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陰陽古事記伝 根之堅州国訪問 その二

□あらすじ
 大国主が蘇生したことを知った兄神たちは、再び謀略を企てて大国主を殺した。再び蘇生した大国主だが、兄神たちは大国主殺害を諦めない。そこで、大国主は六代前の先祖である須佐之男が支配している根(ねの)堅(かた)州(す)国(くに)で修行して兄神たちを退治する力を身に付けることにした。根(ねの)堅(かた)州(す)国(くに)では生涯のパートナー(伴侶)となる須佐之男の娘・須世理毘賣(すせりびめ)と出逢うことになる。

【書き下し文】
是(ここ)に八(や)十(そ)神(かみ)見て、また、欺(あざむ)き山に率(い)て入(い)りて、大(おお)き樹(き)を切り伏(ふ)せ、矢を茹(は)めて其(そ)の木に打ち立て、其(そ)の中に入(はい)らしめて、即(すなわ)ち其(そ)の氷目矢(ひめや)を打ち離ちて拷(う)ち殺しき。爾(しか)くして、また其の御(み)祖(おや)の命(みこと)、哭(な)き乍(なが)ら求(もと)めしかば見ることを得て、即(すなわ)ち其(そ)の木を拆(さ)きて取り出し活(いか)して、其(そ)の子に告(つ)げて、「汝(な)は此間(ここ)に有(あ)らば、遂(つい)に八(や)十(そ)神(かみ)の滅(ほろぼ)す所(ところ)と爲(な)らん」と言(い)いて、乃(すなわ)ち木の國の大(おお)屋(や)毘古(びこ)の神の御(み)所(もと)に違(たが)え遣(や)りき。爾(しか)くして八(や)十(そ)神(かみ)覓(もと)め追い臻(いた)りて矢刺(さ)して乞(こ)う時に、木の俣(また)より漏(く)け逃がして、「須佐能男(すさのを)の命(みこと)の坐(いま)せる根(ねの)堅(がた)州(す)國(くに)に參(ま)い向うべし。必ず其(そ)の大神(おおかみ)、議(はか)らん」と云(い)いき。故(かれ)、詔命(みことのり)の隨(まにま)に須佐之男の命の御(み)所(もと)に參(ま)い到(いた)りしかば、其(そ)の女(むすめ)、須勢理毘賣(すせりびめ)出(い)で見て、目合(まぐあい)爲(し)て相(あ)い婚(あ)いき。還(かえ)り入(い)りて其(そ)の父に白(まを)して、「甚(いと)麗(うるわ)しき神來(き)たり」と言(まを)しき。爾(しか)くして其(そ)の大神(おおかみ)、出(い)で見て、「此(これ)は葦(あし)原(はら)色(し)許(こ)男(お)と謂(い)うぞ」と告(の)りたまひき。即(すなわ)ち喚(め)し入れて其(そ)の蛇(へみ)の室(むろ)に寢(い)ねしめき。是(ここ)に其(そ)の妻(め)、須(す)勢(せ)理(り)毘(び)賣(めの)命(みこと)、蛇(へみ)のひれを以(も)ちて其(そ)の夫(お)に授(さず)けて、「其(そ)の蛇(へみ)、咋(く)わんとせば、此(こ)のひれを以(も)ちて三(み)たび擧(ふ)りて打ち撥(はら)え」と云(の)りたまひき。故(かれ)、敎(おし)えの如(ごと)くせしかば、蛇(へみ)、自(おの)ずから靜まりき。故(かれ)、平(たいら)けく寢(い)ねて出(い)でき。また、來(こ)し日の夜は呉公(むかで)と蜂(はち)の室(むろ)に入(い)りき。また、呉(むか)公(で)と蜂(はち)のひれを授(さず)けて敎(おし)うること先(さき)の如(ごと)し。故(かれ)、平(やす)く出(い)でき。また、鳴鏑(なりかぶら)を大(おお)き野(の)の中に射(い)入れて、其(そ)の矢を採(と)らしむ。故(かれ)、其(そ)の野(の)に入(い)りし時に、即(すなわ)ち火を以(もち)ちて其(そ)の野(の)を迴(めぐ)り燒(や)きき。是(ここ)に出(い)でる所を知らざる間(ま)に、鼠(ねずみ)、來(き)て云(い)ひしく、「内はほらほら、外はすぶすぶ」と、如此(かく)言(い)ひき。故(かれ)、其(そ)處(こ)を蹈(ふ)みしかば、落ちて隱(こも)り入りし間(あいだ)に、火は燒(も)え過(す)ぎき。爾(しか)くして其(そ)の鼠(ねずみ)、其(そ)の鳴鏑(なりかぶら)を咋(く)い持ちて出(い)で來て奉(たてまつ)りき。其(そ)の矢(やの)羽(ば)は其(そ)の鼠(ねずみ)の子等(こら)、皆な喫(わら)えり。

