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人生を豊かにする論語意訳 抜粋 その二

2023年1月2日

爲(い)政(せい)篇第二

爲政第二、第一章
子曰、爲政以德、譬如北辰居其、而衆星共之。
子曰く、政を爲すに德を以てすれば、譬えば北辰其の所に居て衆星の之に共(むか)うが如し。
 孔先生がおっしゃった。
「人德ある人物が爲政者の地位を得れば、北極星の周りを沢山の星が取り巻くように、民衆のほとんどがその政策に従うようになるであろう」。20111010

この章に出てくる重要な言葉(概念)
爲政:政治であり具体的には行政のことであるが、当時は三権が分立していないので、司法・立法も行政に含まれる。当時は、爲政者(行政官僚・政治家)と民との二者の関係が基本である。ここにいう「爲政者」は、組織運営の幹部をイメージしている。(加地伸行「論語」より)
政を爲すに德を以てす:修身、斉家、治国、平天下
北辰:孔子が生きていた周王朝の都から北の空へ向かって地平線から上へ三十六度の位置が北辰であり、星をさすのではない。しかし、位置は空間であり捉えにくいので、分かりやすくするため、北辰のすぐそばにある星群(五個の星)を「北辰」に見立て、その中の一つを「極星」と呼び、北辰の代替物としている。北極星ということばはそこから来ている。(加地伸行「論語」より)

爲政第二、第二章
子曰、詩三百、一言以蔽之、曰、思無邪。
子曰く、詩三百、一言以て之を蔽(おお)う。曰く、思い邪(よこしま)無し。
 孔先生がおっしゃった。
「詩経に掲載されている詩は三百篇ある。作者も歌の内容もさまざまだが、その共通点を一言で説明することができる。則ち『邪な思いで書かれた詩はない』ということである」。20111010

この章に出てくる重要な言葉(概念)
詩三百:今の詩経が、孔子のいわゆる詩と同じものだとするならば、詩は三百十一篇あって、内六篇は文句がない。文句のあるのは三百五篇である。ここに三百というのは大体の数をいうのである。(宇野哲人「論語新釈」より)
一言:一句の意。(同右)
蔽(おお)う:蓋(おお)うで、包括する意。(同上)
思い邪(よこしま)なし:詩経の魯(ろ)頌(しよう)の駉(けい)という詩の句である。「思ひ」は心、「邪なし」は正、読む人の心を正しくするのである。(同右)

爲政第二、第三章
子曰、道之以政、齊之以刑、民免而無恥。道之以德、斉之以禮、有恥且格。
子曰く、之を道(みちび)くに政(せい)を以てし、之を齊(とと)のうるに刑を以てすれば、民免れて恥無し。之を道くに德を以てし、之を齊のうるに禮を以てすれば、恥じ有りて且つ格(いた)る。
 孔先生がおっしゃった。
「法律と刑罰で國を治めれば、民衆は法律だけ重視して不道德を恥じなくなる。人德ある爲政者が和合と調和(禮)で國を治めれば、民衆は不道德を恥じて善行に導かれるようになる」。
20111010
この章に出てくる重要な言葉(概念)
道(みちび)く:導くこと、先んずること 政(せい):政令や法律
禮:必ずしも煩瑣な禮儀作法のことではない。時には煩瑣なしきたりなども含んだ、豊かで厚みのある文化の成熟である。(呉智英「現代人の論語」より)
恥じ有りて且つ格(いた)る:民度の高さである。文化の成熟こそが民度を高める。それは、強圧的な政治や統制的な刑罰よりも、確実に社会に秩序を実現させる。(同右)

爲政第二、第四章
子曰、吾十有五而志學。三十而立。四十而不惑。五十學而知天命。六十而耳順。七十而従心所欲、不踰矩。
子曰く、吾十有五にして學に志す。三十にして立つ。四十にして惑わず。五十にして天命を知る。六十にして耳順(したが)う。七十にして心の欲する所に従えども矩(のり)を踰(こ)えず。
 孔先生がご自身の人生を振り返って、次のようにおっしゃった。
「わたしは、十五歳の時、将来立派な人間になって社会のお役に立つために、聖人・賢人が遺された人間學をしっかり習おうと堅く心に誓った。(早くに両親を亡くしたので、一家の大黒柱として、いろいろな仕事をしながら、寸陰を捉えて時習した。)三十歳になる頃には、(わたしを師と慕ってくれる弟子が現れ、精神的にも経済的にも)自立した。(段々弟子も増え、知識は見識に高まり、)四十歳になる頃には、どんな状況に置かれても惑わないようになった。(四十半ばで易経を読み込み、政治家になって乱れた政治を立て直すことが、わたしの使命だと認識するようになった。その思いはどんどん深まっていき、)五十歳になる頃には、政治を立て直すことは、天から授かった使命、則ち天命だと、まるで雷に打たれるように強く自覚した(五十半ばで念願の政治家になって政治改革に着手した。しかし、既存勢力の反撃で失脚、祖国を追われ、愛弟子と諸国を流浪することになった。それらの国の政治に携わろうとしたが、わたしを任用してくれる国はなく、何度も命を落としそうになるなど、散々苦労を重ねた。すると、段々人間としての角が取れて、人の話に自然と耳を傾けられるようになった。)六十歳になる頃には、素直な気持ちで人の話を聞けるようになった。(政治に関わることは諦めて、祖国に帰って若者の教育に専念するようになり、)七十歳になる頃には、自分の心に従って行動しても、人の道に反しないようになった」。
20111012
この章に出てくる重要な言葉(概念)
十有五:有は又の意。十五は古(いにしえ)大學に入る年である。(宇野哲人「論語新釈」より)
學:大學にある明明德、親民、止至善をう。人格完成が學である。(同右)
立つ:固く守って何物にも動かされぬこと。(同右)
天命を知る:天の命ずる所を知ること。道理の本源を知ること。(同右)
耳順う:声が耳に入れば直ちにその理が心に通じること。(同上)
矩:大工の持つ曲(かね)尺(じやく)である。ここは行爲の準則となるものをいう。(同右)
人生の節目を、志學、而立、不惑、知命、耳順、不(ふ)踰(ゆ)と表現するのは、この孔子の語による。(吉田公平「論語」より)