上のようだから、さっさと目的を切り替えて、新たな目的を打ち立てるべきである。このことを「事とする所を永くせず。坎険の底で困窮し、不平不満を抱いて訴訟を起こすが、長く続けられない」と云う。
 爻辞に「小しく言有り。終に吉。周りから多少物言いがつくが、早く訴訟を取り下げるので、最後は幸を得る」とある。
 不平不満があっても、感情を押し殺して気持ちを切り替えれば、当初の目的を達成することも不可能ではないと易断した。
 その後、易断の通りとなった(友人は仕官できた)。
訟 九二 ||| ・|・

九二。不克訟。歸而逋。其邑人三百戸。无眚。
□九二。訟に克(か)たず。歸(かえ)りて逋(のが)る。其の邑(ゆうじん)人三百戸。眚(わざわい)なし。
 坎険の中に陥り不平不満を抱いている。初六と六三を率いて九五と争い訴訟を起こすが、中庸の德で道理に背くことを悟り、取り下げる。
 領地に逃げ帰り隠遁して恐(きよう)懼(く)謹慎する。九二も村人(初六と六三)も災いを免れる。
象曰、不克訴、歸逋竄也。自下訟上、患至掇也。
□訴えに克(か)たず。歸(かえ)りて逋(のが)れ竄(かく)るる也。下より上を訟(うつた)う、患(うれ)いの至ること掇(ひろ)うがごとき也。
 訴訟を起こすが取り下げる。領地に逃げ帰り恐懼謹慎して深く潜伏する。臣下が訴訟を起こせば憂患に至るのは、当たり前のことである。

 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての現代語訳。
(占)此爻敵ハ剛健富豪ニシテ權勢ヲ以テ我ヲ侮リ、我ハ艱難ニシテ哀ヲ乞フト雖モ、彼レ顧ミザル者ナリ、是ニ於テ不平ニ堪ヘズ・・・
 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての現代語訳。
(占)この爻が出たら、敵は剛健で富豪、権力と勢力があり、自分は侮られて、坎難に陥る。いくら悲しんでも、敵は何も配慮しない冷酷な人間である。以上のことから、不平不満が山積し、敵を訴えようとするが、自分には勝ち目がないことを知って、訴えを取り下げる。九五の大人と応爻なので、この賢人を慕って仲裁を依頼すべきである。この卦は理屈が通らない時、何事も我慢して事を起こしてはならない。
○人と争うことを好んで訴訟を起こそうとする。
○負けん気の性格が、災難を招き寄せる。
○物事を始める時に慎みの心を忘れて、自ら凶運を招き寄せる。
○病気療養中の人は、医者の誤診によって薬が効かない。
○上と下の感情が背き合う時。

