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時の物語(易経短編小説集・近日中に出版予定)28

二十七.萬物を養う時

 人や組織の中身が空っぽだと何も為し遂げることができない。空腹だと元氣が出ない。頭が空っぽだと知恵が湧かない。中身を養ってこそ何かを為し遂げることができる。今の自分や組織に何が足りないのかを考えて必要な物事を養うことが肝要である。どんな人も組織も始めは中身が空っぽである。その人や組織の存立意義や目的を明らかにして、必要な物事を養うことが求められる。これを自分に当て嵌めると、自分の存立意義や人生の目的を明らかにすることから始めるのである。自分は何のために存在しているのか。自分の人生は何を成し遂げるためにあるのか。それを実現するためには何を養えばよいのか。空腹な時に元気を出すために食物を取り入れて体力を養うように、必要な物事を養うのである。

 「萬物を養う時」の主人公は仕事で日本を訪れて以来、日本に惹かれるようになり、日本に定住して日本の歴史や文化を学び続けている「あなた(わたし)」である。

 わたしは米国生まれのジャズピアニストである。母が日本人なので日本語も話せる。小さな頃からジャズピアノが好きで、知的なジャズピアニストのビルエバンスに憧れていた。ビルエバンスのようなピアニストになりたくて音楽学校に入り、卒業後はビルエバンスに師事したことのあるジャズピアニストがリーダーを務めるピアノトリオの付き人として働きながら師匠からピアノを学んだ。付き人になって二~三年経った頃、師匠が日本各地を横断する演奏旅行に行くことになり、付き人として日本に同行した。日本における演奏会は札幌・盛岡・東京・神奈川・京都・大阪・福岡の各地で開催された。旅をしながらの演奏活動だったので、日本滞在は半年間に及んだ。各地におけるリハーサルの合間に宿泊地周辺や時間があれば観光地にも足を伸ばし、日本の歴史や文化を満喫した。大阪の演奏会から福岡に移動するまで一月ほど間が開いていたので、師匠の許可を得て淡路島まで足を伸ばして、民宿に一週間滞在した。わたしはすっかり淡路島に魅了され、福岡に移動して最後の演奏会を終えた後、師匠に理由を話して付き人を辞めることを伝え、米国に帰らずに日本での滞在期間を半年間延長した。お金がなかったので、宿泊していた民宿にお願いして使用人として雇ってもらうことになった。日本語がしゃべれるのでお客様の送迎から電話の受け答え、客室の片付けや民宿の掃除など雑務をこなし、時間が空いた時は民宿のご主人に淡路島全域を案内してもらった。あっという間に半年が経ち、一旦米国に帰国したが、日本のことが忘れられずに母に日本に永住したいと伝えたところ、母は父を説得してくれた。以下省略。