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期間限定「現代語訳(超意訳) 呑象高島嘉右衛門著 増補 高島易斷 上下巻 占例篇」 天火同人

十三 天火同人 ||| |・|

同人、于野。亨。利渉大川。利君子貞。
□人に同じくするに野(や)においてす。亨る。大川を渉るに利し。君子の貞に利し。
 同人は人と志を同じくする時。天(乾)と太陽(離)が天の道を同じくするように、広く天下の同志を集めて和合する。それゆえ、すらっと通る。難事業に取り組むがよい。
 確乎不抜の志を抱き、広く天下の人々と和合するがよい。
彖曰、同人、柔得位、得中、而應乎乾、曰同人。同人曰、同人于野、亨。利渉大川、乾行也。文明以健、中正而應、君子正也。唯君子爲能通天下之志。
□同人は、柔、位を得、中を得て乾に応ずるを、同人と曰う。同人に曰く、人に同じくするに野においてす。亨る。大川を渉るに利しとは、乾の行也。文明にして以て健中正にして応ず、君子の正しき也。唯だ君子のみ能く天下の志を通ずと為す。
 柔順中正な六二が、剛健中正な九五を通じて周(あまね)く天下の人々と志を同じくするから「同人」と言う。「同人は人と志を同じくする時。天(乾)と日・太陽(離)が天の道を同じくするように、広く天下の同志を集めて和合する。それゆえ、すらっと通る。難事業に取り組むがよい」。正(まさ)しく乾(天)の働きである。
 内(離)に文明の德、外(乾)は剛健の性質、六二と九五が共に中正で広く天下の人々と応じている。中正の道を以て相応ずるのが、君子の正しい道である。
 ただ君子だけが、天下の民と志を通じて、大同団結できるのである。
象曰、天與火同人。君子以類族辨物。
□天と火とは同人なり。君子以て族を類(るい)し物を弁(べん)ず。
 天と火は共に上昇するから志を同じくする。
 君子は、善悪正邪・智愚利鈍を分類して、臣民のタイプを見極め、あらゆる物事を分別して、正しく時に対処する。

 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての原文の一部。
(占)此爻文明ノ智力ヲ有シテ、而シテ中正ヲ得タリ、故ニ廣ク天下ニ交ルニ、驕傲ニシテ自ラ亢ブルコトナカルベシ、・・・
 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての現代語訳。
(占)文明と智恵、健やかな力を具えており、しかも(五と二が)中正を得ている。広く天下の同志を集めて、大事業を興すべき時。位の高い人と接する時には、謙遜して、卑下することなく、位の低い人と接する時には、傲慢になることなく、公平無私を心がけ、等しく天下の人々と交わって、天地人の道を履み行なうべきである。
 このことを「人に同じくするに野においてす。同人は人と志を同じくする時。天(乾)と太陽(離)が天の道を同じくするように、広く天下の同志を集めて和合する」と云う。
○天下の人々は、あなたの志に共感し、あなたの言行を信用し、あなたを支援してくれる。事業は成就する。剛健の徳を具えた人の支援が得られれば、向かうところ敵はなく、危険に陥る可能性も少ない。チャンスを逃さず、努力して正しい道を突き進み、天下国家のために尽くす。名前を後世に伝えるように心がけるべきである。
○力を合わせ心を一つにして、事業を成し遂げれば、利益を得られる。
○国家には、公に奉ずる役人と経済活動や文化活動を行なう民間人が存在する。同人は、民間人の志が実現する時である。
それゆえ「野においてす。亨る。広く天下の同志を集めて和合する。それゆえ、すらっと通る」と云う。
○人々の心が私利私欲に傾いている。凡庸な主張が正論と錯覚されてしまう時である。
○徒党を組んで、志や希望・願望を成し遂げようとする時である。
○野蛮な行為が行なわれる時である。
○交際している相手に対して、過度に愛情を抱いてはならない。いわゆる「八方美人」のような、交際をすることで宜しきを得る。
○天下の人々と広範囲に付き合えば、私利私欲から離れることができて、天の道を踏み外さない。それゆえ、大吉を招き寄せる。
○限られた人としか、志を同じくしない時は、他の人の怨みを買う。大勢の人々と、志を同じくすれば、天下に敵がいないと思えるほど、吉運招来する時である。
○学問を積んで得た知識により、権力や権威、資金力がある人と共同して事業を企画実行して、利益を得る時である。
○最終的な方針を定めて発憤する時。
○温和な性格ゆえ大衆から親しまれる。
○真っ直ぐで正しい才能と剛毅なエネルギーに志が支えられる。大事業を成し遂げ、天下に名を轟かせる時。
○智恵のある人が内側に、勇気のある人が外側に居る。内外時と場所を得て、智者と勇者が志を同じくする。小さいことであれば、家を再建し、大きなことであれば、国家を統治して天下泰平を実現する。
○人と相親しむ。 ○交際が広がる。 ○議論を吹っかけ揉め事を起こしてはならない。
○何事も温和で円滑であることを善しとする。
同人 初九 ||| |・|