 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占例の原文の一部。
(占例)友人北澤正誠氏ハ信州松代藩士ニシテ維新ノ際、同藩の周旋方ヲ勤め國事ニ奔走シ、當時地名ノ士ト交ルコト亦甚ダ多シ、氏ハ坤與ノ學ニ精ク且漢學ニ長ゼルヲ以テ、後外務省某官ニ任ゼラル、居ルコト數年華族女學校ノ幹事ニ轉任ス、一日余ヲ訪ヒ告テ曰ク予此頃事故アリテ、本職ヲ免ゼラル然レドモ未ダ鄙意ニ滿タザルノ件少カラズ、爲メニ其長ニ對シ其由ヲ問ハト欲ス、請フ一筮ヲ煩サント、乃チ筮シテ訟ノ二爻ヲ得タリ・・・
 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占例の現代語訳。
(占例)わたしの友人・北沢氏は、信州松代の藩士であり、維新の時は国事に奔走して、歴史に名を残す志士達との付き合いが多かった。和洋の学問にも通じており、外務省の役人として数年間務めて、華族女学校に転任した。ある日、北沢氏がやって来て、次のように言った。
「最近仕事上の事故で、辞職させられることになった。わたしの本意ではないので、上司に訴えてなぜ辞職させられるのかを問いただそうと思っているが、そのことの可否を占ってほしい」。
 そこで占ったところ、訟の二爻を得た。
 易斷は次のような判断であった。
 訟の卦は、上卦の乾は氣(エネルギー)だから上に昇り、下卦の坎は水だから下に降る。これはお互いに背き合う象である。自分が苦情を訴えても、相手にはその意思が通じない時だから、物事の是非善悪を問うて、訴える時ではない。静かに立ち止まる時である。
 強引に訴えれば、世の中の人々は、いろいろと勘ぐって、いろいろな噂が飛び交い、あなたの友人や知人にも被害が及びかねない。
 あなたが訴える気持ちを翻(ひるがえ)し、何も言わずに静かにしていれば、あなたの友人や知人に災難が及ぶこともない。
 このことを「訟に克(か)たず。歸(かえ)りて逋(のが)る。其の邑(ゆうじん)人三百戸。眚(わざわい)なし。坎険の中に陥り不平不満を抱いている。初六と六三を率いて九五と争い訴訟を起こすが、中庸の德で道理に背くことを悟り、取り下げる。領地に逃げ帰り隠遁して恐(きよう)懼(く)謹慎する。九二も村人(初六と六三)も災いを免れる。」と云う。
 あなたには、将来離島を統括する役人として任ぜられる予兆がある。象伝に「歸(かえ)りて逋(のが)れ竄(かく)るる也」とあるが「竄(かく)るる」という字がそのことを表わしている。だから、あなたは、上司に訴えたりせずに、やがて、離島を統括する役人に任ぜられることを信じて、時を待つべきだと易断した。
 北沢氏は深く肯いて帰って行った。
 それから数ヶ月後、北沢氏は伊豆諸島を統括する役人として任用されたのである。

訟 六三 ||| ・|・

六三。食舊德。貞厲終吉。或従王事、无成。
□六三。舊(きゆう)德(とく)を食(は)む。貞なれども厲し。終に吉。或は王事に従えども成すなかれ。
 坎険の極点に居て不平不満はあるが、人と争わずよく隠忍して、先祖代々の仕事を守って生活する。常を守り分に安んじ名利を競わず、道を固く守る。不中正ゆえ危ういが、最後には幸を得る。天子に事える時は只(ひた)管(すら)天子の命令に順い自分の功を謀ってはならない。
象曰、食舊德、従上吉也。
□舊德を食むとは、上に従えば吉なるなり。
 自分の非力を弁(わきま)えて、長(ちよう)上(じよう)の命令に従い、先祖の仕事を守る。名利を競わず、道を固く守るから、最後は幸を得る。

 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての現代語訳。
(占)此爻ヲ得ルトキハ、分ニ安ジテ常ヲ守ルヲ吉トス、他人ノ煽動ニ乗リテ妄ニ心ヲ動スベカラズ・・・
 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての現代語訳。
(占)分に安んじて、常に正しさを守れば吉運を招き寄せる。他人の誘惑に乗って(扇動されて)、妄りに心を動かしてはならない。
○これまでのあり方を守れば(本業を大事にして新しいことに手を出さない)、安心を得る。

 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占例の原文の一部。
(占例)友人、某官來リ告テ曰ク、僕數年間某局ニ奉仕シ職務ニ黽勉スト雖モ、長官ハ毫モ我ガ身上ヲ顧ミズ、同僚中ニハ既ニ二三等モ昇級セシ者アルモ、僕獨リ依然トシテ進ムコト能ハザルハ、慚愧スル所ナリ、因テ他ニ轉任センコトヲ欲シ、既に或ル長官ニ懇願セリ、其成否幷ニ今後ノ是非ヲ占ハンコトヲ請フト、乃チ筮シテ訟ノ三爻ヲ得タリ・・・
 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占例の現代語訳。
(占例)友人の役人がやって来て、次のように言った。
「わたしは数年間ある役所に勤めて、職務に励み務めたが、上司は、わたしを評価してくれない。同僚は昇進したのに、わたしは昇進できない。わたしは異動を希望し、ある長官にお願いした。わたしの異動希望は通るかどうか、その成否と今後の成り行きを占ってほしい」。
 そこで、占筮したところ、訟の三爻を得た。
 易斷は次のような判断であった。
 訟の卦は、運氣が塞がって願望が成就しない時である。この爻が出たら、智恵や能力があったとしても、それを用いることができず、志願は達成しない。そのような時だと心得て、時に順い、分に安んじて、異動希望を取り下げるべきである。
 爻辞に「舊(きゆう)德(とく)を食(は)む。坎険の極点に居て不平不満はあるが、人と争わずよく隠忍して、先祖代々の仕事を守って生活する」とある。
 従来の職務でよしと心得て、仕事に全力を尽くすべきである。
 今仕えている上司に評価されないのは、仕方のないことだと諦めて、上司の意に逆らわずに、今の職務を全うするように努力すべきである。このことを「貞なれども厲し。終に吉。常を守り分に安んじ名利を競わず、道を固く守る。不中正ゆえ危ういが、最後には幸を得る」と云う。
 長官に異動希望をお願いしたとしても、その希望は叶わない。
 このことを「或は王事に従えども成すなかれ。天子に事える時はひたすら天子の命令に順い自分の功を謀ってはならない」と云う。
(易占の結果は書いてない。)

