四十七.水が漏れて乾涸らびる時
人間社会にとって「水源」を確保して、誰もが何時でも「水」を飲める環境を整備することは極めて大事なことだ。大災害が起こると「水」を確保することが困難になり苦労する。「水」は飲むだけでなく、手洗い、歯磨き、洗濯、水洗トイレ、お風呂等様々な場面で欠かせない。「水源」を確保できなければ、生活や仕事が行き詰まり、経済的に困窮する。「水が漏れて乾涸らびる時」は「水源」を失い「水」が手に入らない深刻な事態である。
「水が漏れて乾(ひ)涸(か)らびる時」の主人公は、料理好きが高じて複数の飲食店で修行してパスタ店「アルデンテ」を経営する「あなた(わたし)」である。
わたしは料理好きの母が大好きで幼い頃から台所に入り浸っていた。母のパスタ料理は絶品だった。毎日母の料理を食べることが楽しみで、大人になったら美味しい料理を作り多くの人に喜んでもらえる料理人になりたいと思った。勉強は嫌いだったので、中卒で東京に出て有名な洋食店に就職。仕事は面白かったが先輩の虐(いじ)めに耐えられず老舗の和食店に移った。和食店では優しい先輩に恵まれて料理の幅も広がった。洋食・和食の経験を踏まえて将来店を出すなら洋食にしようと決めたのは三十歳の時だ。十五年間修行を積んだのでそろそろ店を持ちたいと思ったが、さらにイタリア料理店で修行を積みイタリア料理をマスターしたのは三十五歳の時だ。創業資金も貯まったので独立の準備にとりかかった。
大好きな母が暮らす地元でお店を開くために帰郷して、地元の商工会議所に創業の相談をした。経営指導員の方から色々と教わり、創業計画書を作成し銀行に提出した。飲食店での修行経験と堅実な計画書が認められ、パスタ専門店「アルデンテ」を開業した。開業後しばらくはお客様が少なかったが、口コミが広がり店は繁盛するようになった。母に店を手伝ってもらい二人で切り盛りしていたが、お客様が増えて従業員を雇った。美味しいパスタを手頃な値段で提供するため、原価率を高めに設定して利益率は抑えるようにした。お客様にはとても喜ばれて食事時になると行列ができるようになった。パスタ料理はアルデンテ状態で麺を提供することが大事なので、どんなにお店が忙しくても麺のゆで具合には徹底してこだわった。経費が嵩(かさ)んだ一年目は赤字だったが、二年目から一定の利益が出た。
開業から十年して四十五歳になった。もっと多くの人に美味しいパスタを食べてほしかったので、二号店を出すことにした。開業の時にお世話になった商工会議所の経営指導員の方に相談して本店の西に位置する隣町に出店。母に店長をお願いした。二店舗体制となったパスタ専門店「アルデンテ」は多くのお客様から支持されるようになった。わたしも母もアルデンテにこだわって料理を提供することがお客様から評価された。三号店を出してほしいというお客様からの要望が高まり、本店の東に位置する隣町に三号店を出店した。三号店の店長は開業当時からの従業員としてお店に尽くしてくれたパスタ好きのY君にお願いした。Y君はパスタ料理の調理技術は完璧だが計数管理が苦手なので店長を任せるのは一寸不安はあるが、彼以外に適任者はいないので抜擢した。わたしの心配は杞憂に終わり三号店は本店・二号店の業績を上回るほど好評だったので、わたしも母も安堵した。以下省略。