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時の物語(易経短編小説集・近日中に出版予定)43

四十二.得して得する時

 国家に例えれば、一時は国が損して国民が得するが、最後は国も得する時。会社に例えれば、一時は役員が損して社員が得するが、最後は役員も得する時。家庭に例えれば、一時は親が損して子供が得するが、最後は親も得する時。あらゆる組織には上と下がある。下が厳しい時には上が頑張る。上が頑張れば下は喜ぶ。結果的に上も下も良くなる。それが「得して得する時」である。
 この時が成り立つためには、上は下のことを思いやり、下は上のことに感謝するという関係でなければならない。そうでなければ、上が損するだけである。

 「得して得する時」の主人公は、国民を信じて減税したら、国民が頑張って国も潤うことになった理想の総理大臣である「あなた(わたし)」である。
 (戦争に敗れて米国の属国と化した日本を取り戻すというスローガンを掲げて多くの国民の期待を背負い総理大臣に就任し日本政治史上最長の長期政権を担いながら、歪んだ世論に合わせて理想の政治を実行できないまま、最後は悲劇の死を迎えたA元総理をモデルにして、世論が健全ならば実現したであろう主権国家日本のあり方を夢物語として描いてみた。)

 わたしは著名な政治家の孫で、父もまた有名な政治家だったので、幼少期から周りの人々に将来は政治家になって祖父が果たせなかった本当の主権回復を実現することを期待される中で育った。自然と将来は政治家になるだろうと感じながら、社会に出て直ぐに政治家の道に進むことはせず、民間企業で社会勉強から始めることにした。入社したのは祖父の代からの支持者が経営する会社だったが、社長はわたしの素性を誰にも話さなかったので、わたしは普通の人間として社会人としての経験をすることができた。同僚や先輩・上司は普段は政治の話はほとんどしなかったが、仕事を終えお酒を飲む機会があると、今の政治への不満を話していた。ほとんどの人がGHQが敷いた路線に乗ってマスメディアや教育機関を通して喧伝された自虐史観を信じており、今の日本が米国に従属していることを仕方ないこととして受け容れており、これからも日本は米国に従属していくしかないと思っていた。しかし、中には独学で自虐史観を克服し、先人が築き上げた本来の日本の姿を取り戻さなければならないと考える人もいた。わたしの上司もその一人でわたしの面倒をよく見てくれた。やがて、わたしが政治の道に入るために会社を辞めることになった時、初めて社長はわたしの素性を社員の前で披露してくれた。何も知らなかった社員の方々は驚くと共にわたしを応援するぞと温かく送り出してくれた。以下省略。