雷乃発声(かみなりすなわちこえをはつす)(七十二候の候の十二候・春分の末候)
【新暦三月三十日ころから四月三日ころまで】
意味は「遠くで雷が鳴る(絵で楽しむ)」である。
「絵で楽しむ」には次のように書いてある。
春はひとつふたつで鳴りやむ短い雷の音。その年に始めて鳴る雷を「初(はつ)雷(らい)」、春に鳴るものを「春(しゆん)雷(らい)」と呼びます。
「雷乃発声(かみなりすなわちこえをはつす)」は、易経・陰陽消長卦の「雷天大壮」九三に中る。次に「雷天大壮」九三の文章(爻辞と小象伝)を示す。
「雷天大壮」九三の言葉は【新暦三月三十日ころから四月三日ころまで】に当て嵌まる。
雷天大壮九三(易経・陰陽消長卦)
《爻辞》
九三。小人用壯。君子用罔。貞厲。羝羊觸藩羸其角。
○九三。小人は壯(そう)を用(もち)う。君子は罔(もう)を用う。貞なれども厲(あやう)し。羝(てい)羊(よう)、藩(まがき)に觸(ふ)れ、其(そ)の角(つの)を羸(くるし)む。
九三は陽爻陽位で下卦乾の極に居りあまりにも剛に過ぎる。小人なら必ず暴走する。君子なら立ち止まる。正しい道(暴走せずに立ち止まる)を守っても危険に陥る時である。
小人は正しい道を守れないので暴走する。牡(お)羊(ひつじ)が垣(かき)根(ね)に突っ込み、角(つの)が垣根に絡(から)まって進退窮(きゆう)するのである。
《小象伝》
象曰、小人用壯。君子罔也。
○象に曰く、小人は壯(そう)を用(もち)う。君子は罔(な)き也(なり)。
小象伝は次のように言っている。小人は私利私欲に引っぱられて正しい道(道德)を守れない。だから暴走して自爆するのである。君子は私利私欲に引っぱられないから正しい道(道德)を守る。だから暴走しないのである。
「雷天大壮」九三の之卦は「雷澤帰妹」である。次に「雷澤帰妹」の全体像を表す言葉(卦辞・彖辞、彖伝、大象伝)と「雷澤帰妹」六三の言葉(爻辞、小象伝)を示す。これらの言葉は「雷天大壮」の九三と同じく【新暦三月三十日ころから四月三日ころまで】に当て嵌まる。
雷澤帰妹(雷天大壮九三の之卦)
《卦辞・彖辞》
歸妹、征凶。无攸利。
○歸(き)妹(まい)は、征けば凶。利しき攸(ところ)无(な)し。
帰妹は、女性がお嫁に行く(若者が就職する)時の道を説いている。上卦震の長男が動くので下卦兌の少女が悦(よろこ)ぶ時である。動くことを悦ぶことは、女として「はしたない」。女が男に媚(こ)び悦んで結婚を迫ったり、臣下(部下・若者)が君主(上司・就職先)に媚び諂(へつら)って昇進や就職を望んだりすることは、人の道(道德)に反するので失敗するのである。媚び諂うことで善い結果になることは、絶対にあり得ない。
《彖伝》
彖曰、歸妹、天地之大義也。天地不交而萬物不興。歸妹、人之終始也。説以動。所歸妹也。征凶、位不當也。无攸利、柔乗剛也。
○彖に曰く、歸(き)妹(まい)は天地の大義也。天地、交はらざれば、萬物興(おこ)らず。歸妹は人の終(しゆう)始(し)也。説(よろこ)びて以て動く。歸(とつ)ぐ所は妹(まい)也。征けば凶なるは、位、當(あた)らざれば也。利しき攸(ところ)无きは、柔、剛に乗ずれば也。
彖伝は次のように言っている。年頃の娘が嫁ぐことは子孫繁栄に繋がるので天地の大義に適っている。天地(陰陽)が交わらなければ、萬物は生々発展しない。嫁げば娘としての人生は終わり、妻としての人生が始まる。夫婦が交わり子が産まれ、新しい生命が始まる。やがて夫婦は年老いて、子供達に引き継がれる。以上のことから、年頃の娘が嫁ぐことは天地の大義に適っているのである。しかし、長男(上卦震)が動いて少女(下卦兌)が悦び、少女(若い女性)から求婚するのは駄目である。若い女性がかなり年上の男性に媚び悦んで結婚を迫ったり、臣下(部下・若者)が君主(上司・就職先)に媚び諂って昇進や就職を望んだりすることは、人の道(道德)に反するので失敗するのである。二爻から五爻まで全て不正な(適材適所でない)ので、結婚や就職に悉(ことごと)く失敗するのである。媚び諂うことで善い結果になることは、絶対にあり得ない。柔順な六五と六三が剛健な九四と九二の上に乗って増長しているからである。すなわち、陰的な存在が陽的な存在を凌(しの)いで蔑(ないがし)ろにしたり、己を過信している臣下(部下・若者)が増長して君主(上司・就職先)を軽く見ているからである。
《大象伝》
象曰、澤上有雷歸妹。君子以永終知敝。
○象に曰く、澤の上に雷(かみなり)有るは歸妹なり。君子以て終りを永くし敝(へい)を知る。
大象伝は次のように言っている。澤(兌)の上に雷(震)が有るのが歸妹の形。澤の上で雷が轟けば澤の水が振動するように、壮年の男性が上で動けば若い女性が下で悦んで我を忘れる。しかし、雷が治まれば澤の水の振動も治まるように、長男の動きが治まれば少女も我を取り戻す。君子はこの形を見習って、若い女性が一時の感情に惑わされることの弊害を知り、何事も幾(いく)久しく継続させることを心がけるのである。
雷澤帰妹六三(雷天大壮九三の之卦・爻辞)
《爻辞》
六三。歸妹以須。反歸以娣。
○六三。妹を歸(とつ)がするに以て須(ま)つ。反(かえ)れば歸(とつ)ぐに娣(てい)を以てす。
六三は柔弱不中正でやり過ぎる性質。上六とは陰同士で応じない。下卦兌(だ)の主爻で上卦震の動きを悦ぶ淫(みだ)らな女性(無能な求職者)である。このような女性(求職者)は誰も嫁に貰って(採用して)くれない。日頃の自分の行いを反省して改めれば、妾(めかけ)(契約社員)になることならできるであろう。
《小象伝》
象曰、歸妹以須、未當也。
○象に曰く、妹を歸(とつ)がするに以て須(ま)つとは、未(いま)だ當(あた)らざる也。
小象伝は次のように言っている。このような女性(求職者)は誰も嫁に貰って(採用して)くれない。性格の悪さと節操のなさが度を超えているのである。