蹇 九三 ・|・ |・・
九三。往蹇、來反。
□九三。往(ゆ)けば蹇(なや)み、来(く)れば反(かえ)る。
無闇に行けば蹇難のどつぼ(肥溜め・互卦坎)に嵌(はま)る。止(とど)まって下二陰と親しめば、安んずる所を得る。
象曰、往蹇、來反、内喜之也。
□往(ゆ)けば蹇(なや)み、来(く)れば反(かえ)るとは、内、之(これ)を喜ぶなり。
止まって下二陰と親しめば、安んずる所を得る。下二陰に頼られ喜ばれるのである。
以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての原文の一部。
(占)此爻才力剛ニ過ル者トス、故ニ進テ難ヲ解カント欲スルトキハ、却テ敗ヲ取リ、困難ニ陥ルベシ、故ニ其身ヲ正シクシテ進マズ、本分ニ安ンズルヲ可トス、・・・
以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての現代語訳。
(占)この爻は力が強すぎる。積極的に困難に立ち向かえば、裏目に出て困難が困難を招き寄せて困窮する。それゆえ、足元を固めて前に進まず、コツコツと本業に徹することが肝要である。
○果報は寝て待て。求められた時に素直にそれに応ずれば、事が成就して、思ってもいなかった幸せを招き寄せる。
○親しみ調和して助け合う時である。
○前に進み行けば困難に陥る。
以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占例の原文の一部。
(占例)明治二十三年、國運ヲ占ヒ、筮シテ、蹇ノ第三爻ヲ得タリ、・・・
以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占例の現代語訳。
(占例)明治二十三年、国運を占って筮したところ蹇の三爻を得た。
易斷は次のような判断であった。
蹇は暗礁が多い所に船を乗り入れて、船長を失う時である。進み行けば、忽(たちま)ち暗礁に乗り上げて、船を損傷させる危険がある。進むことも退くことも、どうすることもできない。これを国運(国家の運勢)に当て嵌めると、内卦の山は人民であり、止まって動かないので、上卦の政府の命令に従わない。そのため政府は困難に陥り、事務は停滞して、運氣は開けない。君主は情に流され、臣下は偏屈なので、国家が治まらない形である。
今回占って三爻が出た。三爻(おそらく政党政治のリーダー)は、大衆をリードして政府に刃向かう。応ずる政府は陰柔で三爻を制止できない。無理して三爻を制止すれば、困難が困難を招き寄せることを、政府は知っているので、無理に制止せずに事無きを得る。
それゆえ「往(ゆ)けば蹇(なや)み、来(く)れば反(かえ)る。 無闇に行けば蹇難のどつぼ(肥溜め・互卦坎)に嵌(はま)る。止(とど)まって下二陰と親しめば、安んずる所を得る。」と云う。
すなわち、人民は止まるから、政府もほっとするのである。
やがて、時が至れば(上爻の時、すなわち三年後の明治二十六年になれば)、国家の運勢も上向くであろう。
以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占例の原文の一部。
(占例二)明治元年四月、友人某來リテ曰ク、余ハ某藩ニ仕官スルノ命ヲ奉ジ、(中略)余ニ前途ノ氣運ヲ占ハンコトヲ請フ、乃チ筮シテ、蹇ノ第三爻ヲ得タリ、・・・
以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占例の現代語訳。
(占例2)明治元年四月、ある友人がやって来て「ある藩に仕官せよとの命令で、仕官することになったので、挨拶に来た」と言った。風雲の中で立身出世することを胸に秘めているようであった。そこで、その氣運を占ったところ蹇の三爻を得た。
易斷は次のような判断であった。
蹇は山の上に積雪があって、道路が通行止めとなり、動くことができない形である。前に進むと危険なので止まるべき時である。それゆえ「蹇は難(なん)なり。険前に在るなり。険を見て能(よ)く止まるは知なる哉(かな)。坎(険難)が艮(山頂に立ち止まる自分)の前に立ち塞(ふさ)がり動くに動けない蹇(けん)難(なん)の時。このような時に、今の場所に止まり時を待てるのが智者である」と云う。今、貴方が仕官に応じて進み行くことは危険である。行けば必ず困難に陥ることになる。止まることが賢人の対応である。
今貴方が国家のために尽くそうとしていることはよく理解できるが、貴方の家族のことを考えると、軽々しく決断すべきではない。今は蹇の時であるから、仕官に応じることを断念すべきである。爻辞に「往(ゆ)けば蹇(なや)み、来(く)れば反(かえ)る。無闇に行けば蹇難のどつぼ(肥溜め・互卦坎)に嵌(はま)る。止(とど)まって下二陰と親しめば、安んずる所を得る」とあるのは、仕官に応じれば必ず困難に陥るが、応じなければ困難を避けることができるだけでなく、初爻と二爻、すなわち妻子ともに喜びがあることを云う。そのことを小象伝に「内、之(これ)を喜ぶなり。下二陰に頼られ喜ばれるのである」と云うのである。
友人はこの易占に従って、仕官には応じなかった。