初九。同人于門。无咎。
□初九。人に同じくするに門においてす。咎无し。
 同人の初めに居て、天下の人と和合すべく家の門から出て六二と志を同じくする。私心なく公正ゆえ咎められることはない。
象曰、出門同人、又誰咎也。
□門を出(い)でて人に同じくす。又誰か咎めん也(や)。
 家の門を出て(私心を捨てて)広く天下の人と和合する。誰が咎められよう。

 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての原文の一部。
(占)此爻ヲ得ルトキハ、固ナク必ナク己ヲ虚ニシテ人ニ接セルト旨トス、要スルニ内己ヲ失ハズ外人ヲ失ハズシテ、能ク和同ノ道ヲ得ルニ在リ、・・・
 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての現代語訳。
(占)頑固さ、拘(こだわ)り、私利私欲を捨てて、人に接するように心がけるべきである。内側に居る自分を正して、外側に居る相手との関係を保てば、協調一致して進むことができる。
○実家を出て(独り立ちして)学問と修業に志す時。
○自分の見識を隠して、世間の人情を味わうべきである。

 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占例の原文の一部。
(占例)一日友人某氏來テ、其運氣ヲ占ハンコトヲ請フ、乃チ筮シテ同人ノ初爻ヲ得タリ、・・・
 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占例の現代語訳。
(占例)ある友人がやって来て、運氣を占ってほしいと頼まれたので、占筮したところ、同人の初爻が出た。
 易斷は次のような判断であった。
 同人は交際範囲を広くして、多くの知人を創る時。交際のルールは、善人と付き合って、悪人とは付き合わないこと。当たり前のことだが、善人とお付き合いするときは、こちらから胸襟を開き、相手から信頼されることが肝要。これが同人の意義である。
 今回、あなたの運氣を占って同人の初爻が出た。
 努めて自分の意見は胸に納めておき、物事に淡泊に接し、一方に偏らないことが肝要である。心の中から毒を取り払って、きれいな心の状態で、相手の心と一体化するように心がけることを善しとする。
 社会における人間関係は、お互いに助け合うことが大切である。朋友とのお付き合いにおいても、相手のために尽力を尽くして、自分は低い所にいて、功を誇ってはならない。
長年、相手のために努力し続ければ、やがては社会的地位の高い人から目をかけられ、大勢の人々から尊敬されるようになる。
 自分の意見に囚われるのは、入り口を固く閉ざしている家のようなものである。入り口から外に出て、大勢の人と交際する。自分の意見に囚われずに、善いことに順って嘘偽りのない正直な交際を続けて身を立てる(運氣を開く)べきであると易断した。
 その友人は、易断を信じて、その通りに行なったところ、大勢の人々から信頼されて、終には、立身出世したのである。

同人 六二 ||| |・|

六二。同人于宗。吝。
□六二。人に同じくするに宗(そう)においてす。吝。
 広く天下の同志を集めて和合する時にあって、正応九五しか見ていない。志が堅固でないから、天下の人々と同人する努力を怠るのだ。恥ずべきである。
象曰、同人于宗、吝道也。
□人に同じくするに宗においてすとは、吝(りん)道(どう)也。
 広く天下の人々と同人する努力を怠る。君子として、恥ずべきことである。

 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての原文の一部。
(占)此爻ヲ得ルトキハ、文明ノ智力、先見の明アル人ニシテ、人望ヲ失ヒ運氣ヲ離レタルノ象アリ、宜ク驕傲ノ心ヲ抑ヘ、衆人ヲ蔑視スルコトナク、公明正大ノ志操ヲ貫クベシ、然ルトキハ復タ衰運頽氣ヲ輓回シテ、顯榮ノ譽ヲ至スベシ、・・・
 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての現代語訳。
(占)文明の知見と先を読む明察力があるのに、人望を失って、運氣が萎(しぼ)んでしまった時である。よく考えて、傲慢になりがちな心を抑制し、大衆を見下すことなく、公明で正しく広大な志を抱き、その志をずっと保つべきである。そのようであれば、再び運氣は回復して、繁盛・繁栄の名誉を得る。
○一つだけ存在する陰的な人材が臣下の位(六二)に居る。文明の知見を具え柔順中正を得て、九五の君主に応じている。名君と賢臣が志を同じくして国家を統治する時である。
○地位の高い人から寵愛されるため、九三・九四から嫉妬されること甚だしい。貴人から大切にされることを誇れば、吉運一転して凶運となり、後で後悔したところでどうにもならない。
○あなたが公明正大で天真爛漫な真心を持つことができれば、誰にも隠しごとが出来なくなる。言行一致を貫けば、大勢の人々に助けられる。志を大いに成就することができる時である。
○権力や権威に驕らず、髪の毛一本ほども傲慢な気持ちを抱くことなく、泰然と佇んでいることが求められる時である。

