Ⅰ 第一章 ある文明の幻影
以後、名著「逝きし世の面影」から章毎に、幕末から明治初期にかけて日本を訪れた外国人が遺した言葉を抜粋して、箇条書き風に取り上げていく。
英国の商人クロウが明治十四年に木曽御嶽に登って、かつて人の手によって乱されたことのない天外の美に感銘を受けるとともに、将来いつか、鉄道が観光客を運び巨大なホテルが建つような変貌がこの地を襲うだろうことを思って嘆息した(日本内陸紀行 雄松堂出版・一九八四年)。(P12)
クロウは木曾の山中で忘れられぬ光景を見た。村人は「炎天下の労働を終え、子供連れで、ただ一本の通りで世間話にふけり、夕涼みを楽しんでいるところ」だった。
道の真ん中を澄んだ小川が音をたてて流れ、しつらえられた洗い場へ娘たちが「あとからあとから木の桶を持って走って行く。その水を汲んで夕方の浴槽を満たすのである」。「この小さな社会の、一見してわかる人づき合いのよさと幸せな様子」を見てクロウは感動した。(P13)
