十五.謙遜して支える時
次は「謙遜して支える時」の物語である。小は家庭から大は国家まで組織の上層部が人材不足で組織を統治できる人がいない時は、下層部のリーダーが組織を支えるしかない。家庭では長男や長女、団体では現場のリーダー、会社では部長や店長である。下層部のリーダーは黒子として謙遜して仕え、上層部が組織を動かしているように見せなければならない。
家庭では長男や長女が父母に、団体では現場のリーダーが役員に、会社では部長や店長が経営陣に謙遜して仕えなければ、組織を存続できない。下層部のリーダーが上層部に取って代わろうとすれば、権力を有する上層部の力で組織から抹殺される。
組織にとっては「謙遜して支える時」がない方が望ましい。だが、本当のリーダー教育が行われていない今日においては上層部に人材がいない組織は少なくない。そのような組織に属している場合は下層部のリーダーが謙遜して上層部を支えるしかない。それが「謙遜して支える時」である。あなたが組織下層部のリーダーなら覚悟しなければならない。
「謙遜して支える時」の主人公は「六.内部分裂する時」に登場した地方の旧家の今時珍しい大家族に嫁いだ専業主婦の夫の「あなた(わたし)」である。
地方の旧家の今時珍しい大家族の家族構成は次の通りである。
祖父(八十九歳)、祖母(八十六歳)、父(五十九歳)、母(五十四歳)、わたし(三十四歳)、妻(二十九歳)、弟(二十九歳)、妹(二十七歳)、長男(四歳)、長女(二歳)。
大家族の上層部は祖父と祖母(威厳あるご意見番)、父(ご意見番に従う家長)・母(側近)で、下層部はわたし(下層部のリーダー)、妻(リーダーの補佐)、弟と妹(役に立たない中間管理職)、長男と長女(全く役に立たない組織構成員)である。以下省略。
十六.側近が牛耳る時
次は「側近が牛耳る時」の物語である。トップが御(お)神(み)輿(こし)に乗って側近が牛耳っている姿は小は家庭から大は国家まで、あらゆる組織でよく見られる。
家庭におけるトップが夫なら側近は妻。学校におけるトップが校長なら側近は教頭。自治会におけるトップが会長なら側近は副会長。業界団体におけるトップが理事長なら側近は専務理事。会社におけるトップが代表取締役社長なら側近は専務取締役。市町村におけるトップが村長・町長・市長なら側近は副村長・副町長・副市長。都道府県におけるトップが知事なら側近は副知事。国家におけるトップが総理大臣なら側近は官房長官乃至(ないし)は与党幹事長。昔、実権を握っていた与党幹事長が「神輿は軽い方がよい」と軽口を叩いていたが、小は家庭から大は国家までトップを御(お)神(み)輿(こし)に乗せて側近が牛耳っている組織は少なからず存在する。いやいやトップはお飾りで側近が動かしている組織の方が多いのかもしれない。
組織を動かしている側近は例外なく実力者か権力者である。実力や権力があるから組織を動かすことができるのだ。だが、側近はあくまでもナンバーツーであってナンバーワンではない。本来組織はナンバーワンが統治するべきものであり、ナンバーツーはナンバーワンを補佐することが本来の役割である。
トップを補佐する役割の側近が組織を動かす場合は、側近にトップを補佐するという気持ちがなければならない。側近にトップを補佐するという気持ちがあれば、側近が組織を動かしていても問題は起こらない。だが、側近がトップを蔑ろにしてトップのように振る舞えば組織内部に様々な問題が起こる。外部からはよく治まっているように見えても、内部には問題が山積する。それが「側近が牛耳る時」である。
「側近が牛耳る時」の主人公は「七.敵と戦う時」と「八.一つにまとまる時」に登場した「菓子製造卸販売業」のライバル企業「魔の洋菓子」に在籍している生え抜きの実力者である専務取締役の「あなた(わたし)」である。
わたしは洋菓子製造卸販売業の「魔の洋菓子」で専務取締役を務めている。昔から洋菓子が大好きで三十年前「魔の洋菓子」の前身である「美味しい洋菓子」に入社して以来仕事一筋の人生を歩んできた。社長に功績を認められて専務取締役という過分な役職を頂き、社長の側近として全力を尽くしている。「魔のシュークリーム」を販売して以来全国的に有名になった菓子製造卸販売業に対抗して、企業名を「美味しい洋菓子」から「魔の洋菓子」に改名し「魔」のシリーズを展開することを提案したのはわたしである。以下省略。