 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占例の原文の一部。
(占例)明治三年、我ガ運氣ト將來ノ方向如何ヲ占フ、・・・
 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占例の現代語訳。
(占例)明治三年、自分の運氣と将来の方向を占筮した。
わが国は明治維新が実現した明治元年は、奥羽と北越、翌明治二年は、函館で内乱が続き、天下は治まっていなかった。明治三年、内乱は終了し、文明開化の時代に入っていった。この時に、わたしは大いに感じることがあった。
 思えば、わたしは商人の家に生まれ育ったので、ただ、商売繁盛と立身出世に汲々として生きてきただけで、国家のお役に立つことを考え実行する余裕がなかった。最近、天下国家のために生きてきた貴人と知り合うようになって、彼らの生き様を見ると、国家のためには自分の命や家庭をも顧みず、危険なことに立ち向かって、終には維新の大事業を成し遂げた立派な臣下である。
 わたしは、国家のために働いたことはなく実に恥ずかしい。できれば、これからは国家のために働き、君子人として恥ずかしくない行ないを実践していきたい。このように思って、自分の運氣と将来を中筮法で占ったところ、同人の不変(卦辞で判断する)を得た。
 易斷は次のような判断であった。
 江戸幕府の末路は長く続いた天下泰平が崩れた。武士は傲慢になり、庶民は卑屈になって、外国船に国交を迫られても、君子はその役割を果たせず、小人は右往左往して、社会は閉塞状態に陥り、秩序は乱れに乱れた。こういう状況に追い込まれて、日本各地で名もない志士が立ち上がり、天下の人々もその流れに応じて、全国各地で内乱が起こった。
 天地否の時は一変し、天下泰平の礎(いしずえ)を打ち立てるに至った。すなわち、天火同人の時である。同人は、多くの人々が志を同じくして、為すべき事を成し遂げる時である。
 今の社会に当て嵌めると、天下国家の命運は、軍事を増強することである。人々は天下国家のために貢献して、その労苦を誇ることなく、古い制度や慣習を脱ぎ捨て、新しい近代国家の制度や慣習を身に付けるように努力することが大切である。
 庶民は、身分制度から解放され、それぞれが対等で平等な国民として、天下国家に貢献していくことが同人の時の本質的な意義である。
 今回占筮して同人が出た。
 天下国家の運氣と自分の運氣、わたしが発憤して成し遂げようとしている事業とが、大きな三つの潮流として、一つに合流しようとしている。千載一遇のチャンスを迎えている。正(まさ)しく、わたしの一生をかけ、天下国家のために何かを成し遂げる時が到来した。
 同人の彖伝には「同人は、柔、位を得、中を得て乾に応ずるを、同人と曰う。柔順中正な六二が、剛健中正な九五を通じて周く天下の人々と志を同じくするから「同人」と言う」とある。このことは、わたしが民間の立場で中正の地位に居て、天下国家を統治している政府と志を同じくすることを示している。
 わたしがこれから成し遂げようとする事業は、政府からも賛同・支援される。このチャンスを逃さずに進んで事を為すべきである。
 また卦辞・彖辞の前半にある「人に同じくするに野においてす。亨る。同人は人と志を同じくする時。天(乾)と太陽(離)が天の道を同じくするように、広く天下の同志を集めて和合する。それゆえ、すらっと通る」とは、国家を愛する至誠の心で、天下国家と自分を重ねて考え、上下や地域の差をなくして全体が一つとなる。公平無私の見識で、上の人に諂(へつら)うことなく、下の人を侮(あなど)ることなく、事を為せば、成功しないわけがない、と云うことである。
 卦辞・彖辞の後半にある「大川を渉るに利しとは、乾の行(ぎよう)也。難事業に取り組むがよい。正(まさ)しく乾(天)の働きである」とは、今のわたしの運氣と天下国家の時流とが相応じる。わたしが成し遂げようとしていることは、政府もまた賛同する。大きな事業を立ち上げても、成し遂げられないことはない、と云うことである。
 いざというときには、天下国家の公益のために、財産を投げ打って、事を成し遂げようとすれば、天下国家と志を同じくする。何の見返りも求めずに政府と行動を共にするのである。微々たるわたしの財産を、天下国家の公益のために投げ出すことは、声を大にして言うべきことでもない。だから、彖伝に「乾の行(ぎよう)なり。正(まさ)しく乾(天)の働きである」と云う。また、彖伝の「文明にして以て健。内(離)に文明の德、外(乾)は剛健の性質」とは、卦徳(同人という時の善き性質)によって、これから発憤して取り組むべき事業の方向を示している。すなわち、剛健の勇気を持って、天下の文明の方向を先導して実行することに、大きな意義があることを示しているのである。