訟 九四 ||| ・|・

九四。不克訟。復即命、渝安貞吉。
□九四。訟に克(か)たず。復(かえ)りて命に即(つ)き、渝(かわ)りて貞に安んずれば吉。
 不平不満を抱いて天子と争い訴訟を起こそうとする。剛健中正の九五が尊位に居ることを見て、勝ち目がないことを悟り、共に訴訟を起こそうとしていた初六を諭して中止する。
 大義に復って天命(君命)を悟り、三省して道を守れば幸を得る。
象曰、復即命、渝安貞、不失也。
□復りて命に即き、渝りて貞に安んずとは、失わざるなり。
 大義に復って、天命(君命)を悟り、三省して道を守れば、君子の誉(ほまれ)を失わない。

 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての現代語訳。
(占)此爻ヲ得ルトキハ、訟ノ心アリト雖モ、自ラ其不可ナルヲ悟チテ貞ニ安ズベキノ時トス、彼レガ非ナルヲ勘辨シテ爲メニ幸ヲ得ルノ意アリ・・・
 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての現代語訳。
(占)相手を訴えようとする心があっても、不可能なことを自覚して、訴えることを断念すべきである。
○自分に勝ち目のないことを認識すれば、幸運を招き寄せる。

 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占例の原文の一部。
(占例)友人某ハ商店ノ番頭ナリ、一日來リ告ゲテ曰ク、余ハ主人開店ノ始ヨリ勉強シ、爲メニ主人ノ家産ヲ興セリ、(中略)幸ニ成否ヲ占ハレヨト、乃チ筮シテ訟ノ四爻ヲ得タリ・・・
 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占例の現代語訳。
(占例)商店の番頭をしている友人が、ある日わが家にやって来て、次のように言った。
「わたしは、商店の主人が創業した時から、苦労を共にしてきて、やがて事業は成功した。主人はさらに意欲を高めて、新しい事業を興し、その事業に相応しい人材を高給で雇い入れ、重要な任務を任せた。
 だが、わたしは、未だに番頭として、安月給に甘んじている。主人もわたしをあまり評価してくれない。創業時から今日まで、主人に尽くしてきたのだから、地位や給料もそれなりに上がるべきなのに、今の地位や給料に甘んじているのは、残念なことである。
 そこで、主人に、わたしの気持ちを訴えて、わたしの思いを理解してもらおうかと思っている。理解してもらえないのであれば、これまでの功績に応じた報酬を要求して、この商店を止め、商人として独立したいと思っているが、その成否を占ってほしい」と。
 そこで、占筮したところ、訟の四爻を得た。
 易斷は次のような判断であった。
 訟の卦は、上卦(乾)の主人が剛健で、下卦(坎)のあなたは困難に陥っている。主人は天なので、氣力は健やかで、益々上に昇っていき、あなたは水(坎)の性質で、氣力は落ち込み益々下に降って行く。
 今は、あなたの気持ちを訴えても、聞き入れてもらえない時だから、決して、訴えてはならない。番頭としての仕事に安んじて全力を尽くすべきである。
 なぜなら、あなたは(坎)水の性質だから、困難に陥るだけでなく、水は器の中に入っていなければ、役に立たないように、あなたの器はあなたの主人が営んでいる商店なので、今、商店を止めて独立しても、二進(につち)も三進(さつち)もいかない。
 だから、今の状況をよく理解して、気持ちを訴えたりせず、慎む心を大切にして、平常心を保ち、職務に全力を尽くすべきである。
 このことを「訟に克たず。復りて命に即き、渝(かえ)りて貞に安んずれば吉。不平不満を抱いて天子と争い、訴訟を起こそうとする。剛健中正の九五が尊位に居ることを見て、勝ち目がないことを悟り、共に訴訟を起こそうとしていた初六を諭して中止する。大義に復って天命(君命)を悟り、三省して道を守れば幸を得る」と云う。
(易占の結果は書いてない。)
訟 九五 ||| ・|・

