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四季と易経 その五十五

蒙霧升降(もうむしようごう)(七十二候の三十九候・立秋の末候)

【新暦八月十七日ころから二十二日ころまで】
 意味は「深い霧が立ちこめる(絵で楽しむ)」である。
 「絵で楽しむ」には次のように書いてある。
 日中の残暑は相変わらずですが、早朝の山野や水辺ではひんやりとした白い霧の衣をまとうころ。「蒙(もう)霧(む)」とは、もうもうと立ちこめる霧のことをいいます。

 「蒙霧升降(もうむしようごう)」は、易経・陰陽消長卦の「天山遯」上九に中る。次に「天山遯」上九の文章(爻辞と小象伝)を示す。
 「天山遯」上九の言葉は【新暦八月十七日ころから二十二日ころまで】に当て嵌まる。

天山遯上九(易経・陰陽消長卦)

《爻辞》
上九。肥遯。无不利。
○上九。肥(ゆた)かに遯(のが)る。利(よろ)しからざる无(な)し。
 上九は剛健で遯の極点・上卦乾の最上に居(お)り、超然と逍(しよう)遙(よう)自(じ)適(てき)している。応比なく何の柵(しがらみ)もないので、悠然と隠遁することができる。宜しくないことは何一つない。
象曰、肥遯、无不利、无所疑也。

《小象伝》
○象に曰く、肥(ゆた)かに遯(のが)る、利(よろ)しからざる无(な)しとは、疑う所无(な)き也。
 小象伝は次のように言っている。上九が悠然と隠遁して宜しくないことは何一つないのは、何の柵(しがらみ)もないので、疑い憂(うれ)えることがないからである。

 「天山遯」上九の之卦は「澤山咸」である。次に「澤山咸」の全体像を表す言葉(卦辞・彖辞、彖伝、大象伝)と「澤山咸」上六の言葉(爻辞、小象伝)を示す。これらの言葉は「天山遯」の上九と同じく【新暦八月十七日ころから二十二日ころまで】に当て嵌まる。

澤山咸(天山遯上九の之卦)

《卦辞・彖辞》
咸、亨。利貞。取女吉。
○咸は亨(とお)る。貞(ただ)しきに利(よろ)し。女(じよ)を取(めと)れば吉。
 咸(かん)は感ずる(心が動く)時。若い男女が相(あい)感(かん)応(おう)する時である。下卦艮(少男)が止(とど)まりどっしりと構えて、上卦兌(少女)が喜んで感応する。それゆえ、何事もすらっと通る。
 若い男(少男)も若い女(少女)もお互いに正しく感応するから宜しきを得る。
 若い男が若い女を娶(めと)れば共に夫婦の道を歩むことになる。

《彖伝》
彖曰、咸感也。柔上而剛下、二氣感應以相與、止而説、男下女。是以亨、利貞、取女吉也。天地感而萬物化生、聖人感人心、而天下和平。觀其所感、而天地萬物之情可見矣。
○彖に曰く、咸は感ずる也。柔上(のぼ)りて剛下り、二(に)氣(き)感(かん)應(おう)して以(もつ)て相(あい)與(くみ)し、止(とど)まりて説(よろこ)び、男、女に下(くだ)る。是(ここ)を以て亨(とお)り、貞(ただ)しきに利(よろ)しく、女(じよ)を取(めと)れば吉なる也。天地感じて萬(ばん)物(ぶつ)化(か)生(せい)し、聖人、人心を感じて、天下和平なり。其(そ)の感ずる所を觀(み)て、天地萬物の情見る可(べ)し。
 彖伝は次のように言っている。咸は感動・感応・感通の道を説いている。少男(剛)が少女(柔)に謙(へりくだ)って下に居り(下卦艮)どっしりと止まっているので、少女(柔)は上に居て(上卦兌)喜んで順い、陰陽二氣感応・感通する。下卦艮は正しく止(とど)まり上卦兌は喜んで応じ、少女は少男を受け容れる。それゆえ何事もすらっと通り、お互い正しく感応するから宜しきを得て、若い男が若い女を娶(めと)れば夫婦の道を歩むことになる。
 天地の道について云えば、天地が感応するから萬(ばん)物(ぶつ)は生成発展するのである。人の道について云えば、至誠の聖人(を理想とする大人君子たる天子・君主・トップ)に民(みん)心(しん)が感応するから天下泰平となるのである。それら(天地の道・人の道)の感応の在り方を観察して、天地萬物の情理(天地の理法と萬物の心情)を推察すべきである。

《大象伝》
象曰、山上有澤咸。君子以虚受人。
○象に曰く、山(さん)上(じよう)に澤(さわ)有るは咸(かん)なり。君子以(もつ)て虚(きよ)にして人を受(う)く。
 大象伝は次のように言っている。山(艮)の上に澤(兌)が在(あ)り、澤の水が山頂から山中に滲(し)み渡って山全体が潤(うるお)っているのが咸(かん)の形である。
 君子はこの形を見習って、己を虚(むな)しくして、澤の水が山頂から山中に滲(し)み渡って山全体が潤(うるお)うように天下萬(ばん)民(みん)の言葉や行動を受け止めるのである。

澤山咸上六(天風姤上九の之卦・爻辞)

《爻辞》
上六。咸其輔頬舌。
○上六。其(そ)の輔(ほ)頬(きよう)舌(ぜつ)に咸(かん)ず。
 上六は陰柔不中で我(が)が強い佞(ねい)人(じん)(上卦兌)である。正応九三も我が強い(下卦艮には頑固と云う性質がある)ので佞(ねい)人(じん)上六を疎(うと)んじて六二に親しむ。輔(ほ)は頬(ほお)骨(ぼね)、頬は「ほお」、舌は「した」、言葉を発する器官である。上六は上卦兌(悦)の主爻で咸の卦極に居(い)るから、感じるままに言葉を発して、口先ばかりで誠意がないのである。

《小象伝》
象曰、咸其輔頬舌、滕口説也。
○象に曰く、其(そ)の輔(ほ)頬(きよう)舌(ぜつ)に咸ずとは、口(こう)説(ぜつ)を滕(あ)ぐる也。
 小象伝は次のように言っている。上六は上卦兌(悦)の主爻で咸の卦極に居(い)るから、感じるままに言葉を発して口先ばかりで誠意がない。佞(ねい)言(げん)で人を言いくるめようとする小(しよう)人(じん)(器量が小さく心が浅く口先ばかり達者で軽薄な佞(ねい)人(じん))の醜(しゆう)態(たい)である。