雷 六三 ・・｜ ・・｜
六三。震蘇蘇。震行无眚。
□六三。震(しん)して蘇(そ)蘇(そ)たり。震して行けば眚(あやまち)无(な)し。
下卦震の主爻からは遠ざかるも、上卦震の主爻に接近した。初九と九四が主宰する天下の大事変に呆然自失して途方に暮れる。恐れ震えて不中正を戒め、正しい道に進み行けば、起こるはずの災禍を免れることができる。
象曰、震蘇蘇、位不當也。
□震(しん)して蘇(そ)蘇(そ)たりとは、位(くらい)当らざる也。
呆然自失して途方に暮れる。柔弱過中の性質で不正な地位に居る。
以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての原文の一部。
（占）大難アリテ未ダ消セザルノ時トス、故ニ難ニ臨ミ、氣ヲ落サズ、心ヲ勵マシテ慾ヲ去リ、善ヲ修ムルトキハ、自ラ天助アリテ、難ヲ免ルルヲ得ベシ、・・・、
以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての現代語訳。
（占）大きな災難に見舞われて未だ回復半ばの時である。災難の後始末に中って気を落とさず、発奮して、無欲で臨み、日々善行を積み上げれば、やがて天が味方して、災難から抜け出ることができる。
○大地震のような騒動が起こるので安心することができない時。
○電話やインターネットなどによって大事変の勃発を知る時。
以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占例の原文の一部。
（占例）余ハ毎年冬至ノ日ニ於テ、余ニ關スル所ノ諸事ヲ占フヲ以テ例トス、明治二十五年冬、愛知縣熱田セメント製造所ハ、余ガ所有ナルヲ以テ、其社運を占ヒシニ、震ノ第三爻ヲ得タリ、・・・
以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占例の現代語訳。
（占例）わたしは毎年冬至占で翌年の運氣を占っている。明治二十五年の冬至占では、わたしが所有する愛知県の熱田セメント製造所の翌年の社運を占って筮したところ震の三爻を得た。
易斷は次のような判断であった。
震は激しい雷が発奮して世の中を驚かす時。人間社会に当て嵌めると、大事変によって大騒動が起こる。熱田セメント製造所では多くの工員が働いているが、労働運動が活発にならないように注意しているので、労働争議が起こる心配はない。製造しているセメントは外国製と同じレベルの品質を維持しているので、大きな騒動が起こるとは思われない。
しかし、冬至占によると、大きな騒動が起こることが予測されるので、何が起こっても対応できるように警戒していた。冬至占の翌年の十一月に大きな地震が発生した。熱田セメント製造所も大きな被害を受けた。設備が破壊され、工員数名が死傷して、大きな騒動となった。地震の規模は安政以来三十年ぶりの大震災である。冬至占で震の三爻が出たのは、正(まさ)しくこのことを予知したのである。
占って震が出た場合は、何が起こっても対応できるように警戒することが必要不可欠であると痛感したのである。
以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占例の原文の一部。
（占例二）友人某來リテ、運氣ヲ占ハンコトヲ請フ、乃チ筮シテ、震ノ第三爻ヲ得タリ、
以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占例の現代語訳。
（占例２）ある友人がやって来て運氣を占ってほしいと頼まれたので、筮したところ震の三爻を得た。
易斷は次のような判断であった。
震は長男が発奮して事業を行っている時でもある。今回占って三爻が出たので、事業に励んでいる最中に大きなアクシデントが勃発して、対処するのに大きな忍耐を要する。また大きな障害が立ち塞がり、これまで抱いていた希望が打ち砕かれて、生死を彷徨(さまよ)うような精神状態に陥り、苦労に苦労を重ねる時となる。
このような状態を乗り越えるためには、人は無一物で生まれ、無一物で死んで逝くものだと達観して、男としてこの世に生まれてきたからには、天下国家のために尽くすのは当然であり、この程度の苦労に押し潰されてはならぬと発奮することが求められる。
大事業を成し遂げた人物の共通した考え方である。男たる者、その真価が発揮されるのは、このような非常事態に陥った時だと覚悟すれば、逆境のピンチをチャンスへ転換することができる。逆境に対応するに中ってはほんの少しでも、正しさに欠ける対策を立ててはならない。ひたすら私利私欲から離れて、善き事を突き進めようとする勇気があれば、志を実現することができる。このことを「震(しん)して蘇(そ)蘇(そ)たり。震して行けば眚(あやまち)无(な)し。下卦震の主爻からは遠ざかるも、上卦震の主爻に接近した。初九と九四が主宰する天下の大事変に呆然自失して途方に暮れる。恐れ震えて不中正を戒め、正しい道に進み行けば、起こるはずの災禍を免れることができる。」と云う。
以上のようであるから「気を落とさずに励みなさい」と易断した。
（易占の結果は書いていない。）