 内卦離は天下国家を明るく照らすもの。外卦乾は天下国家の健やかさを表わしている。文明開化の事業は健やかにして休息することのない氣力があれば、成し遂げられる。だから、内に文明の徳を修めて、外は剛健にして休息しないのである。このように、欧米の文明をわが国に取り入れていけば、必ずや成功して、国家の公益になる。
 彖伝の「中正にして応ず、君子の正しきなり。唯だ君子のみ能く天下の志を通ずと為す。中正の道を以て相応ずるのが、君子の正しい道である。ただ君子だけが、天下の民と志を通じて、大同団結できるのである」とは、わたしは、今、民間の中核的な存在(企業家)として正しい位置に居て、天下国家のために政府と志を同じくして、大衆に先駆けて文明開化に資する事業を立ち上げようと欲している。これは、わたしの天命である。
 日本政府は、全国各地から賢人が集まってくる組織であり、朝から晩まで年中無休で近代国家を築き上げるべく一生懸命働いている。近代化を進めることは容易なことではなく、短期間で成し遂げられるはずもない。
 わたしが今、民間にあって、大衆に先駆けて文明開化に資する事業を立ち上げ、これによって政府が進めている近代化の一助となり、日本社会に貢献することができれば、わたしの志を成し遂げることになり、それは国家の公益ともなる。
 彖伝に「君子のみ能く天下の志を通ずと為す。君子だけが、天下の民と志を通じて、大同団結できるのである」とある。
 以上のように、明治三年から確乎不抜の志を胸に抱いて私財を投じ、先ずは、①飛脚船事業に取り組んで、国内における運輸の利便性を高め、次に②鉄道を事業化し、その次には、③洋学校を開校して外国から教師を招聘して教育の普及啓蒙を図った。さらに、④瓦(が)斯(す)燈を横浜港内に布設して、不夜城を実現するなど、明治七年の冬に至るまでに、以上の四大事業を成し遂げた。この四大事業は、これまで誰も着手しなかった難事業である。
 わたしが初めて成し遂げたので、明治七年に瓦(が)斯(す)燈(とう)が完成した日には、懼(おそ)れ多くも天皇陛下が巡幸されて、お言葉を述べられた。わたしの生涯における、最大の光栄である。
 天皇陛下と謁見した時、わたしは密(ひそ)かにご先祖様の位牌を礼服の内側に潜ませていた。わたしはご先祖様に対して誇らしい気持ちになった。四大事業を成し遂げて、このような光栄を得ることができたのは、ご先祖様の「積善の餘(よ)慶(けい)」によるものである。
同人は、五爻の時に至って物事が成就する。
 これを年数に換算すれば、初爻から五爻に至るまで五年かかる。明治三年から七年に至るまでの五年間であり、その間、九三は、九五を窺って兵士を草むらに隠し、九四は、九五を討つべく、城の垣根に登って形勢を窺うなど、事業の前に大きな障害が立ち塞がったが、わたしには野心がなく、公平無私の心境で文明開化の資する事業を推し進めたので、終には五爻に至って成功することができた。
 九五の爻辞に「人に同じくするに、先には號(ごう)咷(とう)して後には笑う。大(たい)師(し)克(か)ちて相(あい)遇(あ)う。正応六二と同人しようとする。九三・九四に邪魔され、始めは悲しみ泣き叫ぶ。終には喜び笑うに至る(六二と和合する)。大軍を率いれば強敵を寄せ付けない」とある所以である。ここに至るまでに困難な出来事が次から次に立ち塞がって、わたしを苦しめたのも、わたしを激励して忍耐力を鍛えることにつながり、わたしの志氣は挫折しなかった。
 遂に四大事業を成し遂げ、今上陛下の巡幸を賜ることに至ったのは、正(まさ)しく「大(たい)師(し)克(か)ちて相(あい)遇(あ)う。大軍を率いれば強敵を寄せ付けない」と云うことである。
 盛運が衰運に転ずるのは、天理(天の理法)の常識である。今わたしは、同人の運氣に乗って事を成し遂げることができたが、物事は盛運と衰運を繰り返すことを忘れ、前に進むだけで、退くことを知らなければ、「亢龍悔いあり」の落とし穴に嵌(はま)ってしまう。
 同人の上九には、このことを戒めて「人に同じくするに郊(こう)においてす。悔いなし。人に遠く離れて利害の外に立ち、淡々とした境(きよう)涯(がい)にある。何事にも執着せず、後悔することもない」と云っている。
 以上は、易理(易が説く真理)の絶妙なところである。易理は聖人がわたしたちを導く時に、天命として示されるのである。そのことを、決して疑ってはならない。
 天命を果たしたわたしは、明治八年には横浜郊外の丘陵の上に隠居し、悠々自適の身で易を研究して、今に至っている。同人の占例を書いているうちに、過去を思い出し、感慨深く、この文章を記している。
同人 九三 ||| |・|

