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六十四卦の概要 澤天夬

四十三 澤天夬 ☱ ☰

 陰陽消長卦の循環で見ると、澤天夬は乾為天の一つ手前だから、大盛運の流れの中にあるが、五陽の上に一陰の暗君が君臨して、全体を覆っている。それゆえ、雷天大壮☳☰のような勢いがなく、乾為天☰☰に抜け出る一歩手前で足踏み状態となって、大変困窮する時である。
 本卦の上六の暗君は地火明夷の上六の暗君に共通するところがある。社会全体に害悪を及ぼす暗君が一番上に君臨して、社会を覆っている。社会は暗君の害悪に覆われて異常事態に置かれる。暗君を撃ち倒さない限り異常事態は終わらない。本卦も地火明夷も上六の暗君を撃ち倒すのは九三の君子である。上卦を政府、下卦を国民と見れば、九三は国民的ヒーローである。地火明夷☷☲の九三は明智・明德(下卦離の性質)を具えているが、互体二三四の坎の険阻艱難に阻まれて、動くに動けない。盲進すれば暗君の害悪に撃ち倒されかねない。力を蓄え時を待って互体三四五の震の決断力と行動力で上六を撃ち倒す。暗君倒れて異常事態は解け、夜が明け朝日が昇って綜卦・火地晋☲☷の時となる。
 本卦の九三は下卦、互体(二三四と三四五)全てが乾で、剛健・健全・壮盛(乾の性質)だから、力量は絶大である。武力で撃ち倒すことも可能だが、一陰暗君の害悪は五陽を覆い被さり、社会は壊れて(本卦を小成卦で見ると大きな兌となる。兌には壊れる性質がある)となって動きがとれない。初爻から五爻まで陽爻だから力量に問題はない。中身を示す互卦は乾為天☰☰なので無限のパワーを具えているが、暗君の害悪に覆われて、暗君を撃ち倒す決断ができない。それだけ、暗君の害悪は強大なのである。
 本卦も地火明夷も最後の最後に暗君を撃ち倒して異常事態から脱出する。暗君を撃ち倒さなければ異常事態の中に居続けることになる。戦後の日本社会に当て嵌めれば、本卦も地火明夷も暗君は「戦後レジーム」である。GHQのプロパガンダ(政治的な宣伝工作)に見事に騙された日本人は、大東亜戦争が終わって八十年近くも経つのに、未だに「戦後レジーム」の暗君に覆われており異常事態が続いている。異常事態も八十年近く続けば常態化する。常態化すれば異常事態の中に居る自覚がなくなり、異常事態を異常事態と感じなくなる。異常事態が普通となる。異常事態を普通と感じる人々は、異常事態からの脱出を目指す人々を危険視して社会から除外しようとする。このままでは、いつまでたっても「戦後レジーム」という名の異常事態から抜け出ることができない。どうやら、九三の国民的ヒーローは現れそうもない。異常事態を異常事態と感じて、異常事態から脱出する必要があることを自覚している人々が立ち上がって、一定の勢力となり、自らが国民的ヒーローとなるしか日本を救う方法はないのだ。