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時の物語(易経短編小説集・近日中に出版予定)29

二十八.枯れた柳に新芽が生える時

 どんな組織も時が経過すると陳腐化して枠組みが弱って倒壊の危機を迎える。枯れた柳に新芽が生えるように、弱体化した枠組みを再生することが求められる。
 「創業は易く、守成は難し(貞(じよう)観(がん)政(せい)要(よう))」と言われるように、組織が永続するかどうかは守成の要である三代目にかかっている。初代は勢いで創業し二代目は継続する。ここまでは容易である。ところがこの後が難しい。新しく起こした組織が衰退しないように維持していくのが守成である。守成を実現できるのは三代目しかない。初代と二代目の発想から切り替えて組織を環境に適合させるのが三代目の役割である。

 「枯れた柳に新芽が生える時」の主人公は祖父が立ち上げた会社を引き継いだ父の後継者として現場の中心で一生懸命働いている「あなた(わたし)」である。

 わたしは人口五万人の風光明媚な地方の町に生まれ育った。大正生まれの祖父が戦地から帰国して妻子を養うために食うや食わずで苦労した後、日本が高度経済成長に向かい始めた昭和三十五年に大手自動車企業の下請け会社として立ち上げた中小企業S工業社の三代目である。日本によるある同族企業の後継者として小さな頃から将来社長を継ぐことを前提とした教育を受けて大学まで進んだ。昭和三十年に当時三十二歳だった祖父が立ち上げ、昭和六十二年に父が社長を引き継いだ。その時昭和二十三年生まれの父は三十九歳だった。父の代になってから大手一社依存のリスクを分散すべく大手自動車企業の下請けからの脱却を図り、自動車関連機器の開発と製造を始め、社名をS工業社からS情報社に改めた。昭和四十五年生まれのわたしはバブル経済が崩壊した直後の平成四年に大学を卒業して、東京のIT関連企業に就職し、S情報社の後継者としての武者修行に入った。日本国中浮かれるように投機に走ったバブル経済を経て、元号が「昭和」から「平成」に代わると直ぐにバブルが崩壊し、戦後成長を続けてきた日本経済は一気に冷え込んだ。売り手市場で希望する会社に就職できた時代から、買い手市場となり希望する会社にほとんど就職できない時代に移行した。幸いわたしが大学を卒業したのはボブル経済崩壊した直後だったので、第一希望の会社には入れなかったが、第二希望の会社に入ることができた。以下省略。