半夏生(はんげしようず)(七十二候の三十候・夏至の末候)
【新暦七月一日ころから七月六日ころまで】
意味は「烏柄杓(からすびしやく)が生える(絵で楽しむ)」である。
「絵で楽しむ」には次のように書いてある。
「半(はん)夏(げ)」とは、サトイモ科の薬草「烏柄杓(からすびしやく)」のことをいいます。細長い葉(は)柄(がら)が茎をくるむように丸まり、烏が使う程度の小さな柄(ひ)杓(しやく)に見えることから烏柄杓(からすびしやく)と呼ばれるように。(中略)昔からこの時季は農作業を終える節目であり、田植えは半夏生(はんげしようず)までに済ませるものとされてきました。
「半夏生(はんげしようず)」は、易経・陰陽消長卦の「天風姤」九三に中る。次に「天風姤」九三の文章(爻辞と小象伝)を示す。
「天風姤」九三の言葉は【新暦七月一日ころから七月六日ころまで】に当て嵌まる。
天風姤九三(易経・陰陽消長卦)
《爻辞》
九三。臀无膚。其行次且。厲无大咎。
○九三。臀(とん)に膚(ふ)无(な)し。其(そ)の行くこと次(し)且(しよ)たり。厲(あやう)けれども大いなる咎无し。
正位(陽爻陽位)だが剛に過ぎる(やり過ぎる性質のある)九三は、悪しき小人初六と出逢うことを欲するが、傍目からは初六は比する九二と親しんでいるように見えるので、お尻の皮膚が擦りむけたようにムズムズして、落ち着いて座っていられない。本心は進みたいのだけれども九三とは応比の関係ではないのでグズグズしている。
危険な状態に陥っているが正位なので妄動することはない。悪しき小人初六と出逢わなければ大きな過失には至らない。
《小象伝》
象曰、其行次且、行未牽也。
○象に曰く、其の行くこと次(し)且(しよ)たりとは、行くこと未(いま)だ牽(ひ)かれざる也(なり)。
小象伝は次のように言っている。九三の本心は進みたいのだけれども悪しき小人初六は応比の関係ではないのでグズグズしている。九三は君子の道(道德)に逆らってまで進もうとするほど、初六に魅惑されていないのである。
「天風姤」九三の之卦は「天水訟」である。次に「天水訟」の全体像を表す言葉(卦辞・彖辞、彖伝、大象伝)と「天水訟」の六三の言葉(爻辞、小象伝)を示す。これらの言葉は「天風姤」の九三と同じく【新暦七月一日ころから七月六日ころまで】に当て嵌まる。
天水訟(天風姤九三の之卦)
《卦辞・彖辞》
訟、有孚窒。惕中吉、終凶。利見大人。不利渉大川。
○訟(しよう)は、孚(まこと)有りて窒(ふさ)がる。惕(おそ)れて中すれば吉、終れば凶。大(たい)人(じん)を見るに利し。大(たい)川(せん)を渉(わた)るに利しからず。
訟は乾(剛健)と坎(険難)が反目して、一つの組織内(小は家庭、大は国家)で争い事や訴訟が起きる時である。下卦坎水には、誠の德が充実しているが、九二は坎水の穴の中に陥って閉(へい)塞(そく)している。戒(いまし)め懼(おそ)れて忍耐し、適切な時に訴訟を取り下げるが宜しい。
組織内で起きる争い事や訴訟は勝つか負けるか終わるまで続けても解決しない。剛健中正の天子九五を争い事や訴訟を仲裁してくれる大人として仰ぎ、解決してもらうが宜しい。こういう時にはリスクの高い事に立ち向かって行ってはならない。
《彖伝》
彖曰、訟上剛下険。険而健訟。訟有孚窒、惕中吉、剛來而得中也。終凶、訟不可成也。利見大人、尚中正也。不利渉大川、入于淵也。
○彖伝は次のように言っている。訟(しよう)は上(うえ)剛(ごう)にして下(した)険(けん)なり。険にして健なるは訟なり。訟は孚(まこと)有りて窒(ふさ)がる、惕(おそ)れて中すれば吉とは、剛來(きた)りて中を得れば也。終れば凶とは、訟は成す可(べ)からざれば也。大人を見るに利しとは、中正を尚(たつと)ぶ也。大川を渉るに利しからずとは、淵(ふち)に入(い)る也。
彖伝は次のように言っている。訟は上卦乾が剛健、下卦坎が険難である。内(下)は険難な性質で、外(上)は剛健な性質なので争い事や訴訟が起こるのである。
戒(いまし)め懼(おそ)れて忍耐し、適切な時に訴訟を取り下げるが宜しい。剛健な九二が下卦に居て中庸の德を得ているからである。組織内で起こる争い事や訴訟は勝つか負けるか終わるまで続けても解決しない。組織内では争い事や訴訟を起こすべきでないからである。
剛健中正の天子九五を争い事や訴訟を仲裁してくれる大人として仰ぎ、解決してもらうが宜しい。九五は中正の德を具えているので人々から尚(たつと)ばれているからである。
こういう時にはリスクの高い事に立ち向かって行ってはならないのは、組織内で争い事や訴訟が起こっている時に、波風荒い大川を舟で渉れ(リスクの高い事に立ち向かって行け)ば顚(てん)覆(ぷく)して憂(ゆう)患(かん)の淵に沈むこと必至だからある。
《大象伝》
象曰、天與水違行訟。君子以作事謀始。
○象に曰く、天と水と違(たが)い行くは訟なり。君子以て事を作(な)すに始めを謀(はか)る。
大象伝は次のように言っている。上卦天は上り、下卦水は下るので、交わることなく行き違って、争い事や訴訟が起こるのが訟の時である。君子はこの卦象を見習って、訴訟の根本的な原因が物事を始める時の行き違いにあることに鑑(かんが)みて、本来であれば、物事を始める段階で、争い事や訴訟が起こらないように注意するべきなのである。
天水訟六三(天風姤九三の之卦・爻辞)
《爻辞》
六三。食舊德。貞厲終吉。或従王事、无成。
○六三。舊(きゆう)德(とく)を食(は)む。貞(てい)なれども厲(あやう)し。終に吉。或(あるい)は王(おう)事(じ)に従えども成す无(な)かれ。
六三は下卦坎険(現場)の極点に居て(長として)、組織に不平不満はあるが、人と争わずよく隠忍して、先祖代々の仕事を守って生活する。常を守り分に安んじ名利を競わず、正しい道を固く守っているが、不中正(陰柔不正でやり過ぎる性質)なので厲い。
しかし、正しい道を固く守っているので、最後は宜しき結果となるだろう。組織のトップに事(つか)える時はひたすらトップの命令に順い、自分の功(こう)を謀(はか)ってはならない。
《小象伝》
象曰、食舊德、従上吉也。
○象に曰く、舊(きゆう)德(とく)を食(は)むとは、上に従えば吉なる也。
小象伝は次のように言っている。六三は組織に不平不満はあるものの、人と争わずよく隠忍し先祖代々の仕事を守って生活している。
六三は自分が非力なことを辨(わきま)えており、トップの命令によく従う。先祖代々の仕事を守り、分に安んじて名利を競わず、部下としての正しい道を固く守るから、最後は宜しき結果となるのである。