毎日連載! 易経や易占いに関する情報を毎日アップしています。

陰陽古事記伝 黄泉の国 一

黄(よ)泉(みの)国(くに)

□あらすじ
 伊(い)邪(ざ)那(な)岐(き)の命(みこと)が黄泉の国に旅立った愛しい妻・伊(い)邪(ざ)那(な)美(み)の命を追いかけて黄泉の国を訪ねた。伊(い)邪(ざ)那(な)美(み)の命は腐乱しておぞましい姿に変わり果てていた。

【書き下し文】
是(ここ)に其(そ)の妹(いも)伊(い)邪(ざ)那(な)美(み)の命(みこと)を相(あい)見(み)むと欲(おも)ひて、黄(よ)泉(み)の國に追ひ往(ゆ)きき。爾(しか)くして殿(との)の騰(さし)戸(ど)より出(い)で向へし時、伊(い)邪(ざ)那(な)岐(き)の命(みこと)、語りて、「愛(うつく)しき我(あ)が那(な)邇(に)妹(も)の命(みこと)、吾(あ)と汝(な)と作れる國、未だ作り竟(おわ)らず。故(かれ)、還(かえ)る可(べ)し」と、詔(の)りたまひき。爾(しか)くして伊(い)邪(ざ)那(な)美(み)の命(みこと)答えて白(まを)さく、「悔(くや)しき哉(かな)。速(と)く來(こ)まさずて。吾(あ)は黄泉戸喫(よもつへぐい)しつ。然(しか)れども愛(うつく)しき我(あ)が那(な)勢(せ)の命(みこと)入(い)り來(き)坐(ま)せる事(こと)恐(かしこ)し。故(かれ)、還(かえ)らんと欲(おも)う。且(しまら)く黄泉(よもつ)神と相(あげ)論(つら)わん。我(あ)を視(み)ること莫(なか)れ」。かく白(まを)して、其(そ)の殿(との)内(うち)に還(かえ)り入(い)る間(あいだ)、甚(いと)久(ひさ)しくして待ち難(がた)し。故(かれ)、左の御(み)美(み)豆(づ)良(ら)に刺(さ)せる湯(ゆ)津(つ)津(つ)間(ま)櫛(くし)の男(お)柱(ばしら)一(ひと)箇(つ)を取り闕(か)きて、一(ひとつ)火(び)燭(とも)して入(い)り見し時に、うぢたかれころろきて、頭(かしら)には大(おを)雷(いかづち)居(を)り、胸には火(ほの)雷(いかづち)居(を)り、腹には黑(くろ)雷(いかづち)居(を)り、陰(ほと)には拆(さく)雷(いかづち)居(を)り、左手には若(わか)雷(いかづち)居(を)り、右手には土(つち)雷(いかづち)居(を)り、左足には鳴(なる)雷(いかづち)居(を)り、右足には伏(ふし)雷(いかづち)居(を)り、并(あわ)せて八(や)くさの雷(いかづち)の神、成(な)り居(を)りき。

〇通釈(超釈はない)
 伊(い)邪(ざ)那(な)岐(き)の命(みこと)は、どうしても伊(い)邪(ざ)那(な)美(み)の命(みこと)にもう一度逢いたいと思って、伊(い)邪(ざ)那(な)美(み)の命(みこと)が埋葬されている黄(よ)泉(み)の国に追いかけて行った。すると、伊(い)邪(ざ)那(な)美(み)の命(みこと)は黄(よ)泉(み)の国にある御殿の扉を一寸だけ開けて、伊(い)邪(ざ)那(な)岐(き)の命(みこと)を迎えた。その時、伊(い)邪(ざ)那(な)岐(き)の命(みこと)は、「心から愛している伊(い)邪(ざ)那(な)美(み)の命(みこと)よ。あなたと一緒に作った国はまだ完成していない。どうか、戻って来てほしい」とおっしゃった。
 すると伊(い)邪(ざ)那(な)美(み)の命(みこと)は次のようにお答えになった。「わたしはとても悔(くや)しく思います。どうして、もっと早く来てくださらなかったのですか。わたしはすでに黄泉の国のお食事を頂いてしまったので、もう戻ることはできないのです。けれども、折角愛しい貴方が訪ねて来てくださったのですから、可能であれば貴方と一緒に戻りたいと思います。しばらく、黄泉の国の神様と相談して参りますから、わたしが戻ってくるまで待っていてください。相談している間は、絶対にわたしの姿を見ないでください」。伊(い)邪(ざ)那(な)美(み)の命(みこと)は、以上のようにおっしゃって扉を閉めて、御殿の中に入っていかれた。
 ところが待てど暮らせど、御殿の扉は閉められたままで、一向に戻ってこない。伊(い)邪(ざ)那(な)岐(き)の命(みこと)は我慢できなくなって、左に束ねた輪状の髪に挿しておいた爪櫛の端を折って一つ火を灯して、御殿の中に入っていった。
 すると、伊(い)邪(ざ)那(な)美(み)の命(みこと)の身体は腐乱しており、蛆がたかってころころと音を立てていた。そして、頭にはおぞましい大(おを)雷(いかづち)が居(を)り、胸には火(ほの)雷(いかづち)が居(を)り、腹には黑(くろ)雷(いかづち)が居(を)り、陰(ほと)には拆(さく)雷(いかづち)が居(を)り、左手には若(わか)雷(いかづち)が居(を)り、右手には土(つち)雷(いかづち)が居(を)り、左足には鳴(なる)雷(いかづち)が居(を)り、右足には伏(ふし)雷(いかづち)が居(を)り、并(あわ)せて八(や)くさの雷(いかづち)の神が、腐乱した伊(い)邪(ざ)那(な)美(み)の命(みこと)の身体からわき出ていたのである。