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四季と易経 その二十六

鴻雁北(こうがんきたす)(七十二候の候の十四候・清明の次候)

【新暦四月九日ころから十三日ころまで】
 意味は「雁が北国へ去っていく(絵で楽しむ)」である。
 「絵で楽しむ」には次のように書いてある。
 冬を過ごした渡り鳥の雁が、北国へ帰っていくころ。春に渡来して秋に去る燕と対をなして、昔から暮らしや文学上で親しまれてきました。

 「鴻雁北(こうがんきたす)」は、易経・陰陽消長卦の「雷天大壮」六五に中る。次に「雷天大壮」六五の文章(爻辞と小象伝)を示す。
 「雷天大壮」六五の言葉は【新暦四月九日ころから十三日ころまで】に当て嵌まる。

雷天大壮六五(易経・陰陽消長卦)

《爻辞》
六五。喪羊于易。无悔。
○六五。羊(ひつじ)を易(さかい)に喪(うしな)う。悔(くい)无(な)し。
 六五は九四の時に開けた行き先の垣(かき)根(ね)である。六五は柔中の德を具えているので勇ましく進んで行く賢臣(九四と九二)に順う。だから、後悔することはないのである。

《小象伝》
象曰、喪羊于易、位不當也。
○象に曰く、羊を易(さかい)に喪(うしな)うとは、位(くらい)當(あた)らざれば也(なり)。
 小象伝は次のように言っている。六五は柔中の德を具えているので勇ましく進んで行く賢臣(九四と九二)に順うので、後悔することはない。君主の地位に在りながら柔順で、過ぎたるところがない正しさ(礼による調和)を貫くからである。

 「雷天大壮」六五の之卦は「澤天夬」である。次に「澤天夬」の全体像を表す言葉(卦辞・彖辞、彖伝、大象伝)と「澤天夬」九五の言葉(爻辞、小象伝)を示す。これらの言葉は「雷天大壮」の六五と同じく【新暦四月九日ころから十三日ころまで】に当て嵌まる。

澤天夬(雷天大壮六五の之卦)

《卦辞・彖辞》
夬、揚于王庭。孚號。有厲。告自邑。不利即戎。利有攸往。
○夬(かい)は王(おう)庭(てい)に揚(あ)ぐ。孚(まこと)ありて號(さけ)ぶ。厲(あやう)き有り。告(つ)ぐること邑(ゆう)よりす。戎(じゆう)に即(つ)くに利(よろ)しからず。往(ゆ)く攸(ところ)有るに利し。
 夬は決する(五陽爻の君子が一陰爻の小人を決し去る)時である。勢い衰えた小人(上六の一陰爻)の悪(あつ)行(こう)を公(おおやけ)にして民衆に知らしめる(広く一般大衆に認識してもらう)のである。君子が至誠の心で高らかに民衆に訴えても、権力を有する佞人(上卦兌の主爻)上六はしたたかなので危険が伴う。だから、先ずは近隣の人々から説得していく。すなわち足(あし)下(もと)を固めるのである。権力を有する上六の佞人を決し去るに中っては武力を用いるべきではない。武力を用いれば世の中が混乱するだけである。
 以上を踏まえて前進すれば必ずや佞人上六を決し去ることができる。

《彖伝》
彖曰、夬、決也。剛決柔也。健而説、決而和。揚于王庭、柔乘五剛也。孚號、有厲、其危乃光也。告自邑、不利即戎、所尚乃窮也。利有攸往、剛長乃終也。
○彖に曰く、夬は決する也。剛、柔を決する也。健にして説(よろこ)び、決して和(やわら)ぐ。王庭に揚ぐるは、柔、五剛に乘ずれば也。孚ありて號(さけ)ぶ、厲き有りとは、其れ危ぶめば乃ち光(おお)いなる也。邑(ゆう)より告ぐ、戎(じゆう)に即くに利しからずとは、尚(たつと)ぶ所乃ち窮すれば也。往く攸(ところ)有るに利しとは、剛長ずれば乃ち終れば也。
 彖伝は次のように言っている。夬は五陽爻の君子が一陰爻の小人を除去することを決する時である。剛健な五陽(君子)が柔弱な一陰(小人)を除去することを決する。下卦乾の健やかな性質と上卦兌の悦(よろこ)んで和らぐという性質を兼ね備えているので、君子が小人を除去することを民衆は悦(よろこ)び和合一致する。小人の悪行を公にして民衆に知らしめる(広く一般大衆に認識してもらう)のは、一陰(小人)が五陽(君子)よりも高位に居て、権力を持っているからである。君子が至誠の心で高らかに民衆に訴えても、権力を有する佞人(上卦兌の主爻)上六はしたたかなので危険が伴う。畏(おそ)れ危ぶみ慎んで行動してこそ、大事を為し遂げられるのである。先ずは近隣から説得する。すなわち足下を固めて、武力を用いるべきではない。武力を用いれば世の中が乱れ、民衆の支持を失い君子が窮するからである。以上を踏まえて前進すれば必ずや佞人上六を決し去ることができる。君子が小人を権力の座から排除して、君子の道が完成するのである。

《大象伝》
象曰、澤上於天夬。君子以施祿及下。居德則忌。
○象に曰く、澤、天に上(のぼ)るは夬なり。君子以て祿(ろく)を施(ほどこ)して下(しも)に及ぶ。德を居(お)くは則(すなわ)ち忌(い)む。
 大象伝は次のように言っている。澤(兌)が天(乾)の上に昇り決(けつ)潰(かい)して、恩澤の慈雨を降らせるのが夬の形である。君子はこの形を見習って、家臣には恩(おん)祿(ろく)を、民には恩恵を施すのである。德を出し惜しみして民に恩澤を施さないのは、君子の忌(い)み嫌うことである。貴方が君子ならば、德を出し惜しみすることを戒め慎まなければならない。

澤天夬九五(雷天大壮六五の之卦・爻辞)

《爻辞》
九五。莧陸、夬夬。中行无咎。
○九五。莧(けん)陸(りく)、夬(かい)夬(かい)たり。中行にして咎无し。
 剛健中正の天子(トップ)九五は、夬(一陰五陽)の時の権力者で口先ばかりの佞人上六の影響下にある(比している)。小人(佞人)を除去する時の君主(トップ)でありながら、佞人上六を除去する決断がなかなかできない。
 だが、やがて誤りに気がつき衆陽(君子)を率いて佞人上六を除去する。中庸の(適切に上六を除去する)道に適っていれば、誰からも咎められない。

《小象伝》
象曰、中行无咎、中未光也。
○象に曰く、中行にして咎无しとは、中未(いま)だ光(おおい)ならざる也。
 小象伝は次のように言っている。中庸の(適切に上六を除去する)道に適っていれば、誰からも咎められない。君主(トップ)として、夬(一陰五陽)の時の権力者佞人上六の影響下にあったので、上六を除去する決断が遅れたのである。それが中庸の道に適っていたとしても、中庸の道が大いに行われた(最適な時期に上六を除去した)とは言い難い。それゆえ、咎を免れるに止まるのである。