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時の物語(易経短編小説集・近日中に出版予定)45

四十四.悪魔が忍び込む時

 悪魔が近付いてくれば誰もが逃げるだろう。だが、「悪魔が忍び込む時」の悪魔は悪魔には見えないから手に負えない。悪魔に見えないどころか「天使」や「妖精」に見えたりする。わたしたちの前に魅力的な姿で現れるのだ。あまり優秀ではない人たちの集団に優秀な人が現れたり、男ばかりの集団の中に魅力的な女性が現れたり、甘いものを控えている人の前に美味しそうなスイーツが現れたりするのだ。誰もが手を出したくなるが、うっかり手を出そうものなら組織を乗っ取られたり、かき乱されたり、ダイエットでスリムになった身体が反動で太ったりするのである。突然目の前に「天使」や「妖精」のような魅力的な人物や物事が現れたら、疑ってかかる必要がある。それが「悪魔が忍び込む時」である。

 「悪魔が忍び込む時」の主人公は明治時代に創業した日本に古くから伝わる古典を分かりやすく解説することで定評のある月刊「天命」を長年発行している出版社「日本の心」に勤務している沢山の「あなた(わたし)」である。

 出版社「日本の心」は明治二十三年「教育勅語」が発布された翌年に日本古典研究者菅原高天によって創業された。明治に入り急激に西洋化が進み古くから指導者層に学ばれてきた日本古典が忘れ去られて、日本的道徳心が軽視され社会秩序が乱れていることをご心配された明治天皇の命令によって「教育勅語」が新時代の国際社会にも通じる人類共通の道徳律として打ち立てられたことに感銘を受けた菅原高天が日本古典を守るために創設したのが出版社「日本の心」である。菅原高天の先祖には著名な菅原道真が居るが、菅原家は代々皇室につながる学者の家系である。明治維新により西洋化を進める政府の意向で日本古典を研究している菅原家と皇室のつながりは断ち切られてしまった。このままでは日本古典の研究者が減少して、やがては日本古典が衰退してしまう、と考えた菅原高天(以下「高天」と略す)は日本古典の維持普及と研究者の確保を目的に毎月「天命」という月刊誌を発行することを決意して明治二十四年出版社「日本の心」設立と同時に月刊「天命」の発行を始めた。以下省略。

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