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四季と易経 その五十二

大雨時行(たいうときどきにふる)(七十二候の三十六候・大暑の末候)

【新暦八月二日ころから六日ころまで】
 意味は「大雨が時々降る(絵で楽しむ)」である。
 「絵で楽しむ」には次のように書いてある。
 ときおり大雨が降りやすい時季。とくに台風や集中豪雨、夕立などの激しい雨になりやすいもの。滝の水のように豪快な雨を「滝落とし」、弾丸のような大粒な雨を「鉄砲雨」、真っ白に煙るように降る夕立を「白(はく)雨(う)」などといいます。

 「大雨時行(たいうときどきにふる)」は、易経・陰陽消長卦の「天山遯」九三に中る。次に「天山遯」九三の文章(爻辞と小象伝)を示す。
 「天山遯」九三の言葉は【新暦八月二日ころから六日ころまで】に当て嵌まる。

天山遯九三(易経・陰陽消長卦)

《爻辞》
九三。繋遯。有疾厲。臣畜妾吉。
○九三。遯(とん)を繋(つな)ぐ。疾(やまい)有り。厲(あやう)し。臣(しん)妾(しよう)を畜(やしな)えば吉(きつ)。
 剛健正位の九三は一緒に隠遁すべき正応上九に見向かれない(共に陽な)ので、陽剛相親しむ六二の小人に後ろ髪を引かれる。遁れ去るべきなのに遁れ去れないのは病気に罹ったようなものだが、其(そ)の位(くらい)に恋(れん)々(れん)とする己の心を後ろ髪を引かれると称して誤魔化している。実に危ない状況に置かれている。小人に後ろ髪を引かれるような恩情で下男下女を相手にしつつ、近づけることなく、遠ざけることなく、適当な距離を置いて接する限りにおいては、小人の害悪を受けることなく、うまく事が運ぶことができるであろう。

《小象伝》
象曰、繋遯之厲、有疾憊也。畜臣妾吉、不可大事也。
○象に曰く、繋(けい)遯(とん)の厲(あやう)きは、疾(やまい)有りて憊(つか)るる也(なり)。臣(しん)妾(しよう)を畜(やしな)えば吉とは、大事に可(か)ならざる也(なり)。
 小象伝は次のように言っている。九三が危ない立場にあるのは、六二の小人に後ろ髪を引かれると称して其(そ)の位(くらい)に恋々としている己の心を誤魔化しているうちに、隠遁を果(か)断(だん)決行する気力を失ってしまったからである。小人に後ろ髪を引かれるような恩情で下男下女を相手にしつつ、近づけることなく、遠ざけることなく、適当な距離を置いて接する限りにおいては、小人の害悪を受けることなく、うまく事が運ぶことができるかもしれないが、大事業を成し遂げることはできないのである。

 「天山遯」九三の之卦は「天地否」である。次に「天地否」の全体像を表す言葉(卦辞・彖辞、彖伝、大象伝)と「天地否」の六三の言葉(爻辞、小象伝)を示す。これらの言葉は「天山遯」の九三と同じく【新暦八月二日ころから六日ころまで】に当て嵌まる。

天地否(天山遯九三の之卦)

《卦辞・彖辞》
否之匪人。不利君子貞。大往小來。
○之(これ)を否(ふさ)ぐは人に匪(あら)ず。君子の貞(てい)に利(よろ)しからず。大往(ゆ)き小來(きた)る。
 否は上下君(くん)臣(しん)交わることなく閉塞する時。人間社会においては、あらゆる事象が閉塞する否の時は人の道に反することが横行闊歩する。君子が正しい道を固く守っても、この閉塞状態をどうすることもできない。
 天(君主・トップ)は上(外)に在り、地(臣下・臣民・民・部下)は下(内)に在る。天地陰陽(上下君臣・上司と部下・夫婦・親子等あらゆる関係)交わることなくあらゆる事象が閉(へい)塞(そく)するのである。

《彖伝》
彖曰、否之匪人、不利君子貞、大往小來、則是天地不交萬物不通也。上下孚交天下无邦也。内陰而外陽、内柔而外剛、内小人而外君子。小人道長、君子道消也。
○彖に曰く、之(これ)を否(ふさ)ぐは人に匪(あら)ず、君子の貞に利しからず、大往(ゆ)き小來(きた)るとは、則(すなわ)ち是(こ)れ天地交わらずして萬(ばん)物(ぶつ)通ぜざる也。上下交わらずして天下に邦(くに)无(な)き也。内は陰にして外は陽、内は柔にして外は剛、内は小人にして外は君子。小人の道長(ちよう)じ、君子の道消(しよう)する也。
 彖伝は次のように言っている。否は天地陰陽(上下君臣・上司と部下・夫婦・親子等あらゆる関係)交わることなく閉(へい)塞(そく)する時である。天地の氣が交わらない(陰陽結合による創造活動が行われない)ので萬(ばん)物(ぶつ)は生成化(か)育(いく)しないのである。
 上下君臣(政府と民衆・上司と部下・親と子)の意志が疎(そ)通(つう)しないので国家(を始めとするあらゆる組織)の体(てい)を成さない。
 内側(下卦)の陰氣が徐々に盛んになり、外側(上卦)の陽氣は徐々に衰退する。内面(下卦)は柔弱なのに外面(上卦)は剛健を装っている。小人が要職を独占して君子は閑(かん)職(しよく)に追いやられる。小人が跋(ばつ)扈(こ)して、君子の道は消滅する。

《大象伝》
象曰、天地不交否。君子以德儉辟難、不可榮以祿。
○象に曰く、天地交わらざるは否(ひ)なり。君子以(もつ)て德を儉(つづまやか)にし難(なん)を辟(さ)け、榮(えい)するに祿(ろく)を以(もつ)てす可(べ)からず。
 大象伝は次のように言っている。天地陰陽交わらず萬(ばん)物(ぶつ)は閉(へい)塞(そく)し、小人が跋(ばつ)扈(こ)して、世の中が乱れ崩壊に向っていくのが否の形である。
 君子はこの形に倣(なら)って、己の道德才能を上手に包み隠して、小人が招き寄せる災難に近付いてはならない。君子を禄(ろく)位(い)(富や名誉)で誘惑することはできないのである。

天地否六三(天山遯九三の之卦・爻辞)

《爻辞》
六三。包羞。
○六三。羞(はじ)を包(つつ)む。
 六三は才德乏しく悪の道を妄進する非(ひ)道(どう)の小人。世の中が乱れ崩壊に向っていく否中の否は去ったが、悪の道に耽溺して、いつも心の中で悪事を企んでいる。
 否の時の今は威勢がよくても、泰の時が到来すれば追放されるしかない。六三にできることは自分の不善を恥じて悪事を蔽(おお)い隠すことしかない。

《小象伝》
象曰、包羞、位不當也。
○象に曰く、羞を包むとは、位當らざれば也。
 小象伝は次のように言っている。六三にできることは自分の不善を恥じて悪事を蔽(おお)い隠すことしかない。才德乏しく妄進する非(ひ)道(どう)の小人(陰柔不中正)六三は、泰の時が到来したら就くべき地位がないのである。