九五。訟、元吉。
□九五。訟、元吉。
 彖辞の「大人を見るに利し」とは九五のこと。
 剛健中正の九五は訴訟を裁くのがその役割。裁きは公明正大で、その威厳と情義に感服しない人はない。全て九五に任せるがよい。
象曰、訟元吉、以中正也。
□訟、元吉とは、中正を以て也。
 全て九五に任せるがよい。訟の時は、九五のみが中正の德を具えている。

 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての現代語訳。
(占)此爻彼ノ孚アリテ窒リタル者、始メテ理非分明ノ裁判ヲ受ケ、志ヲ伸ブルヲ得ルノ時トス、訟テ勝利ヲ得ル、此一爻ニ在リ・・・
 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての現代語訳。
(占)これまで塞がっていた状態が、初めて公明正大な裁判を経て、志を伸ばすことができる。(本来の役割は訴訟を裁くこと)。説得されて覚るという意味もある。
○訴訟に勝つという象がある。
○外部の悪影響を受けて屈折した人・組織が、伸びる状態に入った。

 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占例の原文の一部。
(占例)北海道廳ノ官員某來リ告テ曰ク、我長官常ニ謂ヘラク、土人ノ人口年ヲ逐フテ減少スルハ内地人民ノ土人ヲ使役(中略)乃チ筮シテ訟ノ第五爻ヲ得タリ・・・
 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占例の現代語訳。
(占例)北海道庁のある役人がやって来て、次のように言った。
「わたしの上司(長官)は、いつも次のように言っている」。
「現地人の人口は年々減少し、本土から渡ってくる内地人は、現地人を酷使している。内地人と現地人の壁を取り払うため、内地人と現地人の結婚を認めれば、お互い理解して、思いやるようになる」。
 その可否を占筮したところ、訟の五爻を得た。
 易斷は次のような判断であった。
 訟は、上卦(乾)は陽氣で昇る性質を、下卦(坎)の水は高い所から低い所に流れる性質を有している。それゆえ、上と下が隔絶して意見や意思が合致しない。
 今回は五爻が出たので、長官の意見と現地人の感情が現状では合致しない。そこで一度は争いとなるが(現地人が長官を訴えるが)、その後、(長官の公明正大な裁きによって)現地人の感情が内地人と相通ずるようになる。このことを「訟、元吉。剛健中正の九五は訴訟を裁くのがその役割。裁きは公明正大で、その威厳と情義に感服しない人はない。全て九五に任せるがよい」と云う。
 初めの段階では、政府が現地人に恩恵を施そうとして決定したことが、現地人に受け入れられず、遂には現地人が政府を訴える。政府はその決定が現地人の感情に合わないことを悟って、その内容を改善して現地人の訴えを受け入れる。
(その後、易占の通りに推移した。)
 すなわち、北海道庁が内地人と現地人との結婚を認めるという決定を発布したところ、現地人の中に不穏の動きがあることを知った長官は、大いに疑問を感じて、その理由を調査したところ、現地人の指導者層が集まってこの決定に反対し、北海道庁を訴えようとしていることがわかった。
 そこで長官は現地人の指導者層を招いて、理由を聞いた。
 指導者は次のように答えた。
「人間は誰もが美人を好むものです。もし、内地人と現地人の結婚が許されれば、内地人は現地人の中でも美人を選んで結婚するでしょう。現地人はそれを拒むことはできません。しかし、内地人が現地人の中の美人を選んで結婚しようとすれば、必ず内地人の女性が反対して許さないでしょう。そうなると、現地人は内地人に美人を嫁がせるだけ(美人を失うだけ)という事態になりかねません」。
 この話を聞いた長官は、「なるほど」と、その理由を理解して、内地人と現地人の結婚を認めるという決定を取り下げたのである。

