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易経(周易)を読み解く 二八(天水訟 初二三)

初六 ――― ‥―‥ (天水訟) 之卦 十天澤履

初六。不永所事。小有言。終吉。
○初六。事とする所を永(なが)くせず。小しく言(げん)有り。終(つい)に吉。
 初六は下卦坎険の最下で困(こん)窮(きゆう)し、不平不満を抱いて争い事や訴訟を起こそうとするが、長く続けられない。周りから「とんでもないやつだ」などと多少物言いがつくが、早い段階で争い事や訴訟を取り下げるので、最後は宜しき結果となる。
象曰、不永所事、訟不可長也。雖小有言、其辨明也。
○象に曰く、事とする所を永くせずとは、訟(しよう)は長くす可(べ)からざる也。小しく言(げん)有りと雖(いえど)も、其(そ)の辨(べん)明らか也。
 小象伝は次のように言っている。不平不満を抱いて争い事や訴訟を起こすが、長く続けられない。組織の中で争い事や訴訟は起こすべきものでなく、已むを得ずして起こしたとしても適当な時機に取り下げるべきものだからである。
 周りから「とんでもないやつだ」と多少物言いがつくが、応ずる上司九四の助言で早い段階で争い事や訴訟を取り下げるから、最後は宜しき結果となるのである。

【以下、高島易断から占いとしての見立てを引用】
〇金銭・その他において、善からぬ者によって、災難を被ることがあるが、只管(ひたすら)争うことを堪え忍んでじっとしている時。どの国に生れようが、どんな人種であろうが、善からぬ者とは、交際することを断るべきである。つまらない争い事から、大事な家族や家庭を犠牲にしてはならない。負けるが勝ちという時がある。訴訟や裁判沙汰を好む人は、争ってはならない時だと心すべきである。
○どんな事でも、災難を免れる。
○先読みをすること(将来予測)により、物事が複雑化したり紛糾したりすることを免れる。

九二 ――― ‥―‥ (天水訟) 之卦 十二天地否

九二。不克訟。歸而逋。其邑人三百戸。无眚。
○九二。訟(しよう)に克(か)たず。歸(かえ)りて逋(のが)る。其(そ)の邑(ゆう)人(じん)三百戸(こ)。眚(わざわい)无(な)し。
 九二は坎(かん)険(けん)の中に陥っているので組織に不平不満を抱いている。そこで、比する初六と六三を率いて、組織のトップである九五と争うべく訴訟を起こす。しかし、九二が坎険の中に陥っているのは、現場(下卦坎水)の中心に居る九二が能力を封じ込められているからであり、九五に責任転嫁するのは筋違いである。九二は中庸を得ているので自分の行動が道理に背いていることを悟り、結局は訴訟を取り下げる。
 訴訟を取り下げた九二は、自分の領地(現場)に逃げ帰るけれども、何事もなかったように振る舞うことは難しく、隠(いん)遁(とん)して恐(きよう)懼(く)謹(きん)慎(しん)するしかない。九二が恐(きよう)懼(く)謹(きん)慎(しん)するので村人(初六と六三)は災いを免れて、何事もなかったように振る舞うことができる。
象曰、不克訴、歸逋竄也。自下訟上、患至掇也。
○象に曰く、訴えに克(か)たず、歸(かえ)りて逋(のが)れ竄(かく)るる也。下より上を訟(うつた)う、患(うれ)いの至ること掇(ひろ)うがごとき也。
 小象伝は次のように言っている。組織に不平不満を抱いている九二は、組織のトップである九五と争うべく訴訟を起こすが、自分の行動が道理に背(そむ)いていることを悟り、訴訟を取り下げる。自分の領地(現場)に逃げ帰るけれども、何事もなかったように振る舞うことは難しく、隠(いん)遁(とん)して恐(きよう)懼(く)謹(きん)慎(しん)するしかない。
 臣下が君主と争って訴訟を起こせばノイローゼになるほど追い込まれるのは、落とし物を見つけたら拾って交番に届けるように当たり前のことである。

【以下、高島易断から占いとしての見立てを引用】
〇この爻が出たら、敵は剛健で富豪、権力と勢力があり、自分は侮られて、坎難に陥る。いくら悲しんでも、敵は何も配慮しない冷酷な人間である。以上のことから、不平不満が山積し、敵を訴えようとするが、自分には勝ち目がないことを知って、訴えを取り下げる。九五の大人と応爻なので、この賢人を慕って仲裁を依頼すべきである。この卦は理屈が通らない時、何事も我慢して事を起こしてはならない。
○人と争うことを好んで訴訟を起こそうとする。
○負けん気の性格が、災難を招き寄せる。
○物事を始める時に慎みの心を忘れて、自ら凶運を招き寄せる。
○病気療養中の人は、医者の誤診によって薬が効かない。
○上と下の感情が背き合う時。

六三 ――― ‥―‥ (天水訟) 之卦 四四天風姤

六三。食舊德。貞厲終吉。或従王事、无成。
○六三。舊(きゆう)德(とく)を食(は)む。貞(てい)なれども厲(あやう)し。終に吉。或(あるい)は王(おう)事(じ)に従えども成す无(な)かれ。
 六三は下卦坎険(現場)の極点に居て(長として)、組織に不平不満はあるが、人と争わずよく隠忍して、先祖代々の仕事を守って生活する。常を守り分に安んじ名利を競わず、正しい道を固く守っているが、不中正(陰柔不正でやり過ぎる性質)なので厲い。
 しかし、正しい道を固く守っているので、最後は宜しき結果となるだろう。組織のトップに事(つか)える時はひたすらトップの命令に順い、自分の功(こう)を謀(はか)ってはならない。
象曰、食舊德、従上吉也。
○象に曰く、舊(きゆう)德(とく)を食(は)むとは、上に従えば吉なる也。
 小象伝は次のように言っている。六三は組織に不平不満はあるものの、人と争わずよく隠忍し先祖代々の仕事を守って生活している。
 六三は自分が非力なことを辨(わきま)えており、トップの命令によく従う。先祖代々の仕事を守り、分に安んじて名利を競わず、部下としての正しい道を固く守るから、最後は宜しき結果となるのである。

【以下、高島易断から占いとしての見立てを引用】
〇分に安んじて、常に正しさを守れば吉運を招き寄せる。他人の誘惑に乗って(扇動されて)、妄(みだ)りに心を動かしてはならない。
○これまでのあり方を守れば(本業を大事にすれば)、安心を得る。