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時の物語 周易六十四卦 校正 22

三十九.立ち止まって考える時

 「二十九.人生で最も辛い時」ほどではないが、困難を乗り越えても、また困難に見舞われるのが「立ち止まって考える時」である。目の前に困難が現れることが予測される場合は、一度立ち止まってよく考えて対処することが大事である。困難を乗り越えるためには準備することが必要だ。準備すれば乗り越えられる困難も、闇雲に立ち向かって行けば乗り換えられない。困難に見舞われる予兆を感じたら、闇雲に前に進まず、まずは立ち止まって冷静に考えてみよう。困難は天があなたに与えた宿命である。あなたに与えられた困難は、あなたが乗り越えられる困難である。困難を乗り越えられなければ宿命に流される。
 困難を乗り越えれば宿命は立命となる。立命となって始めて運命を開くことができる。

 「立ち止まって考える時」の主人公は「十一.安定する時」に登場した創業三百年の歴史を誇る地方の老舗企業「江戸屋」の十八代目の社長である「あなた(わたし)」である。

 わたしは江戸時代中期に創業し三百年の歴史を誇る「江戸屋」の十八代目の社長である。江戸屋の社風は「思いやり」、わたしは創業家の長男として幼少期から「思いやり」に関する帝王学を叩き込まれて育った。創業家の教育方針は「知行合一」。知識は取得することが目的ではなく実行することが目的だとする方針で育てられた。学んだことを生活習慣として徹底的に身に付けた。江戸屋は創業以来今日に至るまで地元に密着した企業として伝統的工芸品を製造販売してきた。地元に取引先の企業が数多く存在し、関連企業も少なくない。後継予定者は大学を出るとすぐに地元の取引先企業に就職して配送業務や営業を経験する。わたしも大学を出たら叔父が社長を務めている取引先企業のT商店に就職して、叔父といえども厳格な社長の下で十年間武者修行をさせて頂いた。
 その後、江戸屋に入社して四十までは営業関係の業務を行い、四十からは企画開発部門で経験を積んだ。営業課長・企画開発部長を経て、五十で専務取締役となり、父である社長の下で五年間経営管理の経験を積んで五十五歳で代表取締役社長に就任。当社は創業以来一貫して伝統工芸品を扱っており堅調な業績で推移してきたが、デザインや売り方は時代に適合すべく常に刷新してきた。地元の産業と共に堅実に成長してきたので、業容は安定している。しかし、社長に就任したわたしの前に先代から引き継いだ大きな課題が立ちはだかっていた。二十年程前から燻り始めて、十年程前には煙になり始め、五年程前からモクモクとした煙となって現れた課題で、先代は対策を立てて取り組んだが、なかなか効果がでなかった。わが社の社風「思いやり」を蝕む深刻な課題である。年々人材の質が低下してきているのだ。
 わが社はここ三十年社員数百名を維持している。平均して毎年二~三人が退職するので、同数の新入社員を採用している。地元で信頼の厚い会社なので、二~三人の採用枠に凡そ二百人くらいが応募する。創業家と同様に会社も「知行合一」を教育方針としており、知識を問う筆記試験よりも性格判断テストや面接を重視している。以下省略。