九三。伏戎于莽、升其高陵。三歳不興。
□九三。戎(つわもの)を莽(くさむら)に伏せ、其の高(こう)陵(りよう)に升(のぼ)る。三歳まで興(おこ)らず。
 六二と志を同じくすることを強く欲する。六二は九五と固く通じているので歯が立たない。九五の隙(すき)を窺(うかが)い、兵士を草むらに隠して素知らぬふりして丘に登って観察する。何年経っても兵を興(おこ)すことはできない。
象曰、伏戎于莽、敵剛也。三歳不興、安行也。
□戎(つわもの)を莽(くさむら)に伏すとは、敵(てき)剛(ごう)なれば也。三歳まで興(おこ)らず、安(いずく)んぞ行かん也(や)。
 兵士を草むらに隠して隙を窺う。正面から九五を討っても勝ち目はないからである。何年経っても兵を興すことはできない。どうしてこのような不義が実行されようか。

 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての原文の一部。
(占)此爻才力ニ任セ、理勢ヲ審ニセズ、妄ニ大事ヲ企テ、半途ニ力盡テ止ムノ象トス、商賣ニ在テハ少額ノ資本ヲ以テ、大金ヲ要スル營業ニ着手シ、百方苦心スト雖モ、竟ニ及バズ爲メニ資本ヲ消散スルニ至ル、所謂ル勞シテ功ナキノ時トス、・・・
 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての現代語訳。
(占)才能と力に任せて、冷静に対処しようとせず、無謀にも大きな事業を企画するが、途中で力尽きて止めてしまう時。
○商売にあっては、僅かな資本金で、大金が必要な営業活動に着手し、散々苦労するけれども、結局、苦労は報われることなく、資本金を失うことになる。苦労するけれども、成功しない時である。
○怒りを抱いて発憤して、大衆を扇動する。
○善からぬ計画を胸に秘めて、他人を妨害しようとする。
○他人が仲よくしていることを恨めしく思う時。
○時間をかけて計画したことが原因となって、何事もギクシャクする。
○屯田兵(平時は農業を営みながら軍事訓練を行なって、戦争のときには軍隊の一員となる兵士のこと)に関する時である。
○悪知恵が働くことが、災いとなって財産を失う。
○他人の苦労を引き受けることがある。

 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占例の原文の一部。
(占例)明治二十四年、某貴顕來リテ、當年ノ氣運ヲ占ハンコトヲ請フ、乃チ筮シテ同人ノ第三爻ヲ得タリ・・・
 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占例の現代語訳。
(占例)明治二十四年、ある貴人がやって来て、今年の運氣を占ってほしいと請うので、占筮したところ、同人の三爻が出た。
 易斷は次のような判断であった。
 天下の大衆と志を同じくして、事を為し遂げるがゆえに同人と云う。世間には智者が少なくて愚者が多いのは、今も昔も変わらない。それゆえ、現代人は往々にして、多くの人々と志を同じくすることを称して、公議世論と云う。多くの人々と志を同じくすることは、広く天下の同志を集めて話し合った結果導き出されたものである。
 このことを卦辞・彖辞に「人に同じくするに野(や)においてす。亨(とお)る。同人は人と志を同じくする時。天(乾)と太陽(離)が天の道を同じくするように、広く天下の同志を集めて和合する。それゆえ、すらっと通る」と云う。
 三爻は「野(や)においてす。亨(とお)る。広く天下の同志を集めて和合する。それゆえ、すらっと通る」ことを知らずに、蒙昧な自説を主張して、大衆を扇動し、世論に火を付けようとしている。だが、そのような蒙昧な説は実現できないので「三歳まで興(おこ)らず。何年経っても兵を興(おこ)すことはできない」と云う。
 よって、「事を為し遂げることは断念すべきである」と易断した。
 その後、はたして、易断の通りとなった。

