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陰陽古事記伝 天の岩屋戸 二

〇超釈
 天照大御神は、農業と産業の関係を研究するためとはいえ、自分の部下である機織りの女性を死なせてしまった須佐之男の命の蛮行を末恐ろしく思った。同時に、弟に対する自らの指導力が足りなかったことを後悔した。そして、天(あめ)の石(いわ)屋(や)(高天原にある洞窟の入り口)の戸を開いて、その戸をしっかりと閉じ塞いで中に籠もってしまわれた。
 天御中主神を根源的なパワーとする太陽神・天照大御神がお隠れになってしまったので、高天原は真っ暗になり高天原の神々は暗闇に包まれたのである。そして、葦(あし)原(はらの)中(なかつ)國(くに)(日本)を始め、ありとあらゆる世界(地球や惑星群)が真っ暗闇になった。このようにして、宇宙全体が日のささない夜だけの状態となってしまい、それがいつまでも続いた。そのため、宇宙に存在する大勢の神々の叫び声が夏蝿のように宇宙全体に満ち溢れ、あらゆる災いが至るところで起こるようになった。
 高天原の神々は困り切ってしまい、物事に窮した時に集まる場所である天(あめ)の安(やすの)河(かわ)の河原に集まって、これからどうしたらよいかを相談することにした。そして、陽の神様(シナリオを描く神様)である高(たか)御(み)産(む)巣(す)日(ひ)の神の御子である思(おもひ)金(かね)の神(高(たか)御(み)産(む)巣(す)日(ひ)の代理として一つのシナリオが行き詰まった時に新しいシナリオを考える知恵の神様)が対策を考えることになった。
 思(おもひ)金(かね)の神は先ず、常(とこ)世(よ)の(世界中で常に存在している)長(なが)鳴(なき)鳥(どり)(世界が真っ暗闇になって困って鳴いている生き物たち)を集めてきて、世界中の生き物がどんなに困っているかを鳴いて示させた(天照大御神に生き物の窮状を聞いてもらった)。それから、天(あめ)の安(やすの)河(かわ)の河(かわ)上(かみ)にある天(あめ)の堅(かた)石(いわ)(鉄を鍛えるのに使う硬い石)を採りに行かせて、天(あめ)の金(かな)山(やま)(鉱山)から鐵(くろがね)(鉄)を採掘した。そして、鍛冶職人を探してきて、伊(い)斯(し)許(こ)理(り)度(ど)賣(め)の命(みこと)(石型に溶鉄を流し固めて鏡を鋳る老女)に言いつけて、鏡を作らせた。
 この鏡は天照大御神の象徴であり、これから天照大御神を根源神として実行神須佐之男命とその末裔である大国主神により開拓される日本の国の基本的な統治構造(国柄・国体)の中心に置かれるものである。
 次に、玉(たまの)祖(おや)の命(みこと)(玉(たまの)祖(おやの)連(むらじ)の祖先)に言いつけて、八(や)尺(さか)の勾(まがたま)の五(い)百(ほ)津(つ)の御(み)須(す)麻(ま)流(る)の珠(たま)(多くの勾玉を長い緒に貫き通した玉飾り)を作らせた。
 この勾玉は、天照大御神と須佐之男命がうけひをした時に天照大御神が身に着けていた勾玉を物(もの)種(ざね)として生まれた正(まさ)勝(かつ)吾(あ)勝(かつ)勝(かち)速(はや)日(ひ)天(あめ)之(の)忍(おし)穗(ほ)耳(みみ)の命(みこと)(この四代後の子孫が初代神武天皇)の象徴としての勾玉(五(い)百(ほ)津(つ)のみすまるの珠(たま)=思いやりの象徴)である。
 以上によって、やがて天皇の皇位の印となる「三種の神器」のうち鏡と勾玉の二つが揃ったのである。
 そして、天(あめの)兒(こ)屋(やね)の命(みこと)(中(なか)臣(とみ)氏の祖先)、布(ふ)刀(と)玉(だま)の命(みこと)(忌(いみ)部(べ)氏の祖先)をお呼びになって、天(あめ)の香(かぐ)山(やま)の眞(ま)男(を)鹿(しか)(雄鹿)の肩の骨を内(うつ)拔(ぬき)に(そっくりそのまま)拔(ぬ)き取って、天(あめ)の香(かぐ)山(やま)の天(あめ)のははか(桜)を取ってきて、その骨を焼いて占わせて、次のように始まるにぎやかなお祭りの準備をしたのである。
 天(あめ)の香(かぐ)山(やま)のよく茂っている榊を根こそぎ掘り抜いてきて、上の方の枝に八(や)尺(さか)の勾(まがたま)の五(い)百(ほ)津(つ)の御(み)須(す)麻(ま)流(る)の玉(たま)を取り付けて、中ほどの枝に八(や)尺(た)の鏡を取り付け、下の方の枝に楮(こうぞ)(クワ科の植物)の白い幣(ぬさ)(神に祈る時に捧げ、祓いに使う布や麻などを切って垂らしたもの)と麻の青い幣(ぬさ)を取り垂らした。
 以上の形が日本の国の基本的な統治構造(国柄・国体)である。すなわち、上の方の枝に勾玉が飾られているのは、日本の統治者(その時々における天照大御神の代理人として後の日本人の幸せを祈っておられる御存在)が後の天皇であることを表しており、中ほどの枝に鏡が飾られているのは、永遠に日本の中心に居て後の日本人を慈しみの心で見守っている天照大御神であることを表しており、下の方の枝に幣(ぬさ)(神に祈る時に捧げ、祓いに使う布や麻などを切って垂らしたもの・すなわち国民の思いの象徴)が飾られているのは、後の日本の国民は国民を大御宝と捉え慈しみの心で見守っている天照大御神とその時々における天照大御神の代理人として後の国民の幸せを毎日祈っておられる後の天皇を心から尊崇し感謝していることを表しているのである。
 この見事な供え物を布(ふ)刀(と)玉(だま)の命(みこと)(忌(いみ)部(べ)氏の祖先)が神に献上する尊い幣(ぬさ)として捧げ持ち、その捧げ持った榊の前で天(あめの)兒(こ)屋(やね)の命(みこと)(中(なか)臣(とみ)氏の祖先)が尊い祝詞(のりと)をを言(こと)祝(ほ)ぎ申しあげた。
 そして、天(あめの)手(た)力(ぢから)男(を)の神(かみ)(腕力の神)が天照大御神がお隠れになっている天の岩屋戸の脇に隱(かく)れて立ち、天(あめの)宇(う)受(ず)賣(め)の命(みこと)(踊り手で猿(さる)女(めの)君(きみ)の祖神)が天(あめ)の香(かぐ)山(やま)の聖なる日(ひ)陰(かげの)蔓(かずら)を襷(たすき)にかけて、聖なる真(まさ)析(きの)葛(かずら)を髪飾りにして、天(あめ)の香(かぐ)山(やま)の笹の葉を束ねて手に持って、逆さまにした桶を踏み鳴らして、神(かむ)懸(がか)りして、胸の乳房を露わに出して、衣装の紐を陰部までおし垂らした。すると、高天原がどよめくように、神々がどっと笑ったのである。

