三十六.暗君が支配する時
組織や社会には暗君に支配される時がある。家庭や会社が暗君に支配された場合は組織は崩壊の憂き目に遭うが、他の家庭や会社に被害は及ばない。ところが、社会や国家が暗君に支配されると被害は甚大である。近年の歴史を見てもヒトラーに支配されたドイツ、スターリンに支配されたソ連、お隣の北朝鮮では今も暗君が支配している。このような状態に陥るのは一種の異常事態である。異常事態の中に置かれると正しいことが通じなくなる。それどころか正しいことを主張すると弾圧されたりする。異常事態の中で無事に生きていくためには無知・無能を装って愚昧に徹するしかないのである。
「暗君が支配する時」の主人公は大東亜戦争敗戦後、GHQという善良を装った暗君に七年近く支配され、その影響下からまだ抜けない日本に暮らす「あなた(わたし)」である。
わたしは平成生まれで今年三十になる。小学生の頃までは社会に対する問題意識を持っていなかったが、日本の歴史にはとても興味があった。父が読書家で家に沢山の書籍があり、週末は小さな書斎に籠もっている姿を見て、書斎の本棚に並んでいる本の中から小学生でも読めそうな日本の歴史の本を探して寝る前に読書するようになった。夕食の時に父が母に今の日本社会の問題点をよく話していたが、何が問題なのかがよく分からなかった。中学生になると読書することが習慣となり、毎月十~二十冊くらいの本を読むようになった。こんなわたしの姿を見て、父は「そんなに歴史が好きなら、この本がお勧めだよ」と何冊も本を渡してくれるようになった。家にある本を読めば読むほど「今の日本は何者かに支配されているのでは?」と疑問を持つようになった。そもそも学校で学んでいる日本の歴史と父が勧める歴史の本に書いてあることが違うのだ。正反対のことが書いてある本すらある。夕食の時にそんな疑問を父に話すと、父は「中学生なのによく気が付いたね。お父さんが中学生の時には学校の授業を鵜呑みにして日本は悪い国だと思い込んでいたよ」と言った。以下省略。