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人生を豊かにする論語意訳 抜粋 その二十

堯(ぎよう)曰(えつ)篇第二十

☆吉川幸次郎著「論語 下」には、次のように書いてある。
…全書二十篇の最後に位するこの篇は、大変特殊な篇である。…郷党第十も、内容と構成が特殊であったが、この篇は一層甚だしい。
 すべて三篇。第一章は堯、舜、禹、武王の、王朝の交替に際しての言葉、その集録であるが、その文章は、どう見てもよくつづかぬ個所がある。孔子のいだいた政治の理想は、堯舜以来の伝統を基礎とするゆえに、それらを列記したと、皇侃の「義疏」は説く。
 次に第二章は、そうした伝統を承けた孔子が、子張の問いに答え、自ずからの政治學説の要点を、「五美を尊び、四悪を屏(しりぞ)く」と、まとめたのであって、「孔子の德の、堯舜諸聖に同じきを明らかにする也」であると、これもまた皇侃の説である。
 そうしてさらに皇侃は、第三章、そうして「論語」全篇の最後の章である「孔子曰わく、命を知らざれば、以て君子と爲す無き也」は、孔子は、堯舜らと同じく、帝王となる能力をもっていたにも拘わらず、時代がそれを許さぬという「天命」を知っていた故に、帝王とならなかった、そのことを明らかにしたのだという。

堯曰第二十、第一章
堯曰、咨爾舜、天之暦数在爾躬。允執其中。四海困窮、天禄永終。舜亦以命禹。曰、予小子履、敢用玄牡、敢昭告于皇皇后帝。有罪不敢赦。帝臣不蔽。簡在帝心。朕身有罪、無以万方。万方有罪、罪在朕躬。周有大賚。善人是富。雖有周親、不如仁人。百姓有過。在予一人。謹権量、審法度、修廃官、四方之政行焉。興滅国、継絶世、挙逸民、天下之民帰心焉。所重民食喪祭、寛則得衆、信則民任焉、敏則有功、公則説。
堯曰く、「咨(ああ)爾舜、天の暦(れき)数(すう)爾の躬に在り。允(まこと)に其の中を執れ。四海困窮せば、天禄永く終らん」。
舜も亦た以て禹に命ず。
曰く、「予(よ)小子履(り)、敢えて玄(げん)牡(ぼ)を用いて、敢えて昭(あき)らかに皇皇たる后帝に告ぐ。罪有れば敢えて赦さず。帝臣蔽(おお)わず。簡(えら)ぶこと帝の心に在り。朕(わ)が身罪あらば、万(ばん)方(ぽう)を以てする無し。万方罪あらば、罪朕が躬に在り」。
周大(たい)賚(らい)あり。善人是れ富む。「周親ありと雖も、仁人に如かず。百(ひやく)姓(せい)過(とが)むるあり。予一(いち)人(にん)に在り」。
権(けん)量(りよう)を謹み、法(ほう)度(ど)を審(つまび)らかにし、廃(はい)官(かん)を修めて、四方の政行わる。滅(めつ)国(こく)を興し、絶世を継ぎ、逸民を挙げて、天下の民心を帰す。重んずる所は民の食(しよく)喪(そう)祭(さい)、寛(かん)なれば則ち衆を得、信なければ則ち民任じ、敏なれば則ち功あり、公なれば則ち説(よろこ)ぶ。
第一段:
 堯がおっしゃった。「ああ舜よ。天の定め(帝位の継承)は君にある。まことに帝位に就くべきである。ところで、天子として政治を行うにあたっては、常に中庸であれ。もし中庸を失って、天下の万民が困窮するようなことになれば、せっかく天から授かった僥倖を、永遠に失ってしまうであろう」。2012
第二段:
 その舜もまた、堯に教えられた言葉を禹に命じた。(その後、禹の夏王朝は世襲され時が流れたが、後の桀(けつ)王が悪逆無道であったので、殷の湯(とう)王(おう)が桀王を伐って天子となった。)
第三段:
 湯王が(諸侯に)おっしゃった。「不束(ふつつか)な、わたくし履(り)(湯王の名)が、ここに犠牲の雄牛を供え、天下に明々白々と、大いなる天帝に申し上げます。自分は天に代わって国を治める者でありますから、罪人は厳正に罰します。天帝の家来である諸侯を蔽い隠すようなことはいたしません。わたくしに罪がある時は、諸侯を責めたりいたしません。諸侯に罪がある時は、責任はわたくしにあります」。2012
第四段:
(そして、殷王朝が続き、紂王の時、紂王が悪逆無道であったので伐たれて、周王朝となった。武王は紂王を伐つ兵を挙げた時、集まった軍団に対して次のようにおっしゃった。)