【書き下し文】
是(ここ)に天照大御神、怪(あや)しと以爲(おも)い、天(あめ)の石(いわ)屋(や)の戸を細く開きて、内に、「吾(あ)が隱(こも)り坐(ま)すに因(よ)りて、天(あまの)原(はら)自(おの)ずから闇(くら)く、また葦(あし)原(はらの)中(なかつ)國(くに)皆(みな)闇(くら)しと以爲(おも)うに、何(なに)の由(ゆえ)にか天(あめの)宇(う)受(ず)賣(め)は樂(あそび)を爲(し)、また八百萬の神は諸(もろもろ)咲(わら)ふ」と告(の)りたまひき。爾(しか)くして天(あめの)宇(う)受(ず)賣(め)、白(まを)して、「汝(な)が命(みこと)に益(ま)して貴(たつと)き神(かみ)坐(いま)す故(ゆえ)に、歡喜(よろこ)び咲(わら)ひ樂(あそ)ぶ」と言(まを)しき。如(か)此(く)言(まを)す間(ま)に、天(あめの)兒(こ)屋(やね)の命(みこと)、布(ふ)刀(と)玉(たま)の命(みこと)、其(そ)の鏡を指(さ)し出(いだ)し、天照大御神に示し奉(まつ)る時に、天照大御神、逾(いよい)よ奇(あや)しと思ひて、稍(ようや)く戸より出(い)でて臨(のぞ)み坐(ます)す時に、其(そ)の隱(かく)り立てる天(あめの)手(た)力(ぢから)男(を)の神、其(そ)の御(み)手(て)を取りて引き出(い)だすに、即(すなわ)ち布(ふ)刀(と)玉(だま)の命(みこと)、尻(しり)くめ繩(なわ)を以(も)ちて其(そ)の御(み)後(しり)方(へ)に控(ひ)き度(わた)し、白(まを)して、「此(これ)より内(うち)に還(かへ)り入るを得(え)じ」と言(の)りたまひき。故(かれ)、天照大御神、出(い)で坐(ま)しし時、高(たか)天(あま)原(はら)及び葦(あし)原(はらの)中(なかつ)國(くに)自(おの)ずから照(て)り明(あか)るを得(え)たり。

