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四季と易経 その二十九

2022年12月19日

葭始生(あしはじめてしようず)(七十二候の十六候・穀雨の初候)

【新暦四月十九日ころから二十四日ころまで】
 意味は「葭が芽を出し始める(絵で楽しむ)」である。
 「絵で楽しむ」には次のように書いてある。
 山野では緑が輝き始め、水辺では葭(葦)の若芽が芽吹くころ。

 「葭始生(あしはじめてしようず)」は、易経・陰陽消長卦の「澤天夬」初九に中る。次に「澤天夬」初九の文章(爻辞と小象伝)を示す。
 「澤天夬」初九の言葉は【新暦四月十九日ころから二十四日ころまで】に当て嵌まる。

澤天夬初九(易経・陰陽消長卦)

《爻辞》
初九。壯于前趾。往不勝爲咎。
○初九。趾(あし)を前(すす)むるに壯(さかん)なり。往きて勝たず。咎と爲す。
 剛健にして正位(陽爻陽位)の初九は最下に居て応比なく孤立無援である。だが、決するという夬の時の始めに中って、権力を有する佞人上六を除き去ろうとして前進する意欲は旺盛(陽爻陽位)である。しかし、無闇に前進しても勝てる見込はない。だから、無闇に前進すれば残念ながら咎(過失)を免れることはできない。

《小象伝》
象曰、不勝而往、咎也。
○象に曰く、勝たずして往くは、咎(とが)也(なり)。
 小象伝は次のように言っている。初九は勝てる見込もないのに、勢いだけ(陽爻陽位)で無闇に前進する。暴(ぼう)虎(こ)馮(ひよう)河(が)の咎(とが)(過失)を免れないのである。

 「澤天夬」初九の之卦は「澤風大過」である。次に「澤風大過」の全体像を表す言葉(卦辞・彖辞、彖伝、大象伝)と「澤風大過」初六の言葉(爻辞、小象伝)を示す。これらの言葉は「澤天夬」の初九と同じく【新暦四月十九日ころから二十四日ころまで】に当て嵌まる。

澤風大過(澤天夬初九の之卦)

《卦辞・彖辞》
大過、棟橈。利有攸往。亨。
○大(たい)過(か)は、棟(むなぎ)橈(たわ)む。往(ゆ)く攸(ところ)有るに利(よろ)し。亨(とお)る。
 大(たい)過(か)は上下が二陰、真ん中が四陽であるから、上下両端が弱く、真ん中の強さに耐えかねる形なので、棟(むな)木(ぎ)が撓(たわ)んで建物が倒(とう)壊(かい)する危機にある。
 しかし、下卦巽(そん)は巽(そん)順(じゆん)な性質、上卦兌(だ)は和悦する性質であり、陽剛の九二と九五には中庸の德がある。剛中(九二と九五)にして巽順(下卦巽)に謙(へりくだ)り、和悦する美德(上卦兌)を以て倒壊の危機を救うために進み往(ゆ)くが宜しい。
 倒壊の危機を救うべく進み往くことによって、すらっと通るのである。

《彖伝》
彖曰、大過、大者過也。棟橈、本末弱也。剛過而中、巽而説行。利有攸往。乃亨。大過之時大矣哉。
○彖に曰く、大過は大なる者過ぐる也。棟(むなぎ)橈(たわ)むとは、本(ほん)末(まつ)弱ければ也。剛過ぎたれども中(ちゆう)し、巽(そん)にして説(よろこ)びて行く。往(ゆ)く攸(ところ)有るに利(よろ)し。乃(すなわ)ち亨(とお)る。大過の時、大なる哉(かな)。
 彖伝は次のように言っている。大過は上下が二陰(小なる者)、真ん中が四陽(大なる者)であるから、大なる者(陽)の力が強過ぎる。倒壊の危機にあるのは、上下両端が弱く、真ん中の強さに耐えかねる(棟(むな)木(ぎ)が撓(たわ)んで建物が倒(とう)壊(かい)する)形だからである。
 四陽(大なる者)は強過ぎるが、九二と九五は中庸の德を備えて、巽順に謙(へりくだ)り、和悦する美德を以て進み往く。倒壊の危機を救うために進み往くが宜しい。倒壊の危機を救うべく進み往くことによって、すらっと通るのである。大過の時は何と偉大であろうか。

《大象伝》
象曰、澤滅木大過。君子以獨立不懼、世遯无悶。
○象に曰く、澤(さわ)、木を滅(めつ)するは、大過なり。君子以て獨(どく)立(りつ)して懼(おそ)れず、世を遯(のが)れて悶(もだ)ゆる无(な)し。
 大象伝は次のように言っている。木を潤(うるお)して養うはずの澤(さわ)の水が、木を浸(おか)して木が枯れようとしているのが大過の形である。君子はこの形を参考にして、大地に根を張り毅(き)然(ぜん)と独立している大木のように、揺るぎのない志を貫いて、何事にも懼(おそ)れることなく、隠遁して世を遁(のが)れている時でも、和悦する美徳を貫いて悶(うれ)えることはないのである。

澤風大過初六(澤天夬初九の之卦・爻辞)

《爻辞》
初六。藉用白茅。无咎。
○初六。藉(し)くに白(はく)茅(ぼう)を用(もち)う。咎(とが)无(な)し。
 初六は柔順(陰)にして巽順(下卦巽の主)なので、人を敬い自分を慎む心が厚い。まるで、潔白な茅(ちがや)を祭器の下に敷くように常に恐(きよう)懼(く)戒(かい)慎(しん)している。それゆえ、倒壊の危機にある大過の時の最下に居て、咎(とが)を免れるのである。(公田連太郎「易経講話二」によると、大過は、陽爻陽位は陽に過ぎ、陰爻陰位は陰に過ぎるから善しとせずに、陽爻陰位と陰爻陽位は程よく調和するから陰爻陽位の初六を善しとする。)

《小象伝》
象曰、藉用白茅、柔在下也。
○象に曰く、藉(し)くに白(はく)茅(ぼう)を用(もち)うとは、柔、下(した)に在(あ)る也。
 小象伝は次のように言っている。初六が常に恐懼戒慎しているのは、最(さい)下(か)の位(くらい)に居て、柔順(陰)にして巽順(下卦巽の主)ゆえ、人を敬い自分を慎む心が厚いからである。