〇通釈
 殺したはずの大(おお)穴(な)牟(む)遲(ぢ)の神がまだ生きていて、しかも以前よりも元氣にしている姿を見た八十神は、再び大(おお)穴(な)牟(む)遲(ぢ)の神を殺すための謀(ぼう)略(りやく)を企(くわだ)てた。そして、大(おお)穴(な)牟(む)遲(ぢ)の神を山に連れて行き、大木を切り倒して切り込みを入れ、切り口の割れ目に楔(くさび)を打ち込んでから、大(おお)穴(な)牟(む)遲(ぢ)の神をその割れ目に無理矢理入らせて、楔(くさび)を勢いよく引き抜いて、大(おお)穴(な)牟(む)遲(ぢ)の神を半分に割った大木の間に挟(はさ)んで殺してしまったのである。
 すると、再び大(おお)穴(な)牟(む)遲(ぢ)の神が殺されたことを伝え聞いた母神が泣きながら探し歩いて、大木の間に挟(はさ)み殺されている大(おお)穴(な)牟(む)遲(ぢ)の神を見つけて助け出し、自分の力で生きかえらせた。母神はわが子に「おまえがこの国にいる限り八十神たちはお前を見つけ出して、また、殺そうとするでしょう。このまま、この国にいると、いつかは見つかって、殺されてしまいます。」と話し聞かせて、八十神たちの目から逃れるために、すぐに木の国(和歌山県)の大(おお)屋(や)毘古(びこ)の神の所に遣(つか)わせたのである。
 ところが、八十神たちはその話を伝え聞き、またしても木の国(和歌山県)に現れ、大屋毘古(おおやびこ)の神に弓を引いて大穴牟遲(おおなむぢ)の神を引き渡すように迫(せま)った。すると、大(おお)屋(や)毘古(びこ)の神は八十神たちから隠すように木の俣から大穴牟遲(おおなむぢ)の神をこっそりと逃がして、「須佐能男(すさのを)の命(みこと)のいらっしゃる根(ねの)堅州國(かたすくに)に行きなさい。須佐能男(すさのを)の大神(おおかみ)が必ずよく取り計らってくれるでしょう。」と言った。
 大(おお)屋(や)毘(び)古(こ)の神に言われた通りに、須佐之男の命の所に辿り着くと、須佐之男の娘の須勢理毘賣(すせりびめ)が出てきて大(おお)穴(な)牟(む)遲(ぢ)の神を一目見て心をときめかせた。大(おお)穴(な)牟(む)遲(ぢ)の神もまた、須勢理毘賣(すせりびめ)を一目見て心をときめかせた。互いに見つめ合ってまぐあいを(結婚)したのである。須勢理毘賣(すせりびめ)は大(おお)穴(な)牟(む)遲(ぢ)の神を須佐能男(すさのを)の大神(おおかみ)の屋敷に連れて行って「とっても麗(うるわ)しい(魅力的な)神様をお連れしたわ。」と紹介したところ、大神(おおかみ)がお出ましになり、大(おお)穴(な)牟(む)遲(ぢ)の神を見て、「これは葦(あし)原(はら)色(し)許(こ)男(お)(強さが未完成の男)という名前の神様だ。」と言って、御殿の中に案内して、蛇が沢山居る部屋を寝室としてあてがった。
 すると、大(おお)穴(な)牟(む)遲(ぢ)の神の妻となった須勢理毘賣(すせりびめ)が、蛇のひれを蛇が沢山居る寝室に持って来て、夫である大(おお)穴(な)牟(む)遲(ぢ)の神にこっそりと渡し、蛇に襲われないための方法を次のように教えた。「蛇が貴方を噛もうとしたら、このひれを持って三回振ってください。そうすれば、簡単に蛇を打ち払うことができます。」。
 大(おお)穴(な)牟(む)遲(ぢ)の神が、須勢理毘賣(すせりびめ)に教えられた通りにしたところ、蛇は静かになったので、大(おお)穴(な)牟(む)遲(ぢ)の神はぐっすりと眠ることができた。また、次の日の夜は、ムカデと蜂が沢山居る部屋を寝室としてあてがわれた。すると、昨夜と同じように、須勢理毘賣(すせりびめ)がムカデと蜂のひれを寝室にこっそりと持って来て、蛇の時と同じようにムカデと蜂に襲われないための方法を教えてくれたので、大(おお)穴(な)牟(む)遲(ぢ)の神はぐっすりと眠ることができた。
 須勢理毘賣(すせりびめ)の力を借りて、二つの試練を乗り越えた大(おお)穴(な)牟(む)遲(ぢ)の神であるが、須佐能男(すさのを)の大神(おおかみ)は、さらに厳しい試練を与えた。今度は、鳴鏑(なりかぶら)(鏑(かぶら)の付いた矢)を広い野原の中に射て、その矢を取ってこいと命じたのである。大(おお)穴(な)牟(む)遲(ぢ)の神がその矢を取ってこようと、広い野原の中に入ったところ、須佐能男(すさのを)の大神(おおかみ)は野原に火を付けた。火が野原を焼き尽くそうとして逃げ場を失った大(おお)穴(な)牟(む)遲(ぢ)の神が、困窮した時に、ネズミがやって来て、「内はほらほら(うつろ)、外はすぶすぶ(スカスカ)」と言った。それを聞いてピンときた大(おお)穴(な)牟(む)遲(ぢ)が野原の土をドンと踏むと、穴が開いて土の中に落ちた。そこでうずくまっていると、野原を焼き尽くそうとしている勢いの火が通り過ぎていったので、大(おお)穴(な)牟(む)遲(ぢ)は命をつなぎ止めた。そのネズミは、須佐能男(すさのを)の大神(おおかみ)が射た鳴鏑(なりかぶら)(鏑(かぶら)の付いた矢)をくわえて持って来て大(おお)穴(な)牟(む)遲(ぢ)に献上した。ところが、その矢の羽は全てネズミたちが食べてしまったのである。そのやりとりを聞いていた周りのネズミたちはみんな笑っていた。