〇通釈(超釈はない)
 神々の笑い声を聞いた天照大御神は、不思議に思い天(あめ)の石(いわ)屋(や)の戸を細く開いて、岩屋の内側から、「わたしがここに籠もっているので、高天原は真っ暗になり、日本も世界も宇宙全体が真っ暗闇になっているはずなのにどうして天(あめの)宇(う)受(ず)賣(め)は歌いながら踊り、また神々は楽しそうに笑っているのだ」とおっしゃった。すると、天(あめの)宇(う)受(ず)賣(め)は、「貴女よりももっと尊い神様がいらっしゃいますので、みんなは喜んで笑い踊っているのです」と申しあげた。
 このように申し上げている間に、天(あめの)兒(こ)屋(やね)の命(みこと)と布(ふ)刀(と)玉(たま)の命(みこと)は榊に取り付けた天照大御神の象徴としての鏡を岩屋戸の中に差し入れると、天照大御神はその鏡を覗き見た。すると、鏡の中に自分と同じような姿形の神々しい太陽神が映っているので、ますます、あやしいと思って、岩屋戸からゆっくりと外を覗こうとした時に、岩屋戸の脇に隠れていた天(あめの)手(た)力(ぢから)男(を)の神が、天照大御神の御(み)手(て)を掴んで岩屋戸の外ヘ引き出すと、すかさず布(ふ)刀(と)玉(だま)の命(みこと)が、後方にしめ縄を張って「これより中へ入ってはなりませぬ」と申し上げた。
 このようにして、天照大御神が天の岩屋戸から出て来たので、高天原を始めとして日本に世界に宇宙全体に、再び日がさして明るくなったのである。

天の岩屋戸のまとめ

〇陽の神様の役割
 天照大御神がお隠れになってしまったので、高天原は真っ暗になり高天原の神々は暗闇に包まれた。高天原の神々は困り切ってしまい、陽の神様(シナリオを描く神様)である高(たか)御(み)産(む)巣(す)日(ひ)の神の御子である思(おもひ)金(かね)の神(高(たか)御(み)産(む)巣(す)日(ひ)の代理として一つのシナリオが行き詰まった時に新しいシナリオを考える知恵の神様)が対策を考えることになった。
〇日本の国の基本的な統治構造(国柄・国体)の提示
 思(おもひ)金(かね)の神は先ず、常(とこ)世(よ)の長(なが)鳴(なき)鳥(どり)(世界が真っ暗闇になって困って鳴いている生き物たち)を集めてきて、世界中の生き物がどんなに困っているかを鳴いて示させた。そして、伊(い)斯(し)許(こ)理(り)度(ど)賣(め)の命(みこと)(石型に溶鉄を流し固めて鏡を鋳る老女)に言いつけて、鏡を作らせた。この鏡は天照大御神の象徴で、これから天照大御神を根源神として実行神須佐之男命とその末裔である大国主神により開拓される日本の国の基本的な統治構造(国柄・国体)の中心に置かれるものである。
 次に、玉(たまの)祖(おや)の命(みこと)(玉(たまの)祖(おやの)連(むらじ)の祖先)に言いつけて、八(や)尺(さか)の勾(まがたま)の五(い)百(ほ)津(つ)の御(み)須(す)麻(ま)流(る)の珠(たま)(多くの勾玉を長い緒に貫き通した玉飾り)を作らせた。この勾玉は、天照大御神と須佐之男命がうけひをした時に天照大御神が身に着けていた勾玉を物(もの)種(ざね)として生まれた正(まさ)勝(かつ)吾(あ)勝(かつ)勝(かち)速(はや)日(ひ)天(あめ)之(の)忍(おし)穗(ほ)耳(みみ)の命(みこと)(この四代後の子孫が初代神武天皇)の象徴である。
 以上によって、やがて天皇の皇位の印となる「三種の神器」のうち鏡と勾玉の二つが揃った。
〇天の岩屋戸で行われた儀式
 思(おもひ)金(かね)の神は天(あめの)兒(こ)屋(やね)の命(みこと)(中(なか)臣(とみ)氏の祖先)、布(ふ)刀(と)玉(だま)の命(みこと)(忌(いみ)部(べ)氏の祖先)を呼び、天(あめ)の香(かぐ)山(やま)の眞(ま)男(を)鹿(しか)(雄鹿)の肩の骨を内(うつ)拔(ぬき)に(そっくりそのまま)拔(ぬ)き取って、その骨を焼いて占わせて、次のように始まるにぎやかなお祭りの準備をした。そして、天(あめ)の香(かぐ)山(やま)のよく茂っている榊を根こそぎ掘り抜いてきて、上の方の枝に八(や)尺(さか)の勾(まがたま)の五(い)百(ほ)津(つ)の御(み)須(す)麻(ま)流(る)の玉(たま)を取り付けて、中ほどの枝に八(や)尺(た)の鏡を取り付け、下の方の枝に楮(こうぞ)(クワ科の植物)の白い幣(ぬさ)(神に祈る時に捧げ、祓いに使う布や麻などを切って垂らしたもの)と麻の青い幣(ぬさ)を取り垂らした。
 以上の形が日本の国の基本的な統治構造(国柄・国体)である。上の方の枝に飾られている勾玉は、日本の統治者(天照大御神の代理人として後の日本人の幸せを祈っておられる御存在)である後の天皇であり、中ほどの枝に飾られている鏡は、永遠に日本の中心に居て後の日本人を慈しみの心で見守っている天照大御神である。下の方の枝に飾られている幣(ぬさ)(神に祈る時に捧げ、祓いに使う布や麻などを切って垂らしたもの)は、後の日本国民を大御宝と捉えて慈しみの心で見守っている天照大御神と後の天皇を、後の日本国民が心から尊崇し感謝していることを表している。

