二十六.力を蓄え世に尽くす時
人生には早熟型の人生と晩成型の人生がある。早熟型は若いうちに世間から注目されるので華やかだが、若いうちに能力が開花すると長続きしないことが多い。アイドルやスポーツ選手等は年齢と能力が反比例しており、若いほど能力が高く年齢を重ねるほど能力が衰える。よって、若い時にはチヤホヤされるが、年齢を重ねて能力が衰えると世間から忘れ去られて惨(みじ)めな人生を送る人が少なくない。以上のことから、早熟型の人生よりも晩成型の人生の方が幸せな人生を送ることができる。また、大器晩成という熟語があるように、晩成型の人生の方が人間的にも成長できるので、世のため人のために貢献することができる。
「力を蓄え世に尽くす時」は世のため人のために思いを馳せて社会に貢献する大器晩成の人生を歩む時である。
「力を蓄え世に尽くす時」の主人公は起業家として社会に貢献することを天命と心得て、「経営の神さま」と呼ばれるようになった「あなた(わたし)」である。
(この物語は実際に「経営の神さま」と呼ばれた松下幸之助の人生を参考にしている。)
父が事業家として財を成した人だったので、小さい頃は何不自由なく裕福な生活を送っていたが、やがて事業に行き詰まって破産したので、わたしは小学校四年生の時に親戚の家に引き取られることになった。親戚の家は子沢山で裕福ではなかったので、わたしを中学校に通わせるのが精一杯だった。わたしは中学を卒業すると地元の零細企業に住み込みで働かせてもらうことになった。仕事は難しくはなかったが、生まれつき身体の弱いわたしには体力的に辛く、毎日歯を食いしばって働いていた。住み込みで食事も出たので、頂いた給料はほとんど使わず、将来のことを考えてコツコツと貯金した。社長は読書が趣味で本棚には沢山の本が置いてあった。世の中は学歴社会なので、中学しか出ていないわたしは将来のことを考えて独学して知識を習得することが必要だと思っていた。社長に勉強したいから本を貸して欲しいと頼んだところ、社長は快く本を貸してくれた。社長の本棚には「社長の心得」「従業員の育て方」など経営に関する本が沢山揃っていた。以下省略。