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時の物語(易経短編小説集・近日中に出版予定)41

四十.困難が解決した時

 困難とは「三.新しいものを産み出す時」「二十九.人生で最も辛い時」「三十九.立ち止まって考える時」で経験した困難である。これらの困難が解決した時に何をなすべきかが「困難が解決した時」に書いてある。残念ながら、ほとんどの場合、完全に困難が解決することはない。何らかの課題が残されているものだ。
 大きな困難が解決した時に残された小さな課題である。これを見逃してはならない。如何に早くその小さな課題を見つけて対処することが大事である。

 「困難が解決した時」の主人公は、「立ち止まって考える時」に登場したに創業三百年の歴史を誇る地方の老舗企業「江戸屋」で専務を務めている「あなた(わたし)」である。

 わたしは生まれ育った故郷で三百年前に創業して伝統的工芸品を製造販売している江戸屋で専務を仰せつかっている。江戸屋は創業以来今日に至るまで地元の人々に親しまれている企業でわたしも小さな頃から知っていた。地元の本店を拠点に東京に支店も出し、最近ではネットショップで全世界にわが故郷の伝統的工芸品を販売している。わたしは大学卒業後、しばらく東京の会社で働いていたが、都会の生活は肌に合わず故郷に戻り「江戸屋」に中途採用して頂いた。「思いやり」を社風とする江戸屋の仕事はわたしの肌に合っており、利益追求に終始する東京の会社で働いていた時とは比べようがないほど充実した人生を歩ませていただいている。だから毎日仕事がおもしろくて、そして人生もおもしろくて、無我夢中で仕事をさせていただいた。気が付くと五十半ばを過ぎており、有り難くまた過分なことに今は専務取締役を仰せつかって、創業家の社長・会長と共に役員として仕事をしている。
 「三十九.立ち止まって考える時」に詳しく書いてあるが、二十年ほど前から「思いやり」を社風とする江戸屋の人材確保が年々難しくなっており、十八代目の社長が就任してから抜本的な対策を打つことになった。これまで入社後三ヶ月の期間で実施してきた新入社員研修のあり方を抜本的に見直して、入社した年は現場の業務には就かず役員補佐担当という部署で一年間役員から直接「思いやり教育」を受けることになった。戦後の詰め込み教育で育った新入社員は「思いやり」について何も学んでいない。これまでは現場の仕事を担当しながら研修を受けていたので、時間的・精神的な余裕がなく「思いやり」とは何かを心から理解するには至らなかった。以下省略。

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