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四季と易経 その十六

霞始靆(かすみはじめてたなびく)(七十二候の候の五候・雨水の次候)

【新暦二月二十四日ころから二十八日ころまで】
 意味は「山々に春の霞がたなびく(絵で楽しむ)」である。
 「絵で楽しむ」には次のように書いてある。
 春になると大気中の水滴や細やかな塵が増え、遠くの山は霧や靄(もや)がかかって景色がぼんやりと見えます。

 「霞始靆(かすみはじめてたなびく)」は、易経・陰陽消長卦の「地天泰」九二に中る。次に「地天泰」九二の文章(爻辞と小象伝)を示す。
 「地天泰」初九の言葉は【新暦二月二十四日ころから二十八日ころまで】に当て嵌まる。

地天泰九二(易経・陰陽消長卦)

《爻辞》
九二。包荒、用馮河、不遐遺、朋亡、得尚于中行。
○九二。荒(こう)を包み、馮(ひよう)河(が)を用い、遐(とお)きを遺(わす)れず、朋(とも)亡(うしな)われ、中(ちゆう)行(こう)に尚(あ)うを得(う)。
 中庸の德を具えている賢臣九二は正応六五の天子(トップ)の寵愛を受け、天下を泰平に導く。「寛大に小人を包容する大度量(仁德・荒(こう)を包み)」「大川を徒歩で渉る行動力(勇氣・馮(ひよう)河(が)を用い)」「遠いものまで見逃さない明智(智恵・遐(とお)きを遺(わす)れず)」「朋党に偏ることのない公平無私(大義・朋(とも)亡(うしな)われ)」の四つの德を具えて中(ちゆう)行(こう)の(泰の時に適切に対処している)天子(トップ)の思し召(おぼしめ)し(意向)に適(かな)っているのである。

《小象伝》
象曰、包荒、得尚于中行、以光大也。
○象に曰く、荒を包み、中行に尚うを得とは、以て光大なる也。
 小象伝は次のように言っている。九二は「寛大に小人を包容する大度量(仁德・荒(こう)を包み)」「大川を徒歩で渉る行動力(勇氣・馮(ひよう)河(が)を用い)」「遠いものまで見逃さない明智(智恵・遐(とお)きを遺(わす)れず)」「朋党に偏ることのない公平無私(大義・朋(とも)亡(うしな)われ)」の四つの德で中行の(泰の時に適切に対処している)天子(トップ)の思し召(おぼしめ)し(意向)に適(かな)っている。光り輝くように大きい四德で偉大な功績を成就するのである。

 「地天泰」九二の之卦は「地火明夷」である。次に「地火明夷」の全体像を表す言葉(卦辞・彖辞、彖伝、大象伝)と「地火明夷」の六二の言葉(爻辞、小象伝)を示す。これらの言葉は「地天泰」の九二と同じく【新暦二月二十四日ころから二十八日ころまで】に当て嵌まる。

地火明夷(地天泰九二の之卦)

《卦辞・彖辞》
明夷、利艱貞。
○明(めい)夷(い)は、艱(かん)貞(てい)に利(よろ)し。
 明夷は明るいものが傷付けられる(夷)時である。また、明夷は明るい太陽(下卦離)が大地(上卦坤)の下に沈み、君子が小人に仕える暗黒の時である。
 このような道無き時(無道)に如(い)何(か)に対処すべきかをよくよく考えなければならない。君子に降りかかる艱難辛苦に中(あた)って、時の流れに身を任せることなく、そうかといって、逆らうこともなく、常に正しい道を固く守ることが唯一の対処法である。

《彖伝》
彖曰、明入地中明夷。内文明而外柔順、以蒙大難。文王以之。利艱貞、晦其明也。内難而能正其志。箕子以之。
○彖に曰く、明、地中に入るは明夷。内、文明にして外、柔順、以て大(だい)難(なん)を蒙(こうむ)る。文(ぶん)王(おう)之(これ)を以(もち)う。艱貞に利しとは、其の明を晦(くら)ます也。内、難にして而も能く其の志を正しくす。箕(き)子(し)之(これ)を以(もち)う。
 彖伝は次のように言っている。太陽(下卦離・明智と明德を具えた大人)が大地(上卦坤・小人)の下に沈んで真っ暗となり、暗黒の世を表しているのが明夷の形である。内に文明(離)の德を具え、外に柔順(坤)に振る舞って、暗黒の世に対処しても、大きな艱難辛苦が立ち塞がり、誰もこれを避けることができない。周の文(ぶん)王(おう)は、内に明智・明德を包み隠して幽閉にじっと耐え、(殷王朝の三分の二の領地を自国の領地として保有していながら)外に柔順に振る舞って暴君紂(ちゆう)王(おう)に仕えるしかなかったのである。
 「君子に降りかかる艱難辛苦に中(あた)って、時の流れに身を任せることなく、そうかといって、逆らうこともなく、常に正しい道を固く守ることが唯一の対処法である」とは、明德を隠しつつも、常に正しい道を固く守ることしか対処法はないのである。君子は艱(かん)難(なん)辛(しん)苦(く)が立ち塞(ふさ)がっても、己の明智・明德を包み隠して志操を貫くのである。紂王の叔父・箕(き)子(し)は狂人を装(よそお)って(明智・明德を包み隠し)紂王の奴(ど)隷(れい)に甘んじて、己の志を貫いたのである。

《大象伝》
象曰、明入地中明夷。君子以涖衆、用晦而明。
○象に曰く、明、地の中に入(はい)るは明(めい)夷(い)なり。君子以(もつ)て衆に涖(のぞ)むに、晦(くら)きを用いて明らかなり。
 大象伝は次のように言っている。太陽(離)が大地(坤)の下に沈み隠れて世の中が真っ暗闇(暗黒社会)になってしまったのが明(めい)夷(い)の形である。
 君子はこの形(異常事態)に見習って、凡(ぼん)庸(よう)な大衆と接する時は、明德を包み隠して愚(ぐ)の如(ごと)く振る舞い、自らの内面は明智・明德を貫いて、さりげなく大衆と接することにより、知らず識らずのうちに大衆を善い方向に導くのである。

地火明夷六二(地天泰九二の之卦・爻辞)

《爻辞》
六二。明夷。夷于左股。用拯馬壮、吉。
○六二。明(めい)夷(やぶ)る。左(さ)股(こ)を夷(やぶ)る。用(もつ)て拯(すく)うに馬壮(さかん)なれば吉(きつ)。
 下卦離(明智明德)の主爻で中正の德を具えている六二は明いものが夷(やぶ)れる(傷付けられる)暗黒の時に居り、何物かに左の股(もも)を傷付けられる。
 壮(そう)健(けん)な駿(しゆん)馬(ば)を用いて速やかに逃れ去れば、危機を脱して幸運を招き寄せる。

《小象伝》
象曰、六二之吉、順以則也。
○象に曰く、六二の吉は、順にして以(もつ)て則(のり)あれば也(なり)。
 小象伝は次のように言っている。六二が危機を脱して幸運を招き寄せるのは、暗黒の時に素直に順い、中正の德で正しく時に対処できるからである。
※この爻は、周の文王に例えられる。文王は紂王によって羑(ゆう)理(り)の地に幽閉され、スープに入れられた長男の肉を供されたが、その過酷な境遇に耐えて易に初めて言葉をかけた。その言葉が卦辞・彖辞である。