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時の物語(易経短編小説集・近日中に出版予定)42

四十一.損して得する時

 国家に例えれば、一時は国民が損して政府が得するが、最後は国民も得する時。会社に例えれば、一時は社員が損して役員が得するが、最後は社員も得する時。家庭に例えれば、一時は子供が損して親が得するが、最後は子供も得する時。あらゆる組織には上と下がある。上が厳しい時には下が頑張る。下が頑張れば上は喜ぶ。結果的に上も下も良くなる。それが「損して得する時」である。
 この時が成り立つためには、上は下のことを思いやり、下は上のことに感謝するという関係でなければならない。そうでなければ、下は一方的に損するだけである。

 「損して得する時」の主人公は、国を信じて増税を受け入れたのに、国に裏切られて生活が厳しくなった「あなた(わたし)」である。

 わたしは平成十年生まれの平凡な女子。何も考えずに何となく生きている。社会のことはよく分からないし、政治のことなんか考えたこともない。まぁ、これまで何とかやってこれたし、これからも何とかなると思っている。毎日仕事をしてそれなりのお金をいただき、普通に生きていけば人並みに幸せになれるだろう。学校で日本は昔戦争をしたって習ったけれども、わたしが生まれた時にはそんな面影は全くなく、普通の国としてみんな普通にやっている。難しいことは国に任せて、わたしたちは何も考えずに普通に生きていけばなんとかなるだろう。そんな感じでこれまで生きてきた。今の仕事は好きでもないが嫌いでもない。普通に生きていくために毎日真面目に仕事をしている。会社の人間関係も悪くなく、三つ年上の先輩と付き合って、そろそろ二年になる。先日、先輩からプロポーズされて、今どうしたらよいか考えている。悪い人ではないし結婚してもよいかなぁと思っているが、まだ、踏ん切りがつかない。彼もわたしと同じで普通に生きていけば人並みに幸せになれると信じている人だ。二人とも自分のことを考えるのが精一杯で、社会のことなどどうでもよい。これまで育ててくれた両親に感謝する気持ちはあるけれど、とくに親孝行したいとも思わない。以下省略。