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四季と易経 その七十六

橘始開(たちばなはじめてきなり)(七十二候の六十候・小雪(しようせつ)の末候)

【新暦十二月二日ころから六日ころまで】
 意味は「橘(たちばな)の実が黄色く色づく(絵で楽しむ)」である。
 「絵で楽しむ」には次のように書いてある。
 古くから日本に自生する橘(たちばな)は、国内の柑橘類(かんきつるい)で唯一の野生種(やせいしゆ)とされています。『古事記』や『日本書紀』にも登場し、田道間守(たじまもり)が常世国(とこよのくに)(不老不死の理想郷)から持ち帰ったとの記述も。

 「橘始開(たちばなはじめてきなり)」は、易経・陰陽消長卦の「坤為地」六三に中る。次に「坤為地」六三の文章(爻辞と小象伝)を示す。
 「坤為地」六三の言葉は【新暦十二月二日ころから六日ころまで】に当て嵌まる。

坤為地六三(易経・陰陽消長卦)

《爻辞》
六三、含章可貞。或従王事。无成有終。
○六(りく)三(さん)、章(あや)を含みて貞(てい)にす可(べ)し。或(ある)いは王(おう)事(じ)に従う。成すこと无(な)くして終り有り。
 過ぎたる地位(中庸の位置に居る六二を過ぎた位置)に居る六三は、その能力を隠すように振る舞って、雄馬に仕える雌(めす)馬(うま)の道を、常に固く遵守すべきである。
 三は現場のトップの地位に中るので、時にはトップダウンの命令によって、組織の大事を任されることもある。事を成し遂げたからといって、現場のトップの職責として当然のことであるから、己の才智(才能と智慧)を誇ってはならない。
 現場のトップであろうが組織の歯車の一つであることを自覚して、己を虚しく、脇役に尽してこそ、その役割を果たせるのである。

《小象伝》
象曰、含章可貞、以時発也。或従王事、知光大也。
○象に曰く、章を含みて貞にす可しとは、時を以て発する也。或いは王事に従うとは、知(ち)光(こう)大(だい)なる也。
 小象伝は次のように言っている。過ぎたる地位に居る六三は、その能力を隠すように振る舞って、雌馬の道を、常に固く遵守すべきである。現場のトップの地位に在るが組織の歯車の一つであることを自覚して、陽剛の能力を隠して、力を発揮すべきだからである。
 トップダウンの命令で、組織の大事を任されるのは、六三の才智(才能と智慧)が光大(光り輝くように偉大)だからである。(だからといって、己の才知を誇ってはならない。)

 「坤為地」六三の之卦は「地山謙」である。次に「地山謙」の全体像を表す言葉(卦辞・彖辞、彖伝、大象伝)と「地山謙」九三の言葉(爻辞、小象伝)を示す。これらの言葉は「坤為地」の六三と同じく【新暦十二月二日ころから六日ころまで】に当て嵌まる。

地山謙(坤為地六三の之卦)

《卦辞・彖辞》
謙、亨。君子有終。
○謙は亨(とお)る。君子、終(おわり)有り。
 謙は富(ふ)有(ゆう)になっても決して驕(おご)り高ぶらず人に謙(へりくだ)る時。下卦艮(山)はどっしりと止(とど)まり、上卦坤(地)は柔順に従う。高い山が低い大地の下に謙(へりくだ)っている象(かたち)である。
 山のように聳(そび)え立っている立派な人が大地にひれ伏している人に柔順に謙(へりくだ)っている形。富有になっても驕(おご)り高ぶらず人に謙(へりくだ)る君子は、何事もすらっと通る。
 君子ならば人に謙(へりくだ)る心を持ち続けて終りを全うすることができる。

《彖伝》
彖曰、謙、亨。天道下済而光明。地道卑而上行。天道虧盈而益謙、地道變盈而流謙、鬼神害盈而福謙、人道惡盈而好謙。謙尊而光、卑而不可踰。君子之終也。
○彖に曰く、謙は亨(とお)る。天道は下(か)済(せい)して光(こう)明(めい)なり。地道は卑(ひく)くして上(じよう)行(こう)す。天道は盈(えい)を虧(か)きて謙に益(えき)し、地道は盈(えい)を変じて謙に流れ、鬼神は盈(えい)を害して謙に福(さいわい)し、人道は盈(えい)を惡(にく)みて謙を好む。謙は尊(たつと)くして光り、卑(ひく)くして踰(こ)ゆ可(べ)からず。君子の終り也(なり)。
 彖伝は次のように言っている。富有になっても驕り高ぶらず人に謙(へりくだ)る君子は、何事もすらっと通る。天の道は発出する氣が下(くだ)り地に交わって萬(ばん)物(ぶつ)を生成して、光(こう)明(めい)盛大である。地の道は崇高な天の道から観ると卑(いや)しく下に在り、受容する氣が上(のぼ)って下ってくる天の氣と交わり萬物を化(か)育(いく)する。謙は人の守る道であり、天地は皆謙の道に由(よ)る。
 満月は新月へ向かい、極(ごく)暑(しよ)は極(ごつ)寒(かん)へ向かうように、天の道は満ちているものを減らして謙(へりくだ)るものを増やす。火山が噴火して谷を埋めるように、地の道は満ちているものを謙(へりくだ)るものへと変化流通させる。天地の神仏は満ちているものには禍(わざわい)を蒙(こうむ)らせ謙っているものには福を授(さず)ける。人の道は満ちているものを悪(にく)み謙っているものを好む。
 謙の德は崇高で尊く光り輝いており、卑しく下に在る者が踏み越え凌(しの)ぐことは決してできない。君子が終りを全うできる(小人にはできない)所以(ゆえん)である。

《大象伝》
象曰、地中有山謙。君子以裒多益寡、稱物平施。
○象に曰く、地(ち)中(ちゆう)に山有(あ)るは謙なり。君子以(もつ)て多きを裒(へら)し寡(すくな)きを益(えき)し、物を稱(はか)り施(ほどこ)しを平(たいら)かにす。
 大象伝は次のように言っている。大地の下に気(け)高(だか)い山が謙(へりくだ)っている(卑(ひく)い態度で高い德を有している)のが謙の形である。
 君子はこの形を見習って、多くて満ちているものを減らして、少なくて足りないものを増やす。物の宜しき(適度)を推(お)し量(はか)って、施(ほどこ)しが偏(かたら)らないように配慮(公平に)する。

地山謙九三(坤為地六三の之卦・爻辞)

《爻辞》
九三。勞謙。君子有終、吉。
○九三。勞(ろう)謙(けん)す。君子終(おわり)有り。吉(きつ)。
 九三は剛健正(せい)位(い)の一陽(謙の時の主)として、衆陰(五陰)が帰服している。労(ろう)して伐(ほこ)らず(苦労しても胸を張らない)、功(こう)して誇らず(成功しても控え目にしている)。
 君子として終りを全うすれば、幸運を招き寄せる。

《小象伝》
象曰、勞謙君子、萬民服也。
○象に曰く、勞(ろう)謙(けん)する君子は、萬(ばん)民(みん)服する也(なり)。
 小象伝は次のように言っている。労(ろう)して伐(ほこ)らず(苦労しても胸を張らない)、功(こう)して誇らない(成功しても控え目にしている)君子の大(だい)度(ど)量(りよう)に萬(ばん)民(みん)は信服するのである。