九.柔よく剛を制する時
次は「柔よく剛を制する時」の物語である。剛(強い者)が柔(弱い者)を制することが多いが、柔(弱い者)が剛(強い者)を制することもある。男子ばかりの組織の中に一人の女子が入ってきた場合や、体育会系で真っ直ぐな人の集まりの中に文系で口上手な人が入ってきた場合などが「柔よく剛を制する時」である。
「あなた(わたし)」が属している(小は家庭から大は国家までの)組織にも「柔よく剛を制する時」があったはずだ。あるいは、これから「柔よく剛を制する時」が来るかもしれない。場合によっては、常に「柔よく剛を制している」の組織もあるだろう。
「柔よく剛を制する時」の主人公は、物心ついた頃から「内心ひそかに女心を温めていた」男子(わたし)である。
男子に産まれたわたしの心の中に「女心」があることに気付いたのは、小学校に入って二年目、小学二年生の時だった。両親や先生は「男の子は男らしく、女の子は女らしくすることが大切だ」と言うけれども、わたしは男らしくすることに何故か抵抗があり、いつも「女の子になりたい」と心の中で思っていた。けれども、そんなことを言ったら両親や先生に叱られると思ったので、口に出すことはしなかった。
そんなわたしだけれども、勉強は大好きだった。毎日学校で授業を受けるのが楽しみだった。いつも成績はトップで両親や先生から褒められた。「女の子になりたい」という禁断の思いは勉強に打ち込むことで忘れようと思った。小学校・中学校と学年トップの成績を収めただけでなく、中学校の全国試験でもトップを射止めた。超難関と言われる高校にトップの成績で合格したわたしは、高校でも毎年トップの成績を収め、エリートの登竜門と言われる東大法学部にトップの成績で入学した。
名門中の名門大学をトップの成績で卒業したわたしは、名だたる大企業や外資系企業からの求人が引く手あまただった。その中からわたしが選んだのは日本を代表する超優良企業の「とよとら」だ。「とよとら」は日本を代表するグローバル企業の「とよ」と創業五百年を超える老舗企業の「とら」が合併してできたミラクル企業である。小学校から大学までトップの成績を収め続けたわたしは「とよとら」のエリート枠で採用されたのである。以下省略。