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四季と易経 その三十七

紅花栄(べにばなさかう)(七十二候の二十三候・小満の次候)

【新暦五月二十六日ころから三十日ころまで】
 意味は「紅花が盛んに咲く(絵で楽しむ)」である。
 「絵で楽しむ」には次のように書いてある。
 古代エジプト時代から染料として利用されていた紅花。中国の呉を経て日本に伝来した藍(染料)であることから、「呉藍(くれのあい)」が転じて紅(くれない)に。

 「紅花栄(べにばなさかう)」は、易経・陰陽消長卦の「乾為天」九二に中る。次に「乾為天」九二の文章(爻辞と小象伝)を示す。
 「乾為天」九二の言葉は【新暦五月二十六日ころから三十日ころまで】に当て嵌まる。

乾為天九二(易経・陰陽消長卦)

《爻辞》
九二。見龍在田、利見大人。
○九(きゆう)二(じ)。見(けん)龍(りゆう)田(でん)に在り、大(たい)人(じん)を見るに利(よろ)し。
 九二は、潜んでいた龍が世(社会、現場、第一線)に現われる段階である。潜龍の段階で打ち立てた「確(かつ)乎(こ)不(ふ)抜(ばつ)の志」を実現するために、貴方を導いてくれる人生の師匠(大人)を捜し求めて、師匠から教えを請(こ)う時である。

《小象伝》
見龍在田、德施普也。
○見龍田に在りとは、德の施し普(あまね)き也。
 潜んでいた龍が世に現われる。貴方を導いてくれる人生の師匠を捜し求めて、貴方の「確(かつ)乎(こ)不(ふ)抜(ばつ)の志」を体現すべく、君子としての人德を習得する。すなわち、将来、「飛龍」の地位を得て、普(あまね)く慈雨を民(たみ)(国民や部下)に施すべく、師匠から君德を習得するのである。

 「乾為天」九二の之卦は「天火同人」である。次に「天火同人」の全体像を表す言葉(卦辞・彖辞、彖伝、大象伝)と「天火同人」六二の言葉(爻辞、小象伝)を示す。これらの言葉は「乾為天」の九二と同じく【新暦五月二十六日ころから三十日ころまで】に当て嵌まる。

天火同人(乾為天九二の之卦)

《卦辞・彖辞》
同人、于野。亨。利渉大川。利君子貞。
○人に同じうするに野(や)に于(おい)てす。亨(とお)る。大(たい)川(せん)を渉(わた)るに利(よろ)し。君子の貞(てい)に利(よろ)し。
 同人は人と人とが志を同じくして、一致団結して事に中る時。上卦の天(乾)と下卦の太陽(離)が天の道を同じくするように、広く天下の同志を集めて和合すべき時である。貴方が公正で無私ならば、何事もすらっと通る。
 同志が一致団結して事に中る場合は、大川を渉るような難事業でも成し遂げることができる。何事も君子の正しい道を固く守ることが肝要である。

《彖伝》
彖曰、同人、柔得位、得中、而應乎乾、曰同人。同人曰、同人于野、亨。利渉大川、乾行也。文明以健、中正而應、君子正也。唯君子爲能通天下之志。
○彖に曰く、同人は、柔、位(くらい)を得、中を得て乾(けん)に應(おう)ずるを、同人と曰(い)う。同人に曰(いわ)く、人に同じくするに野(や)に于(おい)てす。亨(とお)る。大(たい)川(せん)を渉るに利しとは、乾の行(ぎよう)也。文明にして以て健(けん)、中正にして應(おう)ず、君子の正しき也。唯(た)だ君子のみ能(よ)く天下の志を通ずと爲(な)す。
 彖伝は次のように言っている。同人は柔順な六二が正(せい)中(ちゆう)(正位にして中庸の德を具えている)を得て、剛健(正位にして中庸の德を具えている)九五と志を同じうする時だから「同人」と言う。「同人は人と人とが志を同じくして、一致団結して事に中る時。上卦の天(乾)と下卦の太陽(離)が天の道を同じくするように、広く天下の同志を集めて和合すべき時である。貴方が公正で無私ならば、何事もすらっと通る。同志が一致団結して事に中る場合は、大川を渉るような難事業でも成し遂げることができる。何事も君子の正しい道を固く守ることが肝要である」とは、正(まさ)しく上卦乾(天)の働きである。
 内(下卦離)に文明の德を備え、外(上卦乾)は剛健の性質で、六二と九五が共に中(ちゆう)正(せい)(正位にして中庸の德を具えている)で応じている。六二の忠臣(部下)と九五の天子(トップ)が中(ちゆう)正(せい)の道を以て相応じている。正(まさ)しく、君子の正しい道である。このような君子だけが、天下の臣民(世の中のあらゆる人々)と志を通じて、大同団結できるのである。

《大象伝》
象曰、天與火同人。君子以類族辨物。
○象に曰く、天と火とは同人なり。君子以て族を類し物を辨(べん)ず。
 小象伝は次のように言っている。上卦乾の天と下卦離の火(太陽)は共に上に昇っていくから志を同じうすることができるのである。
 君子は天と火(太陽)の性質に倣って、善(ぜん)悪(あく)正(せい)邪(じや)智(ち)愚(ぐ)利(り)鈍(どん)(善きものと悪しきもの、正しいものと邪なもの、智恵ある人と愚鈍な人、鋭い人と鈍い人)を分類して臣民のタイプを見極め、あらゆる物事を弁(べん)別(べつ)して、正しく時に対処するのである。

天火同人六二(乾為天九二の之卦・爻辞)

《爻辞》
六二。同人于宗。吝。
○六二。人に同じくするに宗(そう)に于(おい)てす。吝(りん)。
 一致団結して事に中る同人の時の主人公(一陰五陽の一陰)六二は正(せい)応(おう)九五の天子(トップ)と志を同じくしている。一致団結することが求められる同人の時において、正応九五に強く惹かれて、同人の時の主人公(一陰五陽の一陰)として広く天下の人々と一致団結する努力を怠る。寛大な心で大同団結することが求められるのに、正応九五に強く惹かれてしまう自分の狭い心を恥じるべきである。

《小象伝》
象曰、同人于宗、吝道也。
○象に曰く、人に同じくするに宗(そう)に于(おい)てすとは、吝(りん)道(どう)也(なり)。
 小象伝は次のように言っている。六二は一致団結することが求められる同人の時において、正応九五に強く惹かれて、同人の時の主人公(一陰五陽の一陰)として広く天下の人々と一致団結する努力を怠る。寛大な心で大同団結することが求められるのに、正応九五に強く惹かれてしまう自分の狭い心を恥じるべきである。
 同人の時の主人公(一陰五陽の一陰)なのに、正応九五にだけ強く惹かれてしまう自分の狭い心を大いに反省すべきである。