同人 九四 ||| |・|

九四。乘其墉。弗克攻。吉。
□九四。其の墉(かき)に乗(のぼ)る。攻(せ)むる克(あた)わず。吉。
 六二と志を通じようと欲して、九五を討つべく城の垣根に登って形勢を窺う。九五の権勢は強く、とても勝ち目がないことを覚る。己の分を知り、不義を恥じて改心(之卦)すれば禍転じて福となす。
象曰、乘其墉、義弗克也。其吉、則困而反則也。
□其の墉(かき)に乗(のぼ)るは、義、克(あた)わざる也。其の吉なるは、則ち困(くる)しみて則(のり)に反(かえ)れば也。
 城の垣根に登って形勢を窺う。大義に欠けているので勝ち目はない。
 不義を恥じて改心すれば禍転じて福となす。不義の自分を心から恥じて悶々と苦しみ、正しい道に復(かえ)るのである。

 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての原文の一部。
(占)此爻ヲ得ルトキハ外ニ希望スル事アリ、思慮ヲ勞スト雖モ、已ニ外人ノ有ニ歸スルノ時トス、今其不可ナルヲ悟リ、斷然其志ヲ改メバ、悔ヒテ吉ヲ得ベシ、・・・
 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての現代語訳。
(占)今やっていることの他に希望していることがあって、どうすればよいか、いろいろと考えるが、すでに他の人に先を越されている時である。今は自分が希望していることを行なうことはできないと悟り反省して、自分の志を転換させれば、吉運を招き寄せる。
○高い所に登って大衆を指導する時。
○事を成し遂げることが難しいことを悟って中止する。
○諺に云う「骨折り損のくたびれもうけ」という時である。

 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占例の原文の一部。
(占例)友人來リ告ゲテ曰ク、今一事業ノ起スベキアリ、因テ其吉凶成敗ヲ占ハンコトヲ請フト、乃チ筮シテ同人ノ第四爻ヲ得タリ・・・
 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占例の現代語訳。
(占例)友人がやって来て、次のように言った。
「今、一つの事業を立ち上げようと思っている。そこで、その事業の吉凶と成敗を占ってほしい」と。
 そこで占筮したところ、同人の四爻が出た。
 易斷は次のような判断であった。
 同人の卦は、天下の大衆が志を同じくして事を為し遂げようとする時。事業内容は公益に資するものである。権力と資金力を具えた九五と明智と聡明さを具えた六二が、陰陽相応じて事業を成し遂げる。
 九三と九四は、九五と六二の間に存在している。九五と六二の関係を羨ましく思って、九五と六二が取り組もうとしている事業を妨害して、九五に取って代わって六二に取り入ろうとする。
 今回、立ち上げようとしている事業を占って四爻が出た。
 あなたは誰かが取り組もうとしている事業を羨ましく思い、その事業を妨害して、その人から事業の権利を奪い取ろうと考えている。その人にはその善からぬ企みを隠し、自分に近い立場の九三と組んで、その人から事業の権利を奪い取ろうとしている。
 爻辞に「墉(かき)に乗(のぼ)る。六二と志を通じようと欲して、九五を討つべく城の垣根に登って形勢を窺う」とある。城の隙間に隠れて敵の様子を窺っている。高い所に居を構えて隠れて悪いことを企てている。
 そのような悪い企ては結局、成し遂げることはできない。今のうちにそのような悪い企ては捨ててしまうにこしたことはない。
 このことを「攻(せ)むる克(あた)わず。吉。九五の権勢は強く、とても勝ち目がないことを覚る。己の分を知り、不義を恥じて改心(之卦)すれば禍転じて福となす」と云う。
 諺に云う「骨折り損のくたびれもうけ」というような時である。所詮うまくいかないことを実行しようとして、苦労するだけである。
 このことを象伝に「則(すなわ)ち困(くる)しみて則(のり)に反(かえ)ればなり。不義の自分を心から恥じて悶々と苦しみ、正しい道に復(かえ)るのである」と云う。
 その後、伝え聞くところ、易断の通りになったと云う。

