四十八.古井戸から清水を汲み出す時
かつて栄えた小さな街があった。近代化が進む中で若者が街を出ていくようになり、段々人が減っていった。やがて年寄りだけの街となり、郵便局などの公共機関も職場もお店もなくなっていき、ゴーストタウンのようになった。けれども、豊かな自然と情緒ある町並み、歴史的な家屋が残っていたので、小さな役所が旗を振って街を再興する動きが始まった。企業を誘致して街の基盤だった産業を復興し、予算を確保し傷んだ道路や電力を整備して人々が暮らせる環境を整えた。居住者を募集したら定数を遙かに上回る応募があった。以上が「古井戸から清水を汲み出す時」の一例である。
「古井戸から清水を汲み出す時」の主人公は江戸時代に創業され地元の人々に愛されていたが後継者不在で閉店した古書店の復興に取り組んでいる「あなた(わたし)」である。
昭和の時代は日本中に沢山の古書店があった。子供の頃から本好きだったわたしは暇さえあれば古書店に通っていた。店主の高齢化が進行して平成に入ると段々数が減っていき、令和の今は東京神田の古書店街などを除いて、古書店の姿はほとんど見なくなった。地方では絶滅状態に近くなった。わたしは地方の県庁所在地に生まれた。城下町として栄えた街なので沢山の古書店があった。中でも江戸時代創業の老舗「高島屋書店」は別格だった。江戸時代に建設された建物は戦災を免れて国指定の文化財に認定され、観光名所としても知られていた。閉店する前は東京神田の老舗古書店で修行を積んだ八代目店主が他に類を見ない古書収集力を備えていたので全国から本好きがが押し寄せた。八代目には子供がいなかったので、後継者を探していたが、不慮の事故で突然亡くなってしまい、店を継ぐものがいなかった。地域の資産なので役所も何とかしようと動いたが、結局後継者は見つからず、文化財として役所が管理することになった。建物としての価値は保全されたが古書店としての魅力は失われて、以前のように全国から人が押し寄せることはなくなった。以下省略。