「わたしには大きな宝物がある。すぐれた人材(仁人の卵である善人)が沢山いることだ。親族に囲まれていても、すぐれた人材(仁人)には及ばない。民に過ちがあれば、責任はわたしにあるのだ」。2012
第五段:
(こうして建てた周王朝は、)秤(はかり)や升(ます)目(め))など基準を守り、制度(法度)を整理し、廃止されていた官職を補充して政治を行った。また、滅びた国を再興して諸侯とし、絶えていた賢者の家の子孫を立てて家系を復活させて、野に下っていた賢人を登用するなど情を尽くした政治を行ったので、天下の民の心は周王朝に向かったのである。(こうした歴史に鑑みると、政治において)重視するものは、民の生活の基本である「食」、人の死を哀しむ「喪」、祖先の霊を敬う「祭」である。政治が寛大であれば人々に支持され、爲政者が言行一致であれば人々から信頼され、処理が迅速であれば実績が上がり、公平であれば人々は喜ぶ。このようにして初めて国を治めることができるのである。2012

あとがき
 本書の特徴は名著と云われる論語の解説書の文章をわたしの「意訳」を補うかたちで厳選して引用している点にある。
 文章の解読が中心となる学者先生の解説文だけでなく、指導者教育や啓蒙活動に論語を活用した安岡正篤先生やその高弟伊與田覺先生の著作、論語を企業経営の指針とした渋澤栄一氏の著作、さらには小説で顔回に独自のスポットを当て、その隠された能力を見事に描いた作家の酒見賢一氏の小説「陋巷に在り」等を参考文献や引用文献として活用させて頂いた。
 巷に溢れている論語の解説書の中でもユニークなものとなったと自負している。

 以下、引用及び参考にした図書を列挙しておく。

吉田公平著 論語 タチバナ教養文庫
諸橋轍次著 論語の講義 大修館書店
吉川幸次郎著 論語 上 下 朝日新聞社
貝塚茂樹訳注 論語 中公文庫
金谷治訳注 論語 岩波文庫
金谷治著 孔子 講談社学術文庫
宇野哲人著 論語新釈 講談社学術文庫
加地伸行著 論語 講談社学術文庫
加地伸行著 中国の古典 論語 角川ソフィア文庫
宮崎市定著 現代語訳 論語 岩波現代文庫
陳舜臣著 論語抄 中央公論新社
一海知義著 論語語論 藤原書店
三戸岡道夫著 孔子の一生 栄光出版社
白川静著 孔子伝 中公文庫
下村湖人著 論語物語 講談社学術文庫
呉智英著 現代人の論語 文藝春秋
佐久協著 高校生が感動した「論語」 祥伝社
渋澤栄一著 「論語」の読み方 三笠書房
安岡正篤著 人物を創る プレジデント社
安岡正篤著 論語の活學 プレジデント社
安岡正篤著 論語に學ぶ PHP文庫
安岡正篤著 朝の論語 明德出版社
安岡正篤著 経世瑣言 総編 致知出版社
安岡正篤著 友経 内篇 外篇 (財)郷学研修所
伊與田覺著 現代訳 仮名論語 拡大版 論語普及会
伊與田覺著 修己治人の書「論語」に學ぶ「人の長たる者」の人間學 致知出版社
伊與田覺著 「孝経」に學ぶ人としての道 致知2006-2
酒見賢一著 陋巷に在り 新潮文庫

                            令和四年十月吉日 白倉信司
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