同人 九五 ||| |・|

九五。同人、先號咷而後笑。大師克相遇。
□九五。人に同じくするに、先(さき)には號(ごう)咷(とう)して後(のち)には笑う。大(たい)師(し)克(か)ちて相(あい)遇(あ)う。
 正応六二と同人しようとする。九三・九四に邪魔され、始めは悲しみ泣き叫ぶ。終には喜び笑うに至る(六二と和合する)。大軍を率いれば強敵を寄せ付けない。
象曰、同人之先、以中直也、大師相遇、言相克也。
□同人の先(さき)は、中(ちゆう)直(ちよく)なるを以て也、大(たい)師(し)相(あい)遇(あ)うとは、相(あい)克(か)つを言う也。
 終には喜び笑うに至る(六二と和合する)。九五が剛健中正で素直だからである。
 大軍を率いれば強敵を寄せ付けない。強敵を打ち破って和合する。

 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての原文の一部。
(占)此爻我ニ妨害スルモノアリテ、久シク其志ヲ伸ブルヲ得ザリシガ、今ヤ漸ク其害ヲ排除シ、宿志ヲ達シテ、相喜ブノ時ニ遇フナリ、・・・
 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての現代語訳。
(占)最初は、自分を妨害する人がいて、しばらくは志を成し遂げることができない。今ようやく時運が到来した。妨害を排除して、同志と共に志を成し遂げることができる。大いに喜び合う時。
○寛大で余裕がある。大衆に望まれる時である。
○大きな事業を立ち上げて、最初は幾多の困難に遭遇するが、終には事を成し遂げて名誉を得る。
○朋友が志を同じくして、資産を融通し合い、利益を分かち合う時。
○信頼できる朋友と再会して、久しぶりに談笑し、お互いに喜び合う時である。

 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占例の原文の一部。
(占例)明治二十五年三月、駿州興津ニ漫遊中、新聞紙ヲ閲シテ、北海道炭礦鐵道會社堀基祉氏ノ免職ヲ知リ、余ハ評議員ナルヲ以テ、(中略)同役諸氏豫メ余ガ諾否ヲ問フ、是ニ於テ自ラ之ヲ筮スレバ、同人ノ第五爻ヲ得タリ・・・
 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占例の現代語訳。
(占例)明治二十五年三月、静岡県興津に旅行していた時、新聞記事で、北海道炭鉱鉄道会社の社長堀(ほり)基(もと)氏が免職した。
 わたしはこの会社の評議員なので、急遽帰京して同じく評議員の渋沢栄一、湯地定基(ゆじさだもと)、田中平八諸氏などと共に、会社のために数回協議を重ねた結果、評議員の中から次期社長を選出すべきという結論となり、湯地氏かわたしのいずれかが社長になるべきだという意見でまとまった。
 そこで、社長就任を受けるべきか断るべきかと占筮したところ、同人の五爻が出た。
 易斷は次のような判断であった。
 同人の卦は、六二の陰爻が時と中正の徳を得て、上下五つの陽爻がこれに応ずる時である。もし、わたしが社長に就任することを承諾したならば、九五の政府、九三の北海道長官、九四の大臣、初九の社員、上九の株主、誰も異議を唱える者はいない。六二であるわたしを愛してくれることは間違いない。
 社長としての仕事がやりやすい環境が揃っている。このことを彖伝に「同人は、柔、位を得、中を得て乾に応ずるを、同人と曰う。柔順中正な六二が、剛健中正な九五を通じて周く天下の人々と志を同じくするから「同人」と言う」と云う。
 社長に就任した暁(あかつき)には、大平原の広野には何も隠すことができないように、公明正大に対処すべきである。このことを卦辞・彖辞に「野においてす。亨る。広く天下の同志を集めて和合する。それゆえ、すらっと通る」と云う。単に公明正大であるだけではなく、会社内に善からぬ行為があったとしても、これを排除することなく、大らかな仁の心で包み込むようにして諭すべきである。
 このことをまた卦辞・彖辞に「野においてす。亨る」と表現している。
 不肖のわたしだが、この会社の評議員としての経験が数年間あるので、この経験を活かしてこの会社の保有している資本力と政府からの支援を強みとして伸ばしていけば、わたし自身が公明正大さと無私を守り通して、社長としての責任を全うすることができる。
 このことを「文明にして以て健中正にして応ず、君子の正しきなり。内(離)に文明の德、外(乾)は剛健の性質、六二と九五が共に中正で広く天下の人々と応じている。中正の道を以て相応ずるのが、君子の正しい道である」と云う。
 この会社の事業は人口が少ない地方で行なわれ、沢山の労働力が必要となるので、人間関係におけるトラブルは避けられない。
 時勢を見ると世論も厳しい。だが、諺に「一功能く百論を服す(ひとつの成功は、沢山の議論や批判の中から生まれる)」というように、さまざまな情報をよく整理してわかりやすく示せば、厳しい世論もだんだん好意的に変わっていく。
 彖伝に「君子のみ能く天下の志を通ずと為す。君子だけが、天下の民と志を通じて、大同団結できるのである」とある。
 社長在任中には、徐々に経営を改革していかなければならない。最初は九三と九四の二爻が邪魔して妨害するが、「野においてす。広く天下の同志を集めて和合する」であるように、公平無私を貫けば妨害を取り払うことができる。よって、わたしが熟慮して作成した経営計画は、予定通りに経営目的を達成することができる。
 このことを「先(さき)には號(ごう)咷(とう)して後(のち)には笑う。大(たい)師(し)克(か)ちて相(あい)遇(あ)う。九三・九四に邪魔され、始めは悲しみ泣き叫ぶ。終には喜び笑うに至る(六二と和合する)。大軍を率いれば強敵を寄せ付けない」と云う。
 わたしは、以上の易断によって、社長に就任することを承諾した。
 その後、易断の通り、社長在任中の五百四十日間で会社を軌道に乗せ、世間からも信頼される会社となり株価は倍増した。このような結果が出せたのは、公平無私という道徳的な経営を貫くことができたからである。
 世間では、どうして、仁を成し遂げれば富有にはなれない、などと云うのであろうか。道徳と経済は両立させることができる。
 目先の利益しか見えない人は猛省すべきである。

