毎日連載! 易経や易占いに関する情報を毎日アップしています。

時の物語(易経短編小説集・近日中に出版予定)17

十六.側近が牛耳る時

 次は「側近が牛耳る時」の物語である。トップが御(お)神(み)輿(こし)に乗って側近が牛耳っている姿は小は家庭から大は国家まで、あらゆる組織でよく見られることである。
 家庭におけるトップが夫なら側近は妻である。学校におけるトップが好調なら側近は教頭である。自治会におけるトップが会長なら側近は副会長である。業界団体におけるトップが理事長なら側近は専務理事である。会社におけるトップが代表取締役社長なら側近は専務取締役である。市町村におけるトップが村長・町長・市長なら側近は副村長・副町長・副市長である。都道府県におけるトップが知事なら側近は副知事である。国家におけるトップが総理大臣なら側近は官房長官乃至(ないし)は与党幹事長である。昔、実権を握っていた与党幹事長が「神輿は軽い方がよい」と軽口を叩いていたが、小は家庭から大は国家までトップを御(お)神(み)輿(こし)に乗せて側近が牛耳っている組織は少なからず存在する。いやいやトップはお飾りで側近が動かしている組織の方が多いのかもしれない。
 組織を動かしている側近は例外なく実力者か権力者である。実力や権力があるから組織を動かすことができるのである。しかし、側近はあくまでもナンバーツーであってナンバーワンではない。本来組織はナンバーワンが統治するべきものであり、ナンバーツーはナンバーワンを補佐することが役割である。
 トップを補佐する役割の側近が組織を動かす場合には、常に側近にトップを補佐するという気持ちがなければならない。側近にトップを補佐しているという気持ちがあれば、側近が組織を動かしていても問題は起こらない。だが、側近がトップを蔑ろにしてトップのように振る舞うようになれば組織内部に様々な問題が起こる。外部からはよく治まっているように見えても内部では問題が山積している。それが「側近が牛耳る時」である。

 「側近が牛耳る時」の主人公は「七.敵と戦う時」と「八.一つにまとまる時」に登場した「菓子製造卸販売業」のライバル企業「魔の洋菓子」に在籍している生え抜きの実力者である専務取締役の「あなた(わたし)」である。

 わたしは洋菓子製造卸販売業の「魔の洋菓子」で専務取締役を務めている。昔から洋菓子が大好きで三十年前「魔の洋菓子」の前身である「美味しい洋菓子」に入社して以来仕事一筋の人生を歩んできた。お陰様で社長に功績を認められて専務取締役という過分な役職を頂き、社長の側近として全力を尽くしている。「魔のシュークリーム」を販売して以来全国的に有名になった菓子製造卸販売業に対抗して、企業名を「美味しい洋菓子」から「魔の洋菓子」に改名し「魔」のシリーズを展開することを提案したのはわたしである。「魔のイチゴショート」「魔のチーズケーキ」「魔のモンブラン」「魔のバームクーヘン」「魔のプリン」などのヒット商品を企画して、「魔の洋菓子」を一躍有名にしたのもわたしである。以下省略。