訟 上九 ||| ・|・

上九。或錫之鞶帯。終朝三褫之。
□上九。或いは之に鞶(はん)帯(たい)を錫(たま)う。終(しゆう)朝(ちよう)に三たび之を褫(うば)わる。
 剛健不中正の上九は、不平不満を抱いて奸(かん)計(けい)を謀り訴訟を起こす。時には訴訟に勝って栄誉を得るが、奸計は忽(たちま)ち発覚して栄誉を失う。
象曰、以訟受服、亦不足敬也。
□訟を以て服を受くるは、亦敬するに足らざるなり。
 訴訟を起こして栄誉を受けて、どうして人から尊敬されよう。

 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての現代語訳。
(占)險ヲ行テ幸ヲ求ルノ意アリ、抑盤帯ノ命服訟ヲ以テ錫フノ理ナシ、此爻訟ノ極ニ居リ訟ニ勝テ世ニ誇リ、意氣揚々トシテ君子ニ憫笑セラルル者トス、暫ク吉ナルガ如シト雖モ、忽チ凶ニ變ズ愼ムベシ、・・・
 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての現代語訳。
(占)険しいことを行って幸せを求める。訴訟に勝っても、誉められたものではない。訟の卦極で、裁判に勝ち、いい気になって、君子(立派な人)に笑われる。しばらくは、いい思いをするかもしれないが、やがて凶運を招き寄せる。慎むべきである。
○苦労するけれど報われない。
○心の中に心配事や苦しみを抱いている。時々喜ぶことがあっても、また心配事が出てくる。利益を得ても、すぐに損失を蒙る。
○訴訟を起こしてお金に苦しむ。
○言い争いに勝っても、人間的に堕落する。
○他人を騙し欺いて恥をかく。
○狡(ずる)いことをして失敗する。

 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占例の原文の一部。
(占例)明治廿三年、愛知縣ノ友人來リ曰ク、今般名古屋市長ノ選擧アルニ當リ、候補者三名アリ、余ガ選擧セントスル者當籖スルヤ否ヤ請フ、之ヲ占ヘト、乃チ筮シテ訟ノ上爻ヲ得タリ・・・
 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占例の現代語訳。
(占例)明治二十三年、愛知県の友人がやって来て、次のように言った。「今度名古屋市長選挙があり、三人の候補者が立候補する。わたしも立候補するつもりだが、当選するかどうかを占ってほしい」。そこで、占筮したところ、訟の上爻を得た。
 易斷は次のような判断であった。
 訟は、上卦の天は氣(エネルギー)で、上に昇り、下卦は水で、下に降る。上と下の性質と感情が交わらないから訟と名付ける。
 訟は相親しむことなく、役所に訴え出て、お互い争う時。
 こんどの名古屋市長選は、市民の人気が分断して、大きな軋(あつ)轢(れき)が生ずる。
たとえ当選しても、信服できない市民が大勢いるので、長く市長職を務めることができない。あっという間に辞任に追い込まれる。
 これを「或いは之に鞶(はん)帯(たい)を錫(たま)う。終(しゆう)朝(ちよう)に三たび之を褫(うば)わる。剛健不中正の上九は、不平不満を抱いて奸(かん)計(けい)を謀(はか)り訴訟を起こす。時には訴訟に勝って栄誉を得るが、奸計は忽(たちま)ち発覚して栄誉を失う」と云う。
 その後、友人は選挙に勝って名古屋市長に就任した。
 だが、市民の心を掌握することができず、辞職に追い込まれた。