〇天の岩屋戸に登場し、天孫降臨の際、従者として降臨した神々
 思(おもひ)金(かね)の神(高(たか)御(み)産(む)巣(す)日(ひ)の代理として新しいシナリオを考える知恵の神様)
 伊(い)斯(し)許(こ)理(り)度(ど)賣(め)の命(みこと)(石型に溶鉄を流し固めて鏡を鋳る老女)
 玉(たまの)祖(おや)の命(みこと)(玉(たまの)祖(おやの)連(むらじ)の祖先)
 天(あめの)兒(こ)屋(やね)の命(みこと)(中(なか)臣(とみ)氏の祖先)
 布(ふ)刀(と)玉(だま)の命(みこと)(忌(いみ)部(べ)氏の祖先)
 天(あめの)兒(こ)屋(やね)の命(みこと)(中(なか)臣(とみ)氏の祖先)
 天(あめの)手(た)力(ぢから)男(を)の神(かみ)(腕力の神)
 天(あめの)宇(う)受(ず)賣(め)の命(みこと)(踊り手で猿(さる)女(めの)君(きみ)の祖神)

須(す)佐(さ)之(の)男(おの)命(みこと)の追放

□あらすじ
 天照大御神がお隠れになった原因となった須佐之男の命の蛮行を罰して、その罪や穢(けが)れを祓(はら)うために、須佐之男は高天原から追放された。

【書き下し文】
是(ここ)に八(や)百(お)萬(よろず)の神、共に議(はか)りて速(はや)須(す)佐(さ)之(の)男(お)の命(みこと)に千(ち)位(くら)の置(おき)戸(ど)を負わせ、また鬚(ひげ)と手足の爪を切り祓(はら)へしめて神(かむ)やらひやらひき。

〇通釈
 天照大御神が天の岩屋戸にお隠れになったのは、須佐之男命の蛮行が原因であった。そこで、高天原の神々が相談して、須佐之男命に犯した罪や穢れを祓うために沢山の品物(まがい物)を背負わせて、髭を切り、手足の爪を抜いて、高天原から追放するという天罰を下したのである。

〇超釈
 通釈は表向きの話である。実態は、農業と産業の関係を研究するためとはいえ、自分の蛮行によって機織りの女性が亡くなってしまったことを心から反省した須佐之男命が自ら天罰を下して、沢山の品物(まがい物)を背負い、髭を剃り、手足の爪を抜いて、高天原を離れて、伊邪那岐の命から授かった天命(日本の国土の開拓)を実行するために、出雲国に向かったのである。

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