同人 上九 ||| |・|

上九。同人于郊。无悔。
□上九。人に同じくするに郊においてす。悔い无し。
 人に遠く離れて利害の外に立ち、淡々とした境涯にある。何事にも執着せず、後悔することもない。
象曰、同人于郊、志未得也。
□人に同じくするに郊においてすとは、志未だ得ざる也。
 淡々とした境涯にある。何事にも執着しないので、志を得られずとも後悔しない。

 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての原文の一部。
(占)此爻ヲ得ルトキハ、無事閑散ニシテ、求ル所ナク塵土ノ外ニ超然タルベシ、無事ニ苦ミテ妄ニ事ヲ成サント欲スルハ不可ナリ、・・・
 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占いの見立ての現代語訳。
(占)無事に何事もない(暇な)時だから、何も求めることなく、超然として過ごすがよい。何事もないことを退屈だと思って、妄りに事を為そうと欲しても無駄である。
○世間の苦労から遠ざかり、毀誉褒貶と無縁の時である。
○静かな土地にしっとりと暮らして、何事もない時である。
○朋友と疎遠になる。
○世事に疎(うと)くて人に欺(だま)されやすい。
☆この爻を帰魂とする。寿命を占ってこの卦が出た時には、上爻に至る時に死亡する。

 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占例の原文の一部。
(占例)余ガ相識ナル會社ノ役員某氏來リ告テ曰ク、近來我ガ會社の頭取ト大株主トノ間ニ紛紜ヲ生ジ、株主ハ總會ヲ開キテ、社員ヲ改選セントシ、又一派ハ當時ノ社員ヲ賛成スルモノアリテ、競争頗ル甚シ、余モ亦何時免職セラルルヤヲ知ラズ、爲メニ前途ノ運氣ヲ占ハンコトヲ請フト、乃チ筮シテ同人ノ上爻ヲ得タリ・・・
 以下、高島嘉右衛門著高島易斷の占例の現代語訳。
(占例)ある会社の役員・某氏がやって来て、次のように言った。
「最近、わたしの会社の頭取と大株主との間に紛争が生じた。株主は総会を開いて役員を改選しようとして、社員の中にも株主と同調する者もいて、どういう展開になるのか不明である。わたしも免職させられるかも知れない。わたしと会社の前途を占ってほしい」。
 そこで占筮したところ、同人の上爻が出た。
 易斷は次のような判断であった。
 同人は人と志を同じくする時だから、役員も株主も会社を善くしようとする目的で一致するはずである。誰もが会社の利益を考えており、私利私欲だけで動いているのではない。ただ、その方向性が違うので、紛争が生じたのである。
 その紛争の原因は、九五の頭取と六二の支配人とが親密過ぎることを誤解して、大株主が疑いを抱いたのである。だが、その疑いは遠からず解消する。
 あなたは、そのどちらにも与(くみ)していない。紛争には直接関係していないのだから、免職される心配はない。だから、「郊においてす。悔いなし。利害の外に立ち、淡々とした境涯にある。何事にも執着せず、後悔することもない」と云う。
 郊とは、田舎(比喩)ということ。市街地のような煩雑な所から離れたところである。
 その後、果たして、易断のように展開した。