組織内部の争い事は勝った負けたの決着をつけてはならない。勝った負けたの決着は組織の分裂につながる。組織を維持するためにはお互い妥協して調停することが必要となる。調停するためには争っている者の間に立つ人格者が必要となる。天水訟ではその人格者を五爻と見立てる。五爻は組織トップの位である。
以上のことから、組織を国家とすれば五爻は政府あるいは総理大臣、会社とすれば五爻は社長、会社以外の様々な組織とすれば五爻はリーダーと呼ばれる人、家庭であれば父親(場合によっては母親)である。組織内部の争い事が収まるかどうかは、五爻のトップがが人格者であるかないかで決まる。トップが人格者なら収まるが、そうでなければ収まらないのである。
残念ながら今の時代は国家も会社もその他色々な組織も人格者がトップの位にあることが少ない。大きな組織になればなるほど人格者がトップの位にいない。なぜなら、偏差値教育の勝者がトップの位にいることが多いからである。偏差値教育の勝者は人格者ではない。ただ暗記力や理解力があるだけである。人格者とは仁の人である。仁とは思いやりの心である。易経では仁の人を君子と云い、また大人と云う。
天水訟の時を全うできるのは五爻のトップが君子か大人の場合だけである。そうでなければ組織は分裂する。そのことを卦辞・彖辞で「惕(おそ)れて中すれば吉、終れば凶。大(たい)人(じん)を見るに利し。大(たい)川(せん)を渉(わた)るに利しからず。」と云っているのである。
自暴自棄になって、周りの人に嫌な思いをさせることになる。」
以上が天水訟の概要である。
ここから先は原文(漢文と書き下し文)を示した上で、初心者でも理解できるように意訳していく。
訟、有孚窒。惕中吉、終凶。利見大人。不利渉大川。
○訟(しよう)は、孚(まこと)有りて窒(ふさ)がる。惕(おそ)れて中すれば吉、終れば凶。大(たい)人(じん)を見るに利し。大(たい)川(せん)を渉(わた)るに利しからず。
訟は乾(剛健)と坎(険難)が反目して、一つの組織内(小は家庭、大は国家)で争い事や訴訟が起きる時。下卦坎水には、誠の德が充実している(九二)が、九二は坎水の穴の中(六三と初六の狭間)に陥って閉(へい)塞(そく)している。戒(いまし)め懼(おそ)れて忍耐し、適切な時に訴訟を取り下げるが宜しい。
組織内で起きる争い事や訴訟は勝つか負けるか終わるまで続けても解決しない。剛健中正のトップ(九五)を争い事や訴訟を仲裁してくれる大人物として仰ぎ、解決してもらうがよい。こういう時(組織内で争い事が起こっている時)にはリスクの高い事に立ち向かって行ってはならない。以下省略。